異世界における英雄とアヴェンジャーのあり方は。

朱音めあ

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1章

経過 02

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「あっ、コハクさん!」

 シンキとの練習試合を終えたコハクが基地の受付ホールに行くと、フローラが手を振っているのが見えた

 フローラの隣には、センリの姿も見える。

 コハクも手を振り替えし、二人の傍へ駆け寄った。


「あれ? コハクさん、傷が付いてます。大丈夫ですか?」

 カギツキに模造刀で突き飛ばされた時に付いたのだろう、コハクの頬には擦り傷が付いていた。

「あ、これは・・・多分、昨日魔物にやられた傷かな」

 コハクは、なんとなく本当の事を話す事が気まずくなり、適当に誤魔化す。


「そういえば、コハクはランクBになったんだっけ?」

 センリがコハクに問いかける。

「あ、はい。でも魔物の動きが今までと全然違くてびっくりしました。特に6本脚の狼みたいな魔物なんだけど、あの魔物、凄い厄介で・・・」

「狼型の魔物ねぇ。あいつ、Bランク帯にいる魔物の中じゃ結構厄介なんだよなぁ。もし時間があれば、一緒にパーティ組んでコハクの手伝いをしたいんだけど、なんでも最近、魔物の数が増えたらしくてSランク地域から離れられなくて」


「そっか、センリさんたちはSランクなんでしたっけ・・・。僕とそんなに歳が変わらないのに、凄いです」

「何、単独でSSランク帯にまで行く許可が出る、化け物みたいに強い奴もいるけどな」

「そ、そんな人達もいるんだ、なんだか怖い・・・」

 苦笑いを浮かべるコハク。


「ははは、もし近くに赤髪ツーテールの少女がいたら、こんな陰話はしない事だ。本人に聞かれたらどうなるかわからないからな」

「赤い髪の少女、ですか?」

 相当な強さを持つ赤髪の少女と言えば、コハクにはシンキしか思い浮かばない。

 そんな彼女と練習試合をしていたと思うと、光栄な反面恐ろしさを感じるコハクであった。


「そういえばコハク。たまにシンキと訓練をしていると噂を聞いたが、本当か?」

「え、あ、はい。でもシンキさんが訓練したいと言うより、カギツキ隊長が僕の英雄の力を気にしていて、どのくらい成長したかを見たいって感じですかね・・・」


「なるほど。カギツキ隊長の前でシンキと試合か・・・そりゃあSランク帯に行くより怖いかもしれないな」

「まぁ、魔物と違って殺しに来る訳じゃないから良いですけどね」

 コハクは、あははと乾いた笑いを漏らす。

「でも、SSランク帯に単独で行けるなんて、シンキさん相当強いんですね。僕と戦うときはいつも手加減してるみたいで、底が全然見えないです」

「シンキといえば、ヴァーリア最強の剣士と言われてるからな。多分、魔法有りの戦いでもあいつは負けないだろうし」


「つまり、シンキさんは国で一位の兵士という事ですか・・・凄いです」

「ああ。ちなみに、シンキとかカギツキ隊長は、魔物討伐とは別の特別な任務が任されるらしいぞ」


「特別な任務ですか?」

「そう。例えば、王族の護衛。ヴァーリア国の姫様を護る任務とかな」

「へぇ、姫様の護衛ですか・・・そういえばヴァーリアの姫様って、まだ見た事ないです」


 ヴァーリアが君主制であることはコハクも知ってはいた。

 しかし休みなく兵士として働いて、魔物を倒す事ばかりを考えていたせいか、ヴァーリアの国状については殆ど知らないのであった。


「そうだな、姫様なんて滅多に見る事が出来る様な人じゃないしな」

「でも、姫様ってとっても綺麗な方なのですよ!」


 笑顔でそう言うフローラ。

 そんなフローラも十分に綺麗だと思うコハクであったが、そんな恥ずかしい事は間違えても口に出来なかった。



「あれ?センリさんじゃないですかー!」

 そこへ、見知らぬ女の子が現れた。


「ああ、ハルか。お疲れ様」

「ハルさん、お疲れ様」

「お疲れ様ですー。フローラさんもお疲れ様ー!」 

 ハルと呼ばれた少女は笑顔で挨拶を交わしながら駆け寄ってくる。


「あれ? そっちの人は新しいパーティのメンバーさんですか?」

 ハルという少女はコハクを指差す。

「えっと、コハクと言います。ランクはまだBなのでセンリさん達とパーティは組めないんですが・・・」

「ふーん、コハクさんですか。コハク、コハクねぇ・・・」

 ハルはじっとコハクを見ながら、何かを思い出そうとする様に首を傾げる。


「コハクさんってもしかして、英雄の力を持つ異界人のですか?」

「えっ、もしかして僕の英雄の力って、噂にされてるの?」

 コハクは自分が"英雄の力"を持つという事を、自慢するのも気が乗らなく、あまり周りに公言していなかった。 

 そのせいか、コハクが英雄の力を所持しているという話は、あまり周りでも聞くことが無かった。


「ちょっと前から"英雄の力"を持っている戦士が現れたって噂話は出てましたよ? でも、誰がその英雄なのかははっきりしてなかったんですよね。

なんかでっかい竜を召還する女の子が英雄だ、とかも言われてたみたいですけど、私はコハクって名前の人だって聞いてましてね?」


 竜を召還する少女とは、アルスフォードの事だろう。

 実力や印象で言えば、元々はただの凡人であるコハクよりもアルスフォードの方が断然に話題になるだろう。

 皆が、英雄の力を持つ者はアルスフォードだと思うのも無理は無い。


「それで、それで、貴方が本当に英雄の力を持っているコハクさんなんですか!?」

「うん、まぁ。そうなるかな・・・」

「やっぱりそうなんですか!? すっごい! ふむふむ、英雄の力を持っているって割には結構地味なんですね! ランクもBだし、なるほど、中々見つけられない訳だ」


「まぁ、あまり強くないから英雄の力があるって事はあまり言わない様にしててさ」

 褒めてるのか貶してるのか分からない事を言うハルに、コハクは苦笑いを浮かべる。



「お待たせしました。センリさん、フローラさん」

 そこへ、センリとフローラの二人を呼びに来た、式利が現れた。


「馬車の準備が出来ました。早く任務に向かいましょう。あまり待たせるとアルが馬車の中で昼寝してしまいます」

 ふと、式利はハルの姿を見付けると、一瞬睨む様な目で彼女を見た。


「あ、あのー、式利さんもお疲れ様ですー」

 ハルが遠慮した様子で式利に挨拶をすると、式利は「お疲れ」と淡白に返事を返した。


「よし、それじゃあ俺達は任務に行きますか」

 センリが腕を伸ばして軽くストレッチする。

「では行ってきますね。お二人もお気を付けて」


 フローラが一礼し、センリも手を振りながら馬車の駐輪場へと向かう。

 コハクとハルの二人も手を振り替えして、センリ達を見送る。



「あの式利って子さ・・・」

 やがてセンリ達の姿が遠くなると、ハルが口を開く。  

「なんか私の事が嫌いみたいなんだよね。多分、センリさんに近付く女が許せないタイプよ」


 ハルがひそひそとコハクに耳打ちする。 

「そ、そうなんだ・・・」

「表ではああ見えて、裏ではフローラさんと式利さんは酷い言い争いをしてるのよ、きっと。あぁ、怖い・・・」 

「あはは・・・」

 こういうときは何と返せば良いのかと、コハクは困惑しながら苦笑いを浮かべた。 


「あ、そうだ。 コハクさん、良かったら私達の班に入りませんか?」

「え、えぇ? 僕、ランクBですけど大丈夫ですか?」 


「大丈夫、大丈夫。 私達も殆どがBランクで、最近新しい子が入ったからそんなに奥には行かないし、それにうちの班にはAランクの兵士もいるんで安心だよ?」

「ね?」と念を押す様に、ハルはその可愛らしい顔をコハクに近付ける。


「え、うん・・・じゃあ入ろうかな」

 コハクは少し困りながらも、そう答える。 


「やった! それじゃあ、早速依頼を受けに行きましょ! ほら、早く早く!」

「えっ? あの、今日行くの!?」


「善は急げってね?」


 困惑しているコハクを半ば無理やり連れて、ハルは受付へと向かっていくのであった。

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