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1章
自由の無いところに責任は存在せず 01
しおりを挟む「ぐあああっ!!!」
軍の司令室に、コハクの悲鳴が響く。
「英雄の力を持つにはしょうもない奴だとは思っていたが。まさか芯がここまで腐っているとはな」
うつ伏せに倒れるコハクを、カギツキが踏みつける。
「希少種に目が眩んでAランク帯に入り、仲間を死なせて自分は逃げるとは。そんな「英雄」が何処にいる!?」
何度も、カギツキの足がコハクの身体を踏みつける。
背中、脚、腕。
身体の至る所を、無造作に踏みつけ続ける。
「ち、違います・・・報告が違います! 確かに、僕達の班は希少種を追ってAランク帯へ入りました。
けど、その指示を出したのは僕じゃない!!!」
報告書は嘘だらけで、ハルに都合の悪いことは全て書き換えられていた。
恐らく、ハルが都合よく書いたのだろう。
そしてその責任は、死んだ他の班員や、コハクへと転換されていたのだ。
「くだらんな」
カギツキはコハクの頭を踏みつけ、床に押し付ける。
「ぐっ・・・!!! カギツキ、隊長・・・本当です、僕は嘘をついていない!!!」
「誰が嘘を付いたなど関係ない。英雄の力を持つお前がいるにも関わらず、状況判断も出来ずに危険な区域へと踏み込み、そして班員を死なせた。その真実は変わらない」
「・・・っ!」
コハクは痛みに耐えながら、自分はどうすれば良かったのだろうかと、そう自問した。
意地でもハルを説得するべきだっただろうかと。
あの時こうすれば、という選択肢はいくつもあったのだろう。
だが冷静に考えれば、それは結果論に過ぎない。
新入りであるコハクには、あの場で意見を貫く事は出来なかった。
そもそも、ハルはコハクの言う事など聴く耳も持たなかった。
コハクでなくとも、恐らくハルは誰の説得も聞かなかっただろう。
だったら、今ここで自分が罰を受ける事は仕方の無い事だと、コハクはそう思った。
「ふん、貴様も運が良いな。もしも貴様に英雄の力がなかったら、こんな使えない兵士など家畜の餌にしている所だったぞ」
いくらその時の事情を説明した所で、カギツキの態度が変わる訳がないのだ。
英雄の力を持つにも関わらず、班をまとめる事が出来なかったと責められるだけだろう。
故に、どれだけ理不尽であろうと、コハクはこの暴力を受け入れるしかなかった。
***
「痛っ・・・」
コハクはカギツキに踏まれて痛む腕を摩りながら、基地のホールを歩く。
(こんな日は、さっさと空腹を満たして寝床についてしまおう)
などと考えながら、コハクは兵士達が行き来するホールを進む。
その時、近くのベンチにいる数人程の小さな集団が目に入った。
顔つきを見るに、おそらくヴァーリア人だろう。
気のせいか、その集団は険悪な目でコハクを見て、何か噂話をしている様に見えた。
(気のせい、気のせい)
こっちを見ているのは気のせいだ。ただの自意識過剰だと言い聞かせ、コハクは足を進める。
だがコハクは、その集団の中心にハルがいるのを見つけてしまった。
彼女がいるという事は、自分が関係ない訳が無い。
コハクは、ぞくりと背筋に寒気が走るのを感じた。
ハルは暗い表情でベンチに座っており、隣に座る少女に慰めて貰っている。
そしてハルの周りにいる2人の少年は、やはりコハクの方を睨んでいた。
(・・・気にするな。無視だ、無視)
森での豹変具合や、責任逃れする為に平気で嘘を付く事を思い出せば、コハクにはもう彼女に関わる必要など無い。
ここで変に因縁を付ければもっと厄介な事になるだろうと、コハクはそう思ったのだ。
しかし。
「おい、待て」
足早に進むコハクの肩を、ハルと一緒にいた少年の一人が掴む。
「・・・なんですか、僕、急いでいるんで」
コハクは少年の手を払いその場から立ち去ろうとするが、もう一人の少年がコハクの前に立ち、行く手を遮る。
「今日、ハルと一緒に班を組んだ奴ってのは、お前だろ?」
少年の声は威圧的で、コハクに対して何か怒りを感じているのだろう事は明らかであった。
ハルがこの者達に何を喋ったのかは、コハクには分からない。
だが間違いなくハルが何かを吹き込んだのだろう。
恐らくは、ハルが被害者で、そしてコハクが戦犯だという話をしたに違いない。
そう思うと、コハクは理不尽な怒りを感じた。
「・・・ハルと一緒の班を組んでいたから、何ですか」
「なんですか、じゃねぇだろうが!」
少年がコハクに迫る。
「英雄の力だかなんだか知らないが、調子に乗ってるんじゃねぇぞ。お前のせいで、ハルの仲間が死んだんだぞ!!!」
やっぱりそうなのかとコハクは思った。
ハルはあくまでも自分に責任を押し付ける気なのだと、そう再確認した。
「彼女は、ハルは、嘘を付いてる。あいつは嘘を言ってますよ」
そう言いながら、コハクはハルは睨みつける。
それに気付いたのか、ハルもまた無言でコハクを睨み返した。
「ひどい・・・あんたさ、ハルはこんな目に遭ってるのに嘘つき呼ばわりする気? 英雄だかなんだか知らないけど、最低・・・」
ハルを慰めていた少女が、コハクにそう返した。
「ハルにどう責任取るつもりなんだよ、この異界人・・・!」
「だから、ハルは嘘を付いてるんだって言ってるだろ・・・! これは誰のせいでもない!!! 班全員の責任なんだ!!!」
「おい、聞いたか? やっぱり異界人は最低だな。そうやって班の責任にして言い逃れしようとしてんだろ!?」
「この・・・ッ!!!」
コハクは、いい加減我慢も限界であった。
「責任逃れしようとしてるのは・・・!!! アンタだろうが!!!」
コハクは怒りを込めるように拳を握りながら、ハルへ向かっていく。
「オイ、この異界人・・・!!!」
そのコハクを、少年の一人が掴みかかって止める。
その時。
コハクと少年の真横を、銀髪の少女が通りかかる。
「・・・え? 式利さん?」
それは、式利であった。
式利は他の者には目もくれずにハルの前に立つ。
「何、あんた・・・ッ・・・!? ちょっ!?」
そしてハルの襟元を掴んで無理やり引っ張り、ベンチから引き剥がした。
「うっ・・・!?」
あまりに突然だった為か、ハルは驚いた顔で声を漏らした。
「なっ・・・!? 何よコイツ!!! ハルに何するのよ!!!」
ハルの傍にいた少女が立ち上がるが、式利はまったく動じる様子はない。
「私はハルに用があります。貴女はそこで黙っていてください。今日起きた事について彼女の話を詳しく聞く様にと命令を受けてきました」
「話って・・・!」
式利はハルを引っ張る様に連れ出すと、今度はコハクと少年の間に割って入る。
「今言いました通り、コハクさんにも話がありますので」
式利は丁寧な口調でそう言うと、コハクと少年を引き離す。
「なっ、だ、誰だお前は・・・?」
殺さっきまでは頭に血が上っていた少年だが、流石に式利へ向かって怒鳴る事は躊躇したのだろう。
「し、式利さん なんでここに・・・?」
「ちょっと事情がありまして。話は別の部屋でするので、付いて来てください」
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