異世界における英雄とアヴェンジャーのあり方は。

朱音めあ

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3章

来客の多い日 02

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「チッ、腐っても魔術師か」

 裏路地へ逃げるカミノへ向け、風の刃や炎の矢を放つカグリ。

 その一撃一撃が、並大抵の人間であれば一瞬で肉塊になり、炭になる程の威力だ。

 だがカミノは魔法壁を展開し、それらの攻撃を全て完璧に防ぐ。

 カミノに戦う意思はなく、逃げる事に徹しているらしい。


「それじゃ、こんなのはどうかねぇ!」

 カグリは一旦、魔法を放つ手を止めると、自身の脚へと魔力を注ぎ、地面を蹴った。

 カグリの脚を纏う魔法の風がロケットの様に噴出し、カグリの身体が加速する。

 カグリはそのまま建物の"壁"に足をついて疾走し、邪魔な魔法壁を飛び越えてカミノへ接近する。

 その勢いのまま、カグリは剣を振り上げ、真っ赤な炎を纏う刃を振った。


「おっと」

 カミノが瞬時に魔法壁を展開する。

 カグリは突進の勢いを緩めることなく、真っ赤な炎を纏わせた剣を振るい、そして魔法壁へ剣を叩きつける。

 魔法壁と炎の刃が衝突し、その衝撃で周囲の壁が揺れる。
  
 魔法壁にヒビが入るが、やはり砕くには至らない。

 
 その隙に、カミノは近くの建物の窓を魔法で破壊し、その中へ飛び込んだ。

「うわっ!? なんだお前!?」

 中にいた男性が驚いた声を上げる。

「おい!? 窓が粉々じゃねぇか!? ふざけんなこの・・・!」

 突然、中を荒らされた事に腹を立てたのだろう、男性はカミノを止めようとする。


「邪魔だ」

 だが、カミノは迷いなく魔法の弾丸を放ち、男性の胴体を撃ち抜く。 

「がっ・・・!?」

 魔法の弾丸は男性の胴体を貫通し、大きな風穴を空けていた。 

 そして男性は驚いた顔のまま、床に倒れこむ。

 そこへ、丁度壊れた窓を通ってカグリが現れる。


「おい、操り人形ちゃん。土産だ、受け取れ」

 カミノはカグリが現れたタイミングを見計らって 男性の死体を魔法による念力で掴み、そしてカグリへ向け投げ飛ばした。

 血を飛び散らせ、男性の死体がカグリへ向かって飛来する。


「あ"?」

 だが、カグリは風の刃を放ち、飛来する死体を切り刻む。

 そして風の刃は逃げるカミノへ向かい突き進むが、カミノは既に建物の奥へと逃げ込んでいた。
 
 すぐにカグリはその後を追うが。

 建物は意外と広く、通路は複雑であり、中々魔法の狙いが定まらない。


「まぁ、追いかけっこもキライじゃあないんだけどねぇ」 
 
 カグリの握る剣の刃を、真っ赤な炎が覆い尽くす。

「バカみたいに逃げ回るネズミを追い詰めるのは、趣味に合うんだよ」
 

 やがて、建物の奥へと逃げたカミノは、出入り口のドアを魔法で突き飛ばし、外へと出た。

 後ろには、カグリの姿は見えない。


 が、その瞬間。
 
 建物の壁が砕かれ、炎が吹き出す。

 そして、そこからカグリが飛び出した。  
 

「おっと・・・!」

 カミノは新しい魔法壁を展開させるが、既にカグリの間合いの中である。

 カグリは一瞬でカミノの横へ回り込み、剣を振るう。 

 振るわれた剣に躊躇はなく、カミノの首を切り裂く。 


「死ね、社会不適合者」
  
 重力に引っ張られ、カミノの頭部が落下する。

 だが、落下するカミノの顔は、何故か笑っていた。

 最後の悪あがきでもするつもりかと考えたカグリだが、その意味にすぐ気が付く。 


「ッ! コイツ・・・!?」
 
 カミノの頭部が、残った身体が、砂となり崩れ去る。 


 これは、人間ではない。

 つまり偽物の、泥人形で作られた使い魔である。
 


「はっ、ははは! なるほど。初めっから茶番だったてことね。くくく。あー、笑える」 

 初めから、カミノはただの身代わりの使い魔だった。

 逃げるふりをして、自分を囮に使ったのだ。 


「・・・あー、でもこれで手の内は見えたかんな。今度は、ぜってー殺してやる」 
 
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