才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

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第1章

第43話:王国の闇に触れる

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翌日。
蒼真は早朝から王都の街へと足を運んでいた。
仮面を持参し、必要なときだけ顔を隠すようにしながら、人々の波に紛れて歩く。

目指すは、情報。
魔族の地へ通じる手がかり。

「よそ者が魔族の地を目指してるなんて言えば、まず警戒されるよな」

蒼真は独り言のように呟きながら、まずは人が集まる港の情報屋を回った。
だが、どの店でも返ってくるのは同じような答えだった。

「魔族の地? ああ、南の山脈の向こうだろうが……今は通行証がなきゃ近づけもしねえよ」

「聞いたことはあるけど、道は封鎖されてるはずだ。そっち方面は封境区域だし、行く奴なんていねぇよ」

「冗談は顔だけにしてくれや。魔族なんざと関わったら命がいくつあっても足りねえぜ」

蒼真は内心でため息をつく。

(……やはり、正式な道はすべて閉じられてる)

続いて、冒険者ギルドに足を運び、地図や古い航路の情報も確認してみた。
だが、南方の領域。魔族の支配地とされる場所は、いずれの記録からも詳細が消されていた。

(抹消されてる。王国が意図的に情報統制してるってことか)

蒼真はギルドの壁に貼られた注意書きに目を留めた。

――《封境区域への無断侵入を禁ず》
――《違反者は処罰対象とする》

誰がどう見ても、立ち入りは不可能という扱い。
だが、蒼真は静かに目を伏せ、心の中で思う。

(……じゃあ、正攻法じゃない手段を使うしかない)

それが“禁じられた道”であっても、
それが“闇の情報”であっても――

彼には、行く理由がある。

(師匠との・・・羅刹丸との約束だ。必ず魔族の地に行く!)

蒼真は静かにギルドを出て、仮面をかぶる。
人目を避けるようにして、裏通りへと足を踏み出す。

(……裏の連中に、話を聞くしかない)

まともな道では辿り着けない。
ならば、影の道を選ぶまでだ。

王都の陽が沈みかける頃。
夕闇が街を包み、華やかな通りの明かりが灯りはじめる一方で、蒼真は人通りの少ない裏通りを歩いていた。

背筋に冷えた風が抜ける。
仮面を手に、蒼真は表の顔を捨てるようにして、王都の影へと足を踏み入れる。

(裏の連中……つまり、情報屋、密売人、逃亡者、あるいは……犯罪者)

いずれにしても、普通の旅人では辿り着けない情報を握る者たちだ。

(こういうのは、まず紹介がないと情報を得るのは無理だ。となればそういう者が集まりそうな場所を探すか)

蒼真は王都の西区の一角を目指した。
ここは、海賊崩れや密輸業者が流れ着く場所であり、表向きはただの廃倉庫群。
だが、噂ではなんでも屋や抜け道の案内人が潜んでいるとも言われていた。

やがて、潮の香りと魚の腐臭が混じる狭い路地に入る。
瓦礫と荷台が積まれた路地の奥。廃船を改装したような小さな酒場の明かりが、ぼんやりと灯っていた。

扉の前まで来ると、中から低い笑い声と、酒の臭いが漂ってきた。

(ここか……)

蒼真は、静かに扉を開けた。
中は薄暗く、木の壁にはナイフの跡が刻まれ、数人の粗暴そうな男たちが椅子に座っていた。誰もが一瞥をくれるが、誰も声をかけてはこない。
ただ、その場の空気がわずかに引き締まった。

(……歓迎されてはいない、か)

蒼真は動じず、カウンターの端に腰を下ろす。
酒場の主らしき、片目の男がゆっくりと近づいてくる。

「……珍しいな。よそ者がここに来るとは。物好きな客人か、それとも……死にたがりか?」

その言葉に、蒼真は冷静な声で応えた。

「向こう側に行きたいだけだ。……南の封境。魔族の地への道を探してる」

一瞬、店の空気が凍った。
椅子の軋む音も、笑い声も、すべてが止まる。
片目の男は、しばらく蒼真を睨んでいたが、やがて口の端をゆがめた。

「……なるほど。肝は据わってるようだな。だが、ここは酒場であって案内所じゃねぇ。そういう話を通したいなら――」

男はカウンターの奥、薄闇に沈んだ扉を顎で示した。

「向こうで話を通せ。うまく話がまとまれば、お前が求める道も、わずかだが開けるかもしれねぇ。だが、妙な動きを見せれば、その瞬間に命はないと思え」

低く抑えた声には、躊躇のない警告と、裏の世界の掟がにじんでいた。

蒼真は無言で頷くと、ゆっくりと立ち上がった。仮面の内側で息をひとつ、静かに吐き出す。

(……やはり、簡単にはいかないか)

これから会うのは、表の社会では決して名が出ることのない者。
裏の情報網に通じる、その中でもさらに奥深く王国の影にひそむ「本物の闇」。
そこに触れるということは、二度と陽の当たる場所には戻れないかもしれない危険と隣り合わせだった。

だが、それでも行く。
魔族の地へと至る道が、闇の中にしか存在しないのなら、
彼はその闇すらも突き抜けてみせる覚悟を決めていた。
たとえ、その先に待つのが破滅と後悔しかなかったとしても。

「……行くよ、羅刹丸。僕は、あなたの故郷をこの目で見る」

絶望の底にいた自分に、剣を授けてくれた恩人。
戦い方だけじゃない。生き方を、背中で教えてくれた人。
だからこそ、彼が遺していったものを、逃げずにこの手で確かめたい。

たとえ辿り着いた先が、魔の血脈が蠢く禁断の大地であったとしても。
もう怖くはない。知らずに終わることこそが、何より恐ろしい。

命を懸けるだけの価値が、そこにはある。
これは恩に報いるための旅路であり、
同時に、僕自身が進むべき道を見極めるための一歩でもあるのだから。
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