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2章
昼時 02
しおりを挟む「そういえばコハクさん、知っていますか?」
フローラは、ドリアに入っているエビをスプーンで掬いながら、そう問いかける。
「ヴァーリア国の周りには海がありません。なので、このエビは川で獲れたエビらしいですよ」
そう言うと、フローラはぱくりとエビを口の中へ放り込んだ。
「あぁー、そういえばこの街には大きい川がありますよね。そこで獲れたエビなんでしょうか?」
「そうです、そうです! この街を通る川は、ヴァーリアでも有名なとっても綺麗な川なんですよ。
特に、夕日が沈む頃の景色はとってもロマンチックなんです」
コハクも一度その川の近くを通った事があったが、確かに綺麗な川であった。
「へぇ。それじゃあ今度、夕日が沈む時に川の近くを通ってみようかなぁ」
「コハクさん、ヴァーリアに来てから戦い通しじゃないですか? たまには息抜きに、ここがどんな街なのか見て見るのも良いかもしれません」
「そうですね・・・あっ」
その時コハクは、フローラの頬に米粒が付いている事に気がついてしまった。
教えるべきなのだろうとは思うものの。
何故だろうか、それを伝える事が恥ずかしくなり、コハクは目を逸らしてしまった。
この状況で一番恥ずかしいのはフローラなのだろうが、一度言葉に詰まってしまうと、話を切り出す事が出来なくなってしまうものである。
(あぁ、でもこれはこれで、可愛らしい・・・って、そういう問題じゃない!)
確かに、米粒が付いているとは知らずにご飯を頬張るフローラはとても可愛らしいのだが、このまま知らずに外へ出歩く事になると、少し残酷だろう。
すると、近くを通りかかった店員の少女も、フローラの顔を見てそれに気付いたらしい。
立ち止まって、フローラに耳打ちする。
「・・・フローラさーん。ご飯、付いてますよー」
「・・・えっ?」
ほんのりと頬を染めながら、フローラはハンカチを取り出して右の頬を拭く。
しかし、米粒が付いているのは反対である。
「フローラさん、逆ですよー」
「ひぃっ!?」
更にフローラの頬が赤く染まる。
「・・・もう付いてない?」
「はい。綺麗ですよー、フローラさん」
「・・・あ、そろそろデザート持ってきてください。二つ頼んでるんですけど」
「かしこまりましたー」
そして、フローラはげふんげふんと咳払いをしてコハクの方へと向き直す。
「・・・コハクさん! 絶対気付いてましたよね!? 教えてくださいよ! 恥ずかしい・・・!」
フローラが頬を膨らませる。
「ご、ごめんなさい。何だか見てるこっちも恥ずかしくて・・・」
「もうっ・・・。でも、センリさんの前じゃなくて良かった・・・」
火照った顔を冷やそうとしているのか、フローラはぱたぱたと手で顔を仰ぐ。
最初は二人だけで食事をするとなり緊張で固まっていたコハクだが、フローラの柔らかく親しみやすい態度に、今では安心感すら感じ初めていた。
けれど、真っ直ぐフローラの顔を見ると、何故だろうかまた身体が緊張してしまうのであった。
それは妙な感覚だが、コハクはあまり嫌な感じではないと思った。
(はぁ。でもきっと、フローラさんは・・・)
「お待たせしましたー。デザートお持ちしましたー」
甘い香りと共に、店員の少女がデザートの乗ったプレートをテーブルに置く。
ひとつは、フローラに。
そしてもうひとつは、コハクの前に。
「えっ、あの? 僕、デザートまでは頼んでないのですがっ・・・」
「コハクさん、それは私の奢りです!」
自慢げな表情を浮かべるフローラである。
「えっ!? なんでですか!? 僕、何もしてないのに!」
「気にしないでください! コハクさんはなんだか弟みたいで可愛いので」
「えぇ、そんなぁ・・・」
「ここは先輩でお姉さんの私に、奢られてください!」
「・・・あ、ありがとうございます」
申し訳ないと思いつつも、金欠気味なコハクには非常にありがたいのであった。
「それじゃあ、私もいただきまーす。あっ、コハクさんは甘いの大丈夫でした?」
「あ、はい。甘いもの、好きです・・・」
フルーツとクリームの添えられたワッフルをナイフでカットし、フォークで刺して口に運ぶ。
「・・・美味しいです」
ここが異世界であるとは思えない、懐かしい甘さであった。
「そういえば、僕の事が弟みたいって言ってましたけど、フローラさんって弟がいるんですか?」
「弟ですか? "いましたよ!"ここには、いないんですけどね」
そう言いながら、フローラはにこりと微笑んで、フルーツを一口食べた。
「あ・・・そうですよね。ここにはいないですよね」
"ここにはいない"とは、元の世界の事だろうか? それとも。
コハクには、その先を問う気持ちにはなれなかった。
ふと、フローラがじっとコハクの顔を見る。
「・・・あの、もしコハクさんが私の思っているよりもずっと強い方だったら、余計な事かもしれないですが」
フローラのフォークを持つ手が止まる。
「魔物の怖さや恐ろしさや、それに奪われてしまう悲しさは、私もわかります。だから・・・」
コハクは、先ほどまでとは違う心臓の鼓動を感じた。
フローラが今までどんな事を経験してきたのか、コハクは考えた事もなかった。
しかし、魔物が蔓延るこの世界では、どんな酷い経験をしていてもおかしくはないのだ。
きっと、彼女は大切な者を奪われた。
そしてコハクと同じ様に、先へと進めなくなった事もあったのだろう。
けれど。
「・・・まずは、糖分を取りましょう! 疲れたときは、美味しいものが一番です!
それと、果物です! 火の通っていない果物には消化酵素が沢山ありまして、身体に良いんですよ!」
「・・・ふふっ、そうですね」
コハクは、彼女の事が太陽の様だと感じた。
彼女と一緒にいると、恐怖で震えていた身体が、温まるからだ。
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