異世界における英雄とアヴェンジャーのあり方は。

朱音めあ

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1章

深が覗く 02

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「クソ、しぶとい奴だ」


 魔狼を追うカイ。 

 その後に野乃花、煉が続く。

 魔狼は前脚を一本失っているにも関わらず、身体から吹き出す黒い霧を上手く使い、攻撃を交わし逃走する。


「あぁ、もう、どこまで、逃げる気なのよあいつ・・・!」

 身体能力の高いカイや野乃花と違い、ハルの顔には疲れが見える。

 煉も戦い慣れているとはいえ、余裕とは言えない様子だ。


「ちょっと待て、前方に何か見えるぞ」

 魔狼を追うカイがデバイスの通信で伝える。


 林を抜けてすぐ、そこには高い岩山が壁の様にそそり立っていた。

 魔狼は岩山に向かうと、向きを変え岩山に沿って逃走する。


「気を付けろ、その岩山の直ぐ向こうはAランク帯だ」

 デバイスを伝い、煉が注意を促す。


 そうしてしばらく魔狼の後を追跡していると、唐突に魔狼が姿を消した。

「ん、おい。魔物が・・・!?」

 魔狼は、岩山に空いた大きな穴へと入り込んだのだ。

 皆よりも先に進んでいたカイと野乃花の二人が、その後を追って洞窟の入り口を覗き込む。


「クソ。なんか洞窟の中に逃げ込みやがったぞ」

「ちょっと、逃げられたの!? 洞窟の入り口はどのくらい? 入れそうなの!?」

 ハルは焦った様子で、デバイスへ向かって怒鳴る。

「入り口は結構デカイ。奥も深そうだ」

「じゃあ見失わないうちに追いかけてよ!」


「待て、危険だ。洞窟がどこまで繋がってるかわからない」

 洞窟まで追いついた煉が、洞窟に入ろうとしたカイを止める。


「はぁ!? ここまで追い詰めて諦めるつもり!?」

 しかし、ハルはまだ諦めきれないのだろう。ヒステリックにそう叫んだ。 


「ハル、少し冷静になれ!」 

「何よ、煉! アンタ班長だからって偉そうに指示するつもり!? ただランクが一番上だから班長にしてるってだけで、元々この班は私が作ったのよ!? 早く追いかけないと、せっかく追いつめたのに逃げられちゃうじゃない!!!」

「駄目だ! 洞窟は危険過ぎる!」

 デバイスを通して言い合いはじめる二人。



「・・・ハイハイ。わかったよ追うよ。でも、もし魔物を仕留めたら分け前は俺が多く貰うから、覚えとけよ」


 ハルの様子に呆れたのか、カイは洞窟の中へ入っていく。

「・・・しかたない。俺とカイが先を進む。野乃花は背後を頼んだぞ」

「ひぃ・・・この中に入るんですか・・・?」

 煉と野乃花の二人も、カイの後に続いて洞窟の中へと入る。 


「あぁ、もう。分け前とか、そういうのは後にしてよ・・・!」

「・・・ハル、煉の言う通り一回落ち着こう」

 何か、これはまずい状況だと感じたコハクが、ハルを呼びかける。


「は? 馬鹿じゃないの!? てか貴方は何なの? 英雄の力とか持ってる癖に、なんでそんな弱気なの!? グダグダ文句言ってる暇あったらさっさと動けっての・・・!」

 苛立った様子で話すハルは、初対面の時にセンリ達と話していた姿とはまるで別人である。

 コハクは、今のハルには何を言っても無駄だと悟った。


 やがて少し遅れて、コハクとハルは洞窟へと辿り着いた。



 その時。


「いやああああああ!!!」

 洞窟から叫び声が聞こえる。

 野乃花の声だ。


「い、今の声は!? 野乃花!? 何があった!?」

 コハクはデバイスで呼びかけながら、洞窟を覗く。


 洞窟の中には、先行したカイか煉の誰かが中を照らす為に付けたのであろう魔法の光が見え、うっすらとだが中の全貌が見えてくる。

 洞窟は思ったよりも深く、そして広い。


 そして。


「ひぃ、ひいいっ!!!逃げて!!!早く逃げてください!!!」

 野乃花が必死に叫びを上げながら走ってくる。


「カイは!? 煉はまだ中にいるの!?」

「早く逃げてください!!!」

 野乃花はコハクの問いに答える余裕すらなく、必死に何かから逃げている様であった。


「な、な、何、あれ・・・?」


 そして彼女の後ろには、黒い大きな影が魔法の光に照らされている。

 それが魔物である事は一目瞭然だが、しかしコハクには、あんなにも巨大な魔物を見たことが無かった。


 野乃花がなんとか洞窟の出口まで辿りついた、その時。


「っ、あっ、ぐっ・・・?」


 野乃花の腹から、血が吹き出す。

 黒く鋭い何かが、野乃花の腹から突き出していた。


「野乃花!!!」

 コハクが野乃花の元へ駆けつけるが、野乃花の身体が洞窟の奥へと引きずられていく。


「う、ぐぁ・・・助、けて!」

「野乃花!!! 手を伸ばして!!!」


 コハクが野乃花の手を掴もうとした時。


「ッ!!!」


 洞窟の奥から表れた黒く大きな影が、野乃花の身体を飲み込む。

 一瞬コハクの目に映ったその大きな口には、剣の様に鋭い牙が並んでいた。


 そして、コハクの前に残ったのは野乃花の片腕だけである。


「あ・・・あぁ・・・そんな・・・!」


 洞窟の中で、魔法の光に照らされた巨大な影が蠢くのが見える。

「っ・・・逃げ、ないと!」

 コハクは震える脚を動かして、洞窟の入り口を飛び出した。


「何!? 何が起きたの? ねぇ、野乃花は? 他の二人は?」

 震えた声でハルが問う。



 しかしハルの声は、何かの破壊音でかき消された。

 洞窟の入り口から、いくつもの瓦礫が飛び出し、中から黒く大きな塊が飛び出す。


「あ、ああっ。何・・・? あんな魔物、今まで見たこと・・・!?」


 それは、巨大な蛇の形をした魔物。

 長い身体に、頭部の周辺には鬣の様な黒い触手が蠢いている。

 そして今まで見てきた魔物よりも、格段と大きい。 


 勝てない。コハクはそう直感した。


「ひ、ひぃ。嫌あああああああ!!!」


 悲鳴を上げ、ハルが走り出し、そしてコハクも魔物から逃げる。


 魔物はコハク達の姿を視ると、長い身体をうねらせて後を追う。

 コハクが林の中へ逃げ込むが、蛇の魔物は鋭い牙の生えた顎を開き、身体を伸ばして襲い掛かる。

 間一髪、魔物は大木へ邪魔され、開いた大顎はコハクではなく大木に食らいつく。


 魔物は食らいついた大木を邪魔だと言わんばわかりに強引に引っこ抜き、林の中へと追ってくる。


「おい、魔物! こっちだ!!!」


 その時、魔物に殺されたかと思われた煉が現れ、魔物へ真っ赤な光を放つ剣を振るう。

 剣から凄まじい火柱が上がり、周囲の木々諸共魔物を焼き払う。


「あれは、煉!? 無事だったんだ!」

「止まるなコハク!!! 走れ!!!」

 煉を見て一度立ち止まるコハクだったが、煉の声を聞いて再び走り出す。


 爆音、そして炎が燃え盛り、木々が砕けて焼ける音の中、コハクは走る。


 煉は剣を振るいながら後退する。

 剣を振る度に火柱が上がり、爆風が起こる。

 魔物は顎を開いて威嚇すると、長い尾の先端を小刻みに振動させる。


「・・・!!!」


 そして、魔物はその太い尾を振るう。

 魔物の周囲にある木々が薙ぎ倒され、吹き飛ばされる。


「うっ・・・!? うわっ!?」

 走るコハクの横に、薙ぎ倒された木が落下してくる。


 今までの魔物とは、攻撃の規模が違いすぎる。

 そして、吹き飛ばされたのは木々だけではない。


「・・・っ!!!」


 吹き飛ばされた煉が、ハルの近くに落ちる。


「あ、ああ。なんで、嫌。ああああ!!!」


「ひっ・・・そんな、煉! 煉! 生きてる!?」

 コハクが煉の元に駆け寄るが、煉は動かない。

 煉は既に死んでいるのか、それとも気絶しているだけなのかはコハクに判断出来なかった。


 そうしている間に、木々の間から黒い肌の巨大な魔物が迫ってくる姿が覗く。

「ぐっ・・・クソ・・・!!!」 

 この状況で、煉を抱えて逃げる力はコハクには無いだろう。


 最早、逃げる事しか出来ない。

 コハクは草木を掻き分け、木の枝で腕や顔に傷か付くのも気にせずに森を駆け抜けた。

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