異世界における英雄とアヴェンジャーのあり方は。

朱音めあ

文字の大きさ
24 / 80
2章

昼時 02

しおりを挟む


「そういえばコハクさん、知っていますか?」


 フローラは、ドリアに入っているエビをスプーンで掬いながら、そう問いかける。

「ヴァーリア国の周りには海がありません。なので、このエビは川で獲れたエビらしいですよ」

 そう言うと、フローラはぱくりとエビを口の中へ放り込んだ。


「あぁー、そういえばこの街には大きい川がありますよね。そこで獲れたエビなんでしょうか?」

「そうです、そうです! この街を通る川は、ヴァーリアでも有名なとっても綺麗な川なんですよ。
特に、夕日が沈む頃の景色はとってもロマンチックなんです」


 コハクも一度その川の近くを通った事があったが、確かに綺麗な川であった。 

「へぇ。それじゃあ今度、夕日が沈む時に川の近くを通ってみようかなぁ」

「コハクさん、ヴァーリアに来てから戦い通しじゃないですか? たまには息抜きに、ここがどんな街なのか見て見るのも良いかもしれません」


「そうですね・・・あっ」

 その時コハクは、フローラの頬に米粒が付いている事に気がついてしまった。


 教えるべきなのだろうとは思うものの。

 何故だろうか、それを伝える事が恥ずかしくなり、コハクは目を逸らしてしまった。

 この状況で一番恥ずかしいのはフローラなのだろうが、一度言葉に詰まってしまうと、話を切り出す事が出来なくなってしまうものである。


(あぁ、でもこれはこれで、可愛らしい・・・って、そういう問題じゃない!)    

 確かに、米粒が付いているとは知らずにご飯を頬張るフローラはとても可愛らしいのだが、このまま知らずに外へ出歩く事になると、少し残酷だろう。 


 すると、近くを通りかかった店員の少女も、フローラの顔を見てそれに気付いたらしい。

 立ち止まって、フローラに耳打ちする。


「・・・フローラさーん。ご飯、付いてますよー」

「・・・えっ?」


 ほんのりと頬を染めながら、フローラはハンカチを取り出して右の頬を拭く。 

 しかし、米粒が付いているのは反対である。


「フローラさん、逆ですよー」

「ひぃっ!?」     

 更にフローラの頬が赤く染まる。


「・・・もう付いてない?」

「はい。綺麗ですよー、フローラさん」

「・・・あ、そろそろデザート持ってきてください。二つ頼んでるんですけど」

「かしこまりましたー」



 そして、フローラはげふんげふんと咳払いをしてコハクの方へと向き直す。


「・・・コハクさん! 絶対気付いてましたよね!? 教えてくださいよ! 恥ずかしい・・・!」

 フローラが頬を膨らませる。


「ご、ごめんなさい。何だか見てるこっちも恥ずかしくて・・・」

「もうっ・・・。でも、センリさんの前じゃなくて良かった・・・」

 火照った顔を冷やそうとしているのか、フローラはぱたぱたと手で顔を仰ぐ。


 最初は二人だけで食事をするとなり緊張で固まっていたコハクだが、フローラの柔らかく親しみやすい態度に、今では安心感すら感じ初めていた。

 けれど、真っ直ぐフローラの顔を見ると、何故だろうかまた身体が緊張してしまうのであった。

 それは妙な感覚だが、コハクはあまり嫌な感じではないと思った。


(はぁ。でもきっと、フローラさんは・・・) 



「お待たせしましたー。デザートお持ちしましたー」 

 甘い香りと共に、店員の少女がデザートの乗ったプレートをテーブルに置く。


 ひとつは、フローラに。

 そしてもうひとつは、コハクの前に。


「えっ、あの? 僕、デザートまでは頼んでないのですがっ・・・」


「コハクさん、それは私の奢りです!」

 自慢げな表情を浮かべるフローラである。


「えっ!? なんでですか!? 僕、何もしてないのに!」

「気にしないでください! コハクさんはなんだか弟みたいで可愛いので」

「えぇ、そんなぁ・・・」

「ここは先輩でお姉さんの私に、奢られてください!」

「・・・あ、ありがとうございます」

 申し訳ないと思いつつも、金欠気味なコハクには非常にありがたいのであった。


「それじゃあ、私もいただきまーす。あっ、コハクさんは甘いの大丈夫でした?」

「あ、はい。甘いもの、好きです・・・」

 フルーツとクリームの添えられたワッフルをナイフでカットし、フォークで刺して口に運ぶ。


「・・・美味しいです」

 ここが異世界であるとは思えない、懐かしい甘さであった。


「そういえば、僕の事が弟みたいって言ってましたけど、フローラさんって弟がいるんですか?」


「弟ですか? "いましたよ!"ここには、いないんですけどね」

 そう言いながら、フローラはにこりと微笑んで、フルーツを一口食べた。 


「あ・・・そうですよね。ここにはいないですよね」


 "ここにはいない"とは、元の世界の事だろうか? それとも。

 コハクには、その先を問う気持ちにはなれなかった。    



 ふと、フローラがじっとコハクの顔を見る。

「・・・あの、もしコハクさんが私の思っているよりもずっと強い方だったら、余計な事かもしれないですが」


 フローラのフォークを持つ手が止まる。


「魔物の怖さや恐ろしさや、それに奪われてしまう悲しさは、私もわかります。だから・・・」 

 コハクは、先ほどまでとは違う心臓の鼓動を感じた。


 フローラが今までどんな事を経験してきたのか、コハクは考えた事もなかった。

 しかし、魔物が蔓延るこの世界では、どんな酷い経験をしていてもおかしくはないのだ。


 きっと、彼女は大切な者を奪われた。 

 そしてコハクと同じ様に、先へと進めなくなった事もあったのだろう。

 けれど。



「・・・まずは、糖分を取りましょう! 疲れたときは、美味しいものが一番です! 

それと、果物です! 火の通っていない果物には消化酵素が沢山ありまして、身体に良いんですよ!」  


「・・・ふふっ、そうですね」


 コハクは、彼女の事が太陽の様だと感じた。

 彼女と一緒にいると、恐怖で震えていた身体が、温まるからだ。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...