異世界における英雄とアヴェンジャーのあり方は。

朱音めあ

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3章

来客の多い日 01

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「あっ、雪妃ちゃん・・・お帰り」

 コハクと話を終えた後、雪妃は皆が待っている隠れ家へと帰宅した。

 すると、すぐに日向が出迎える。

「あれ、日向? わざわざ出迎えてくれるなんて、どうしたの?」

 日向はいつも明るく少し楽観的な少女だが、雪妃は何か普段とは違う雰囲気を感じた。 
 

「あの、お客さんが来てるんだけど」

「お客さん?」

 そして雪妃が奥へと向かうと。 


「どうも、こんばんわ。雪妃ちゃん」

 待っていたのは、元ヴァーリア軍の魔術師であるカミノであった。
 
 いつもと違う違和感の正体は、彼女のせいだろう。


「か、カミノさん!? まさか、ここに来るなんて」

「あぁ、突然すまんね。少々、急ぎの話があってね」

 カミノは椅子に座り直すと、深く腰掛けて楽な姿勢をとる。

「雪妃ちゃんが無事に過ごしている様で、安心したよ」

「いえ、むしろカミノさんこそ良くご無事で。生きている事は噂話で良く聞いてましたが、姿は全然見かけなかったので」

「ふふ。前よりも用心深くなったもんでね。今じゃあヴァーリアで最も危険な反乱者として目を付けられているしな」
  
 それも当然だろう。

 魔法が扱えなかったり怪我によって兵士になれなかった者が多い反乱者の中で、カミノ程に魔法の技術と知識がある者などいない。

 例え離れた街にある反乱者達のグループであっても、何かしらの形でカミノの恩恵を受けていたりする程、彼女の影響は強い。 


「さて、そろそろ本題に入るが」
  
 雪妃が席に着いたところで、カミノがそう述べる。


「東の街の反乱者達が襲われたのは、もう知っているだろう?」

「は、はい。襲撃されたグループは、全員残らず殺されたと聞きましたが」

「その通り、捕える事もなく全員殺された。ヴァーリア軍もせっかちだ。奴ら、容赦なく反乱者を殺し周っている」

 それを聞いて、雪妃の頭に嫌な記憶が浮かんだ。

 軍がどれだけ容赦ないかは、既にその目で見てきているからだ。


「反乱を起こすなら、救世主がいる今しかない。さて、君達はどうする?」

「私は・・・」

 隣の部屋では、まだ子供の反乱者達がいる。

 奴隷として売られるはずだった子たちであり、ある程度成長している者はいるものの、戦う事などはできないだろう。


「ここには、戦う力の無い者が多いです。まずは、この子達の安全安全を確保しなければいけません」

「ふむ。それはつまり"君自信"は、反乱に加わる気はあるという事だな?」

 雪妃は、一度口を開いたが、悩みながらその口を閉じた。


 覚悟はしていた事だ。

 しかし今ここで返事を返せば、この反乱に決着が着くまで引き返す事は出来ないだろう。
 
 雪妃の脳裏にはどうしても、長い間過ごしてきたカノールの店や、仕事先のカフェ、センリ達、そして自分を助けようとしに来たコハクの姿が浮かんでしまう。

 反乱者でありながらぬるま湯に浸かり過ぎていたと、雪妃は自分の甘さを悔やんだ。


「ちょっといきなり過ぎたかな。少し落ち着いて考えるといい・・・と、言いたいところだが」

 突然、カミノが席から立ち上がる。


「のんびり話をする暇はないらしい」

 雪妃が「え?」と返事をした瞬間。

 入り口のドアが乱暴に開く。
 

「ま、またお客さんかな?」

「待って、日向! 下がって」

 雪妃は咄嗟に立ち上がると、日向を庇う様に前に出る。

 そして魔術器を手に取り、その銃口を入口へと向ける。


「雪妃ちゃんよ、キミらは下がっていろ」

 対するカミノは落ち着いた様子で席から立ち上がり、入口を睨む。


 その入り口から、大きめの物体が、ごろんと転がり出る。

「なっ、何・・・?」  

 もぞもぞと動くその物体は、手足を縛られ口を塞がれた、反乱者の少年であった。

 雪妃と同じグループの少年で、班長の青年と一緒に物資を調達しに出かけていたはずである。
   

「妙な匂いがすると思ったら。これはこれは、超ラッキー」
 
 そして、入り口からもう一人、軽い口調で独り言を話ながら、兵士が現れる。

「よぉ、裏切り者の外道魔術師さん」

 カグリは剣を抜き「じゃあ、コレはもういらないな」と呟くと、反乱者の少年へ剣を突き刺した。

 少年の口を塞いでいる布の間から、断末魔が漏れる。
 
「っ・・・!!!」

 雪妃は唇を噛みながら、魔術器をカグリへ向ける。

「ん? さっきの男といい、弱そうな護衛ばっかりだなぁ。人手不足か? 裏切り者の魔術師よぉ?」

 しかしカグリはそんな武器などは警戒する様子もなく、片手に持っていた"何か"を、床に投げ捨てた。 

 
 ドン、とそれなりの重量感を感じさせる音を立てて床に転がった、それは。

 雪妃達のグループでリーダーをしていた、青年の頭部であった。 

「ひっ・・・!? そんな・・・!!!」

 魔術器を握る雪妃の手が、小刻みに震え出す。 


「あの半分魔物になりかけてる殺人鬼ちゃんはどしたの? こんな奴らじゃあ、あっという間に終わっちゃうよ?」

 カグリは見下す様に雪妃と日向を見る。

 が、カグリは何かに気が付いたのか、雪妃と日向を交互に見ながら、眉をひそめる。


「あれ? ちょっと待てよ。その女、どっかで・・・」

 カグリの視線は刃物の様に鋭く、二人は身体の中まで裂かれて覗かれているかの様に感じた。

 魔術器を握っている雪妃の指が震え、額からは汗が垂れる。

「あー、そうか。お前ら"殺し損ねた"奴らか! 成る程、だから顔を覚えているのか! ぐはっはっは!!!」

 カグリが楽しそうに笑う。


「・・・ぁ」

 雪妃もまた、目の前の兵士の姿を思い出した。

 かつて昔、仲間の反乱者達を殺し、自分の居場所を地獄に変えた恐ろしい兵士の中の一人である事を。  


「丁度いいねぇ。そんじゃ、殺すわ」

 そしてカグリは剣を構え、雪妃と日向へ向かい疾走する。
 
 雪妃は震える指に力を込めて魔術器を起動し、魔術器は強力な魔法の弾丸を発射する。
 
 しかし、カグリは魔法の弾丸を剣の一振りで弾き飛ばし、次の瞬間には雪妃の目の前へ迫り、剣を振るう。

「っ・・・!!!」

 それは、あまりにも速すぎる一撃である。
 
 避ける間などない。

 死んだ。雪妃はそう思ったが。


 しかしカグリの振るう刃は、雪妃の身体に到達する前に、半透明の壁に阻まれていた。

「チッ」

 カグリが舌打ちを吐く。

「私の魔法壁は、そこらの魔術師のとは強さが違うぞ? いくらアンタだろうと、その壁を壊すのに10分は掛かるだろうな」
 
 カミノの生成した魔法壁が部屋を二つに分断し、丁度カグリと雪妃達を別ける様に展開していた。

 
「ほら来いよ、軍の操り人形ちゃん。それとも、その魔法壁を壊してでも、ここにいる反乱者達を殺すかい? その間に私は逃げちゃうけど?」

 カミノは後ろへ向かい魔法の弾を放つ。

 そこにあるタンスが砕かれ、そして後ろの壁まで貫通して砕いた。

「丁度"裏口"も見つけたことだしな」

 崩れた壁の奥は、通路になっている。  
 
「お喋りが過ぎたな。ファッション気狂いちゃん」

 カミノはそう挑発する様に言うと、裏口へ向かい逃走する。


「ハッ、イカレてるのはお互いさまだろーが」

 カグリはカミノへ向け無数の風の刃を飛ばすが、それはカミノの展開する魔法壁に阻まれた。


「ちっ、めんどくさ」

 カミノを後を追うカグリだが、一度足を止め、気が狂っている様な目付きで、雪妃と日向の方を視る。

「アンタらは後で殺す。何処へ逃げても、絶対殺してやるからな」

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