異世界における英雄とアヴェンジャーのあり方は。

朱音めあ

文字の大きさ
53 / 80
3章

雪妃彩香の過去話。

しおりを挟む


 雪妃彩香が異世界に転移したのは、小学校高学年の頃であった。

 転移した先が、安全なヴァーリア国付近のCランク帯だった事は、不幸中の幸いというものだろう。 
 

 だが彼女は、異界人でありながら魔法の適正が無かった。

 まだ幼く、魔法も使えない彼女は、当然ながら兵士になる事は出来ない。

 それはつまり、住む場所も、学ぶ場所も与えられないという意味であった。

 軍は、魔法の適正がない異界人を育てたりはしないからだ。


 とはいえ、雪妃はまだ子供である為、国からは多少なりの支援を受ける事は出来た。

 しかし与えられるのは金銭だけで、住む場所は与えられない。

 小学生程度の子供が、ひとりで見知らぬ土地で生きていく事はあまりにも厳しいだろう。

 雪妃は、支援金のみで街を彷徨う生活を続けたが、直ぐに限界を感じていた。
  

 そんな時、一人の兵士が雪妃の前に現れた。

 丁度、今のコハクと同じくらいの年齢である、異界人の少年だ。
   
 雪妃は、彼に救われた。
 

 初めは、子供ながらに何かされるのではないかと警戒していた雪妃だったが、兵士の少年は想像よりもずっと優しい人間であった。
 
 そうして、雪妃は彼と一緒に暮らすようになった。

 
 見知らぬ世界で、ただただ不安で、絶望しか感じれなかった雪妃だが、彼と過ごすうちに、こう思う様になっていた。

「この世界に来て、彼に出会えて良かった」と。


 しかし。

 ある時、彼は任務中に魔物に襲われ、致命的な怪我を負ってしまった。

 それは魔術的な毒、いわゆる呪い。

 彼の身体は呪いに蝕まれ、他人の手を借りないと歩けない状態であった。

 その呪いはとても複雑で、治療するには長い期間と費用が掛かる。

 故に、軍は彼を切り捨てた。 

 軍にとって、彼の力は時間と資源を使うに値しなかったのだ。 


 残っている貯蓄では、治療する事は疎か、そう長くは生活も出来ない。
  
 けれど雪妃は、彼を見捨てることはしなかった。


 今度は自分が彼を助ける番だと、毎日街を走り回り、彼を助ける手段を探したのだ。

 しかし、どれだけ助けを求めても、助けてくれる人などいなかった。

 足掻けば足掻くほど、この世界がそれだけ冷たいかを知ってしまう。 

 ヴァーリアの人々にとって、異界人は都合良く働く道具でしかないのだと分かってしまう。
 
 
 そんな状況で、唯一手を差し伸べたのは、表社会では生きられなくなった者達であった。

 それは、反乱者と呼ばれる者達である。


 とある元魔術師の女性が「私なら治せる。必要な物を揃える為に、私達と手組んで欲しい」と交渉を持ち出したのだ。


 それは嘘かもしれない、自分を利用するつもりかもしれない。

 そうとも思ったが、雪妃はその藁に縋った。
 
 もう、他に頼る場所など無かったからだ。 


 雪妃は反乱者となり、元魔術師とその仲間と共に、必要な物を盗み、揃えていった。

 他の反乱者達もまた、助けを必要としていた。  

 彼らは協力し合い、生活していた。 
  

 そうして呪いの治療を始めていくと、兵士の少年の容態は、少しずつだが良くなっていった。

 それに、けして十分とは言えないが、今の二人だけで過ごすよりも良い生活がおくれていた。 


 けれど、それも長くは続かなかった。

 雪妃の居る反乱者の隠れ家に、軍が攻めてきたのだ。

 反乱者の活動が活発になったことで、逆に軍を呼び寄せる事になってしまったのだ。

 
 真っ赤に燃える炎、壁を砕く魔法の刃、逃げ惑う仲間の反乱者達の中。

 雪妃は兵士の少年の元へと駆けつけたが、彼は攻撃に巻き込まれ、既に傷だらけで瀕死の状態であった。

 雪妃は、彼を連れて一緒に逃げようとしたが、幼い少女に負傷した兵士を背負いながら逃げる力はない。
 

 そうして彼は、最後に「ありがとう」と雪妃に感謝の言葉を伝えると、その場で息を引き取った。 
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...