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第1章
第26話:神に選ばれざる刃
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観客席――。
場の熱気に飲まれる中でも、ひときわ静かに戦況を見つめていた二人の女性がいた。
聖女セリスと、蒼真の師でもある琴音である。
「……これは……」
セリスが思わず漏らしたその言葉は、信仰を重んじる彼女にしては珍しく、素の驚きを含んでいた。その透き通る瞳が、舞台で激しく交錯する蒼真と静流の姿を、まるで神託を見るかのように見つめている。
「氣の流れが……あんなにも綺麗にぶつかり合ってる。互いの氣が高め合って……」
彼女には視える。
人の魂のゆらぎ、氣の色。
蒼真の氣は、つい先日まではまだ荒く、どこか自分自身を恐れていた。
だが今、彼の氣は凛として迷いがなかった。
まるで一本の剣そのもののように。
その横で、琴音は腕を組み、息をひそめていた。
彼女の眉が深く寄っている。
「……とんでもないわね、あの子……」
目の前の戦いを、まるで信じられないといった面持ちで見つめていた。
(私が叩き込んだのは、あくまで基礎と型。
剣士としての土台を作ったに過ぎない)
だが、今の蒼真はその土台をもとに、自らの意思で形を作り、
それを戦場の中で磨き続けている。
静流という規格外の存在に臆するどころか、むしろ食らいつき、さらに一歩踏み込もうとしている。
「……一体、どんな鍛錬を積んできたらここまでの境地に……」
琴音は呟いたまま言葉を切った。
視線の先で舞う蒼真の剣。それは、もはやかつての少年のものではなかった。
踏み込み、捌き、氣の流れ……すべてが鋭く、そして研ぎ澄まされている。
(私が知っている蒼真は、あんな目をしていなかった)
何かを捨て、何かを得てきた目。
覚悟を背負った者の眼差しだった。
「……いや、元々あの子には才能があったのかもしれない。
魔族から受けたという過酷な修行が、その才能を一気に開花させた。
正直……見ていて、ちょっと嫉妬すら覚えるわ」
思わず口に出た言葉に、琴音自身が苦笑する。
(あの子、私が思ってる以上に化け物かもしれない)
師としての誇りと共に、戦慄にも近い感情が湧き上がってくる。
彼女は剣士として、そして人としても数多くの逸材を見てきた。
だが今の蒼真は、そのどれとも違った。
静流の剣を視て、そこから自分の剣を生み出そうとしている。
それは模倣ではなく、創造だ。
戦いの最中に進化を続ける。真に天賦の才を持つ者の特性。
「このままいけば……あの勇者にも勝てるかもしれない」
琴音の言葉に、セリスは驚いたように彼女を見た。
だが琴音は、冗談でも戯れでもなく本気でそう思っていた。
――蒼真は、今まさに天の頂へと歩み出そうとしている。
セリスは手を胸に当てたまま、言葉も出せずに蒼真の姿を見つめていた。
静流の剣を受け止め、読み、食らいついていく。
それはただの技術ではなかった。
氣の精度、精神の集中、そして意志の強さ。
神の選定を受けた者。勇者。
神意を宿す存在は、人の限界を超えた力を与えられる。
セリスはそれを目の当たりにしてきた。
それゆえ、思っていた。
人は神に選ばれなければ、世界を変えることなどできないと。
だが今、目の前で戦う蒼真の剣に、その絶対すら揺らぐ予感があった。
(……届くかもしれない)
(神に選ばれなくとも、あの人なら……)
胸の奥が熱を帯びた。
それは信仰ではなく、もっと個人的で、もっと深い確信だった。
(……しかも、今の彼は加護を使っていない)
セリスの心に、ひやりとした感情が走った。
蒼真の内に眠る、もう一つの力。
(あの人の中には、魔族の加護がある……)
聖なる氣とは相容れぬ闇の波動。
セリスは、その微かな名残を初めて会ったときから感じ取っていた。
だが蒼真は、加護の力を拒んだ。
今の未熟な自分には必要のない力だと、封じたまま歩いてきた。
それでも、今の彼はここまで登ってきた。
(ならば……もし、その力を使えば……)
神に選ばれぬ者が、神の使徒すら凌駕するかもしれない。
そんな未来を、セリスは恐ろしいほどに現実的なものとして感じていた。
(その力に傾き、魔族と手を取り合うようなことがあれば――)
それは世界を変える力になるかもしれない。
だが同時に、すべてを壊す剣にもなりうる。
セリスは、静かに目を伏せた。
(願わくば……あの人の剣が、正しき意志のまま振るわれますように)
祈りに似た想いが、彼女の胸に静かに広がっていった。
その想いは、もはや信仰に近かった。
神に祈るものではない。
ただ、一人の剣士。天城蒼真という存在への、切実な願いだった。
けれど同時に、彼女は思い出す。
――勇者との約束。
私は王国へと向かわなければならない。
それは避けられぬ運命。
だからこそ――
(今の彼が、どんな道を選ぶのか……私には、どうしようもなく気になる)
ただの義務や使命ではない。
胸の奥に芽生えたのは、もっと個人的で、もっと純粋な関心だった。
場の熱気に飲まれる中でも、ひときわ静かに戦況を見つめていた二人の女性がいた。
聖女セリスと、蒼真の師でもある琴音である。
「……これは……」
セリスが思わず漏らしたその言葉は、信仰を重んじる彼女にしては珍しく、素の驚きを含んでいた。その透き通る瞳が、舞台で激しく交錯する蒼真と静流の姿を、まるで神託を見るかのように見つめている。
「氣の流れが……あんなにも綺麗にぶつかり合ってる。互いの氣が高め合って……」
彼女には視える。
人の魂のゆらぎ、氣の色。
蒼真の氣は、つい先日まではまだ荒く、どこか自分自身を恐れていた。
だが今、彼の氣は凛として迷いがなかった。
まるで一本の剣そのもののように。
その横で、琴音は腕を組み、息をひそめていた。
彼女の眉が深く寄っている。
「……とんでもないわね、あの子……」
目の前の戦いを、まるで信じられないといった面持ちで見つめていた。
(私が叩き込んだのは、あくまで基礎と型。
剣士としての土台を作ったに過ぎない)
だが、今の蒼真はその土台をもとに、自らの意思で形を作り、
それを戦場の中で磨き続けている。
静流という規格外の存在に臆するどころか、むしろ食らいつき、さらに一歩踏み込もうとしている。
「……一体、どんな鍛錬を積んできたらここまでの境地に……」
琴音は呟いたまま言葉を切った。
視線の先で舞う蒼真の剣。それは、もはやかつての少年のものではなかった。
踏み込み、捌き、氣の流れ……すべてが鋭く、そして研ぎ澄まされている。
(私が知っている蒼真は、あんな目をしていなかった)
何かを捨て、何かを得てきた目。
覚悟を背負った者の眼差しだった。
「……いや、元々あの子には才能があったのかもしれない。
魔族から受けたという過酷な修行が、その才能を一気に開花させた。
正直……見ていて、ちょっと嫉妬すら覚えるわ」
思わず口に出た言葉に、琴音自身が苦笑する。
(あの子、私が思ってる以上に化け物かもしれない)
師としての誇りと共に、戦慄にも近い感情が湧き上がってくる。
彼女は剣士として、そして人としても数多くの逸材を見てきた。
だが今の蒼真は、そのどれとも違った。
静流の剣を視て、そこから自分の剣を生み出そうとしている。
それは模倣ではなく、創造だ。
戦いの最中に進化を続ける。真に天賦の才を持つ者の特性。
「このままいけば……あの勇者にも勝てるかもしれない」
琴音の言葉に、セリスは驚いたように彼女を見た。
だが琴音は、冗談でも戯れでもなく本気でそう思っていた。
――蒼真は、今まさに天の頂へと歩み出そうとしている。
セリスは手を胸に当てたまま、言葉も出せずに蒼真の姿を見つめていた。
静流の剣を受け止め、読み、食らいついていく。
それはただの技術ではなかった。
氣の精度、精神の集中、そして意志の強さ。
神の選定を受けた者。勇者。
神意を宿す存在は、人の限界を超えた力を与えられる。
セリスはそれを目の当たりにしてきた。
それゆえ、思っていた。
人は神に選ばれなければ、世界を変えることなどできないと。
だが今、目の前で戦う蒼真の剣に、その絶対すら揺らぐ予感があった。
(……届くかもしれない)
(神に選ばれなくとも、あの人なら……)
胸の奥が熱を帯びた。
それは信仰ではなく、もっと個人的で、もっと深い確信だった。
(……しかも、今の彼は加護を使っていない)
セリスの心に、ひやりとした感情が走った。
蒼真の内に眠る、もう一つの力。
(あの人の中には、魔族の加護がある……)
聖なる氣とは相容れぬ闇の波動。
セリスは、その微かな名残を初めて会ったときから感じ取っていた。
だが蒼真は、加護の力を拒んだ。
今の未熟な自分には必要のない力だと、封じたまま歩いてきた。
それでも、今の彼はここまで登ってきた。
(ならば……もし、その力を使えば……)
神に選ばれぬ者が、神の使徒すら凌駕するかもしれない。
そんな未来を、セリスは恐ろしいほどに現実的なものとして感じていた。
(その力に傾き、魔族と手を取り合うようなことがあれば――)
それは世界を変える力になるかもしれない。
だが同時に、すべてを壊す剣にもなりうる。
セリスは、静かに目を伏せた。
(願わくば……あの人の剣が、正しき意志のまま振るわれますように)
祈りに似た想いが、彼女の胸に静かに広がっていった。
その想いは、もはや信仰に近かった。
神に祈るものではない。
ただ、一人の剣士。天城蒼真という存在への、切実な願いだった。
けれど同時に、彼女は思い出す。
――勇者との約束。
私は王国へと向かわなければならない。
それは避けられぬ運命。
だからこそ――
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