才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

文字の大きさ
45 / 96
第1章

第45話:セリスと合流(朱音side)

しおりを挟む
城壁に囲まれた王都《リグゼリア》。
その中心に広がる迎賓の広間に、静かな足音が響いた。

扉が開き、ローブをまとった聖女セリスが静かに足を踏み入れる。
その気配に、先に到着していた一行が振り返った。

「……やっと来たか」

先に声を上げたのは、王国に召喚された勇者――瀬名隼人(せな はやと)。
どこか飄々とした雰囲気をまといながらも、その目は真っすぐセリスを見据えていた。

「お待たせしました。聖女セリス。リグゼリア王国に到着しました」

セリスは静かに頭を下げる。
その背後から、もうひとつの明るい声が響いた。

「あなたが聖女かぁ。やっと会えたね」

屈託のない笑みで近づいてきたのは、ポニーテールが揺れる少女。早乙女朱音だった。

「私は早乙女朱音。よろしく」

「私は綾小路紫苑です。よろしくお願いしますね」

一緒に静かに一礼したのは、整った顔立ちに冷たい気品を漂わせる少女、綾小路紫苑。

「東雲美咲でーす!聖女さんとは縁がないかと思ってたけど、こうして会えるとちょっと感動~」

無邪気な笑顔で手を振ったのは、軽やかな動きの元盗賊剣士、東雲美咲。
セリスは一人ひとりに丁寧に会釈を返す。

「初めまして。こうして面と向かってお話できるのを、私も嬉しく思います」

その端正な物腰に、朱音は小さく口を感心した。

「思ったより感じ悪くない人で良かった。もっとツンとした人かと思ってた」

「……期待を裏切ってしまったのなら、申し訳ありません」

セリスはわずかに微笑みながら、柔らかく返す。
その絶妙な切り返しに、朱音が思わず「うぐっ」と言葉に詰まる。

隼人はそんなふたりを眺めながら、楽しげに肩をすくめる。

「ま、これでやっと全員集合ってわけだ。ここからが本番だな」

セリスは小さく頷き、表情を引き締めた。

「……ええ。これから開かれる《連合会議》にて、私たちはただの来訪者ではなく、この世界の未来を問われる者となるでしょう。どうか、共に力を合わせて――」

「お、おいおい、急に堅いな? 今のセリフ、ちょっと中ボス感あったぞ?」

隼人の軽口に、場の空気がわずかに和む。
そして、勇者たちと聖女、五人の顔ぶれがそろったその瞬間から
運命の歯車は、大きく回り始めようとしていた。

歓迎の挨拶もひと段落し、各自が少しずつ場の空気に馴染み始めた頃、
聖女セリスは、ひとり窓際で外を眺めていた早乙女朱音に静かに近づいた。

「……朱音さん」

声をかけられ、朱音は振り返る。

「朱音でいいよ、どうしたの?」

「ええ。少し、お話してもいいでしょうか」

「別に構わないけど」

朱音は少し特に警戒することもなく了承した。
セリスは静かに一歩近づき、優しく微笑む。

「実は、あなたのことは少し聞いていました。――蒼真から」

その名前が出た瞬間、朱音の目がわずかに鋭くなる。

「……蒼真を知ってるの?」

「はい。……彼とは、しばらく一緒に暮らしていました。あなたの道場で」

朱音の眉がぴくりと動いた。

「……道場で暮らしてた?あいつとどういう関係なの?」

「関係、と言われると難しいのですが……彼に救われたことがありました。以来、助け合いながら過ごしていたのです」

「……そうなんだ」

「蒼真さんから、あなたの名前だけは何度か口にしていました。とても、大切にしているのだと感じました」

朱音はしばらく黙ったまま、窓の外に目をやった。

「……そう。あいつがそんな事を言うなんて、ちょっと意外だな」

セリスは朱音の心の揺れを感じ取りながら、静かに言葉を添える。

「あなたに彼の事を離したらどんな顔をするだろうと……少しだけ、楽しみにしていたんです」

朱音はふっと小さく笑った。

「……ふーん。まぁ私の方が関係はずっと長いけどね」

その笑みの裏には、焦りとも嫉妬ともつかない感情が、かすかに滲んでいた。

(彼とは、しばらく一緒に暮らしていました)

セリスが穏やかにそう言ったとき、朱音の中に何かが小さく弾けた。

その場では笑顔を崩さず、「へえ」と流した。
けれど、胸の奥では。
言葉にできない“ざらり”とした感情が、静かに波紋を広げていた。

(……一緒に暮らしてた?)

蒼真のことを考えるとき、朱音の中にあるのはいつも道場の光景だった。
無骨で、熱くて、時にバカみたいで真っ直ぐで。
そんな蒼真らしさを、誰よりも近くで感じてきたという自負があった。

だからこそ、セリスのその一言が、予想以上に引っかかっていた。

(なに? 一緒にご飯食べて、一緒に寝て、隣で過ごしてたってこと?)

理屈じゃない。
ただ、むかむかする。
朱音は言葉にできないその感情の正体を探ろうとして、眉をひそめる。

(べつに、そんなのどうでもいい……はずなのに)

苦しいわけじゃない。
悔しいわけでもない。
なのに、胸がぎゅっと詰まるような違和感がずっと消えない。

(……そうか。私が知らない蒼真がいる)

そのことが、何よりも腹立たしかった。

(誰よりも近くにいたと思ってたのに……知らない顔があるなんて)

しかも、それを口にする相手が――あんなに整った顔で、上品な口調で、蒼真のことを語るセリスという存在だったことも、余計に朱音の神経を逆なでしていた。

自分の知らないところで、
蒼真が誰かと一緒にいたこと。
その誰かが、こんなにも静かで、綺麗で、気品まで備えていて――

(……だから、むかつくんだ)

ようやく、自分の中にある感情に輪郭ができた気がした。

――それは、嫉妬だった。

誰にも認めたくないし、何より自分自身がそれを否定したかった。
けれど、心は嘘をつけなかった。
朱音は小さく息を吐き、心の奥で強く決意する。

(次に会ったら……あいつ、ぜっっっったい折檻だからね!)

道場仕込みの拳と蹴り。
理由も理屈も関係ない。
全力で叩き込んでやるつもりだった。

どうしてそんなに胸がざわついたのか、その答えは、まだ朱音にははっきりと分かっていなかった。けれど、蒼真と再会したときにはきっと――否応なく、その気持ちと向き合うことになる。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

処理中です...