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2章
しがらみ
しおりを挟む木製の天板に鉄パイプの脚で作られた一般的な机と椅子が、教室に並んでいる。
その一つにコハクは腰掛けていた。
周りではクラスメイト達が、昨日のTVの話をしたり、焦って宿題を解いていたり、トランプをして遊んでいたりしていた。
コハクには、学生だった頃に決めたルールがある。
余計な話をしてはいけない。
周りから馬鹿にされるだけだから。
少し仲良くなったからと言って、気安くおしゃべりはするな。
口は災いの元だから。
それは、学生生活を平和で円滑に過ごす為に決めたルールである。
もしも自分が物語の主人公なら、あいまいで、主体性が無くて、情けない奴だろうと、コハクは自分でそう思った。
だが、それで十分だと、何事も無く荒波を立てずに平穏に過ごせれば良いと、それで十分だと、自分に言い聞かせていた。
***
「コハク」
カギツキの鋭い声が、コハクを現実へと引き戻す。
一瞬でクラスメイトと教室の景色が消え失せ、コハクの前には、席に着いたカギツキの姿が現れる。
「最近、街の警備に就いているそうだな」
「は、はい。その通りです」
カギツキがいるこの部屋は、相変わらず居るだけで重く潰されそうな雰囲気に包まれている。
コハクにとっては、クラスメイト達に囲まれた教室も、結構な緊張感を感じる場所ではあったが、軍隊長が居るこの部屋は、その数倍は重く冷たい空間であった。
「お前を推薦した式利は、警備の任務も経験になるから必要だと言っていた」
コハクは、そのうちこの機会が来るだろうと覚悟をしていた。
街の警備は、外で魔物を狩るよりもずっと楽な任務である。
"英雄"の力を持つコハクがいつまでも街の警備ばかりしている事を、カギツキが許す訳がないのだ。
「確かに、彼女の言う事も一理あるかもしれない」
だが、カギツキの口から出た言葉は予想よりも柔らかいものであった。
「・・・あ、ありがとうございます」
コハクは、プレッシャーで詰まりそうだった喉から息を吐いた。
しかし、コハクを見る彼女の目付きは、少しも安らぐ気配は無い。
「丁度いいタイミングだと思ってな」
カギツキは机から一枚の書類を手に取ると、それを念力でコハクの前まで飛ばす。
「もう知っているかもしれないが、例の殺人犯がまた活動を始めた。しかも、奴は北の街に移っているらしい」
コハクに渡された書類は、ここ数日で起きた殺人事件に関するものであった。
「これ以上、奴を野放しにする訳にはいかない。壁外の魔物共を倒す事も重要だが、今は街の警備を増やし、一刻も早く奴を消し去る事が最優先だと、軍の会議で決定した」
コハクは、一度緊張が緩んだ身体が、また寒気で震えるのを感じた。
カギツキに「その殺人犯を倒せ」と命じられると思ったからだ。
「コハク。お前には引き続き、南の街の警備に就いてもらう」
だがカギツキの命令は、またしてもコハクの予想とは違うものであった。
「担当してもらう場所は"南第4地区"と呼ばれている街だ。北の街へ警備の人手を割く為の埋め合わせだ」
「・・・はい。了解しました」
南第4地区という場所は、コハクも一度警備に就いた事がある。
反乱者が多く住んでいる、あまり平穏とは言えない街だ。
「それと、もう一つ話がある」
カギツキはおもむろに席から立ち上がると、重々しい足取りでコハクの前へ出る。
「式利は、お前が街の警備就ける様にと、わざわざ私の元まで頼み込んで来たんだ」
「・・・えっ?」
ここまではまだ軽く感じていたカギツキの威圧感が、その台詞と共に、突然コハクへと圧し掛かる。
それは、下手な罵倒よりもずっと重いプレッシャーに感じられた。
「くれぐれも、ヘマをやらかして彼女の顔に泥を塗らない様にする事だな」
「・・・はい」
さっきまでコハクは、もしかしたらカギツキは自分を認めようとしているのではないか? という期待を感じていたが、彼女の表情を見てそれは違うと感じた。
今はまだ自分を責めるタイミングではないだけなのだと、コハクはそう察した。
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