才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇

文字の大きさ
80 / 96
第1章

第80話:悲嘆の再会

しおりを挟む
蒼真の黒い氣が渦を巻き、刀が振り上げられる。
その切っ先は、恐怖に顔を歪めるレグナへと真っ直ぐ向けられていた。
雷獄槍は弾かれ、今のレグナにはもはや防ぐ術はない。

――このままでは、殺される。

「ひ、ひぃいいッ!」
レグナが喉の奥から悲鳴を上げた。
恐怖に駆られた獣のように後ずさる。足がもつれ、床石に躓き、無様に転げそうになりながらも距離を取ろうと必死だった。

「ま、待て……や、やめろ……! お、俺は……まだ死にたくねぇ……!」
震える声は、勇者としての威厳など欠片も残っていなかった

朱音は胸の奥を締めつけられる思いでその光景を見ていた。
レグナがどれほど粗暴で嫌悪すべき勇者であったとしても――蒼真に人を斬らせるなど、絶対にさせたくはなかった。

「やめて蒼真!!!」

朱音の声が闘技場に響いた。
次の瞬間、彼女は地を蹴り蒼真とレグナの間に身を投げ出す。
蒼真の刀が振り下ろされる寸前、朱音は両腕を大きく広げ、彼の前に立ちはだかった。黒い氣が頬をかすめ、髪を逆立てる。
だが、その瞳は一歩も揺らがず、蒼真を真っ直ぐに見据えていた。

「これ以上は……だめ! 蒼真に人殺しなんてさせない!!」

その叫びは、怒りとも祈りともつかぬ震えを帯びていた。
観客席の勇者たちは誰もがその光景に目を奪われる。

蒼真の刃先が朱音の眼前で止まる。
黒い氣がざわめき、刹那の沈黙が闘技場を支配した。

「朱音……」
低く、鋭い声。だがその奥に、一瞬の迷いが混じるのを朱音は確かに感じ取った。

朱音は震える声で叫んだ。
「蒼真……! こんな場所で、あんた……何をしてるのよ!」

朱音は息を荒げ、震える声でなおも叫んだ。

「ワノクニに残って……道場のみんなと修行していたんじゃないの!?
どうしてこんな場所にいるのよ!」

声には怒りよりも困惑と悲しみが滲んでいた。
彼女の瞳は、刃を振りかざしたままの蒼真をまっすぐに射抜く。

「それに……見た目まで変わって……。背丈も、雰囲気も……前のあんたと全然違うじゃない。なにがあったの……蒼真!」

観客席にいた隼人たちも、その言葉に息を呑む。
確かに蒼真は、ただ鍛錬を積んだだけでは説明のつかない変貌を遂げていた。纏う黒い氣は、もはや人間の域を超えた異質なもの。

だが、朱音にはそんなことよりも「彼がなぜここにいるのか」の方が重要だった。
かつて共に剣を交え、同じ道を歩んでいた仲間の・・・家族のはずなのに。

「答えてよ……蒼真……」

その言葉に蒼真の肩がわずかに震えた。
刀を握る手に力がこもり、そしてゆっくりと抜けていく。
刃先が下がり、黒い氣の奔流が静かに収束していった。

「……」

蒼真は何も言わなかった。
ただ、朱音の姿を見据えたまま、剣を下ろした。

観客席から押し殺したようなざわめきが広がる。
黒い氣が静まり、闘技場を覆っていた重苦しい圧がふっと消えた。
蒼真の周囲を覆っていた黒いもやも、いつの間にか霧散していく。

レンは大きく肩で息をしながら、震える声で言った。
「……き、消えた……。黒いもやも……殺気も……なくなった……」

アメリアも胸に手を当て、安堵の息を漏らす。
「ええ……終わったみたいね。少なくとも、もう誰かを斬る気配はないわ……」

二人の視線の先で、蒼真は剣を下ろし、ただ静かに朱音を見つめていた。
さきほどまで人ならざる威圧で場を支配していたその姿は、今はただの人に戻ったかのように見える。

レンは額の汗を拭い、呟いた。
「……なんなんだよ、あいつは……」
アメリアは答えず、ただ険しい表情で蒼真を凝視し続けていた。

静まり返った闘技場。
黒いもやが消え、蒼真は剣を下ろしたまま朱音を見つめていた。
その姿は、さきほどまでの圧倒的な殺気を欠き、まるで隙だらけに見えた。

その光景を、地に崩れ落ちていたレグナの目が見逃すはずもなかった。
「……へへ……チャンスだ……!」

口の端を吊り上げ、心の中で狂気じみた笑みを浮かべる。
彼は震える手で床に落ちていた雷獄槍を掴み取った。
電撃が再び槍身を走り、稲妻のような閃光が走る。

(今なら……奴は無防備だ……! この女ごと、串刺しにしてやる……!)

朱音が蒼真の前に立つ姿が、レグナにはかえって好都合に見えた。
彼女を盾にすれば、蒼真とて回避できない。
血と雷光が弾ける瞬間を想像し、レグナの瞳に狂気が宿る。

「死ねぇッ!!」

稲妻を纏った槍先が朱音と蒼真へと突き出される。

「なっ――レグナ!?」
「馬鹿な、何をしている!」

観客席の勇者たちが一斉に目を見開いた。
突き出された雷獄槍が朱音の背中へと迫る。

「朱音、逃げろッ!」
隼人が急いで声を張り上げる。

「……っ……!」
だが朱音は動けなかった。背中に迫る殺気に自分の足が、まるで地面に縫いつけられたように硬直していた。

次の瞬間――。

「……朱音に手を出す気か……貴様だけは絶対に許さない!」

低い声と共に、蒼真の姿がふっと掻き消える。
気づけば朱音の背後へと回り込み、黒い氣を纏った刀が閃いた。

雷獄槍が突き出される直前、蒼真の刃がレグナの両腕を薙ぎ払う。
斬撃の軌跡が閃光となり、稲妻を纏った両腕ごと雷獄槍が宙を舞った。

「ぎゃああああああああッ!!!」

レグナの絶叫が闘技場に響き渡る。
両腕を失った彼は痛みに身をよじり地をのたうちまわる。床石に叩きつけられた雷獄槍は雷鳴を散らし、制御を失った稲妻が四散して石壁を焼いた。

朱音は目を見開き、震える声を漏らした。
「そ、蒼真……」

勇者たちは誰も声を発せなかった。
ただ、無慈悲な一閃でレグナの両腕を斬り飛ばし戦闘不能に追い込みながらも、なおも冷然と立つ蒼真の背に言葉を失っていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

処理中です...