18 / 80
1章
自由の無いところに責任は存在せず 02
しおりを挟む「・・・何処に連れてくつもりですか」
式利に連れられて、明らかに不機嫌さを表した表情のハルが廊下を進む。
その二人の後ろにはコハクが続いている。
「言ったはずです。今日の出来事について話を聞きたいと」
「・・・答えになってないですが。今日の事は報告書にちゃんと書きましたけど」
式利はとある部屋の前で立ち止まる。
「部屋はここです。さぁ入ってください」
式利の後ろに続いて、ハル、コハクが部屋に入る。
「・・・え?」
そこには、ベッドで横になる煉の姿があった。
巨大な蛇の姿の魔物に殺されたと思っていたが、しかし煉は生きていた。
煉は式利達が来た事に気付くと、上体を起こす。
彼の片腕は肘より先が無くなっていたが、しかし命を落としてはいなかったのだ。
「・・・嘘でしょ」
そんな煉の姿を見て、ハルは驚いた表情を浮かべる
それは、仲間が生きていた喜びというよりも、何か困惑している様子にも見える。
「どうしました、ハル? 仲間が生きていたのに、そんな顔をするなんて」
「・・・お、驚いただけです。まさか煉が生きてるなんて・・・良かった! 本当に良かった・・・!」
式利に指摘されたせいか、ハルの額からは一滴の汗が流れる。
「本当に、死んだと思ったから・・・! 私どうしようかと・・・!」
「彼が助かって良かったですね。さて"本題"に入りますが」
「っ・・・」
式利の口から出た「本題」という言葉に、ハルは何故か得たいの知れない恐怖を感じた。
「先程、目を覚ました煉に森で何があったのかを聞きました。すると貴女の報告書に書かれている事と矛盾がありましてね」
式利の手には、ハルが書いた報告書がある。
「矛盾? なんですか。私が嘘を付いているってことですか!?」
「はい。そういう事です」
式利はきっぱりとそう言い切る。
「さて、報告の義務は"班長"にあるワケで、班長の煉が生きていたという事は彼の報告が優先されます。どういう事かわかりますよね?」
「ち、ちょっと待って、そんなの納得いかない! それじゃあ班長の言う事だったらなんでも信用するって事!? そんなのおかしいじゃないですか!!!」
「そういう貴女こそ、おかしいんじゃないですか?」
式利がハルへ迫る。
「異界人を敵にして被害者ぶってれば、何でも言う事信用されるとでも思ってました?」
口調は丁寧だが、しかし式利の声には威圧感があった。
式利に圧倒されて、ハルは少しづつ後退し後ろの壁まで追い込まれた。
「一応、公平に判断する為として、班員であるコハクさんにもどちらの報告書が正確であるか意見を聞いて参考にするとの事です。まぁ答えは決まっているでしょうが」
それを聞いて、一度ハルは助けを求める様な目でコハクを見たが、すぐにそれは無駄だと悟った。
あれだけの扱いをして、コハクが自分の味方をしてくれる訳がない事はハルでも分かったからだ。
「・・・そうですか。別に良いですよ。だったら私の報告書はどうぞナシにしてください」
ハルは吐き捨てる様にそう呟くと、下を向いたまま足早に部屋のドアまで移動する。
「ハル、ちょっと待ってください」
しかし、それを式利が呼び止める。
「班員をこんな目に遭わせた挙句、嘘を付いてまで責任を押し付けて。煉とコハクさんの二人には謝罪の一つも無しですか?」
「・・・ちっ」
ハルはドアノブにかけた手をゆっくりと下ろすと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて振り返った。
「なんでよ・・・私は、何もしてないじゃない! みんなを殺したのは魔物でしょ!!! 私はただ!!!」
その瞬間、部屋にぱちん、と乾いた音が響いた。
「う・・・ッ!? あッ・・・!」
式利が、ハルの頬を平手で叩いた音だ。
「煉の腕を見てください。それを見てもまだ言い訳しますか?」
「アンタ・・・! このッ・・・!!!」
ハルは式利の話など聞かず、仕返しにと式利の頬目掛けて平手を振るった。
しかし、式利は冷静にハルの腕を掴んで止める。
「コハクさんの顔を見てください。なんで彼は治療を受けたばかりなのに傷だらけなのかわかりますか?」
そしてもう一度、式利の平手がハルの頬を叩き、乾いた音が鳴る。
「貴女はいつまで被害者ぶって、責任逃れしてるんですか」
式利の口調は相変わらず冷静であったが、しかしハルを見るその目は、剣を突き立てる様に威圧的であった。
「ひっ・・・!? ぐっ・・・!!! あ、あぁ・・・わ、わかった。わかりました・・・!!!」
そう言うと、ハルはその場に座り込んだ。
「・・・すいません、でした」
そして額を床に付くほど深く下げる。
「こんなことをして、すいませんでした!」
ハルは半ばヤケになりながらもう一度謝罪の言葉を告げた。
そして立ち上がると、今度こそハルは部屋を去っていた。
***
「煉・・・よかった、無事だったんだ」
コハクは煉が横になっているベッドへ近寄る。
「あぁ。腕はこのザマだが、命に別状はないらしい」
煉の片腕は肘から下が無く、包帯に巻かれていた。
「この腕でも戦えない事はないだろうが・・・これでは当分、Cランク兵士になってしまうな」
苦笑いを浮かべる煉。
「・・・こんな状態なのに、兵士は辞めないんですか?」
コハクが複雑そうな表情で呟く。
「使えるまで使われて、戦えなくなれば捨てられる。それがヴァーリア国の軍です。・・・まぁ、ヴァーリア軍に限った話じゃありませんが」
式利がコハクの隣に並び、話を続ける。
「私たち異界人のおよそ九割が、強い魔法の適正や高い身体能力を持っています。それは確かに、兵士となるには適しているかもしれません。ですが、それが身を削って使い潰される理由になどなると思いますか? 私は思いません」
式利の口調は淡々としていたが、コハクにはその台詞はとても重く感じられた。
彼女がその場の思いつきで適当に言っているのではなく、長い間ずっと、その事について考えていたのだろう事が伝わるからだ。
「それで、私達は少しでも異界人の為にと、地味ながら行動していたんです。煉がハルの班にいたのは、やたら異界人と一緒にいる彼女が何か信用出来ないと思い、その監視の為・・・だったのですが」
今回の件で、野乃花とカイの二人が死亡し、煉は片腕を失った。
ここまで顔に感情を出さずにいた式利だったが、その表情は少しだけ悲しげで、そして怒りも見えた。
「・・・申し訳なかった。俺の力不足だ」
煉がそう呟く。
「そんな事はありません。これは私が甘かったせいです。それに・・・」
ふと、式利がコハクを見る。
「一人でも、助ける事が出来たじゃないですか。コハクさんを助ける事が出来たじゃないですか」
それを聞いてコハクは、申し訳なさ感じたと同時に、とても救われた気がした。
「あ・・・ありがとう、ございます。本当に、僕の事なんかを助けてくれて・・・」
見知らぬ世界で、今まで経験したことのない酷い場面を経験し、周りからも責められ。
それでも自分を救ってくれる人がいた。
それはなんと幸運な事なのだろうかと、コハクは感じた。
0
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる