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3章
アリア
しおりを挟む「ユーくん」
少女の声。
「ねぇ、ユーくん」
その声で、コハクは目を覚ました。
空も天井もなく、そこはただ白い。
「おはよう、ユーくん」
コハクは顔を上げると、そこには薄い金髪の少女がいた。
コハクには、彼女に見覚えが全く無かったが、しかし。
何故か、コハクは少女の名前を知っていた。
「・・・アリア」
コハクには、この場所がどこなのかもさっぱりわからないし、彼女が何者で、自分とどういう関係なのかもわからない。
けれど、アリアは自分にとってとても大切な存在であると、
自分の唯一の生きる意味と言っても良い程だと、そう感じた。
しかしどうしてか、アリアを見ると、嬉しさよりも恐怖を感じた。
恐怖と言うよりも、それは飢えに近い。
彼女自身を恐れているのではない。
彼女を失ってしまう事を恐れているのだ。
ふと、コハクは左腕に違和感を感じた。
見ると、左腕は黒く、人間の物とは思えない形であり、
獣の牙のような爪が5本に、腕の周りには、軟体動物の様な触手が纏わりつく形で生えていた。
目にするだけで恐怖を感じる姿だが、しかしコハクは何も感じず、それが当たり前に自分の腕なのだとすら感じた。
「ユーくん」
少女がコハクを呼ぶ。
「私は、大丈夫だから」
次第に、周囲の風景に変化が起きる。
何も無かった空間から、次第に景色が生まれていく。
そこは灰色の金属質な壁に囲まれていた。
そして、少女の首や手足には鎖が繋がれている。
その鎖はコハクの手足にも付けられていたが、しかしコハクのは、全て千切れている。
小さなガラス窓の外に、数人の人間の姿が見えた。
彼らは黒いローブに身を包み、魔術師の格好とよく似ていた。
ここで何が起きているのか、コハクにはさっぱりわからない。
・・・そのはずなのに。
何故か、何をしようとしているのか理解してしまう。
「ね、もう終わらせよう。もうこれ以上、苦しむ必要ないよ」
アリアの細くて綺麗な指が、コハクの黒く異形の左腕に触れる。
「私はユーくんの一部になる。そういう運命だった。きっとその為に生まれてきた。
ずっと、ユーくんと一緒になる。私は、そういう風に出来ていた」
コハクの意思とは関係なく、左腕の触手がアリアの腕に絡みつく。
身体が、目の前の少女を欲している。
「私は許すから。ユーくんは生きて」
「・・・分かった。あぁ、分かった」
アリアの細い腕がコハクの背中に回される。
コハクは、その瞬間まで心が葛藤しているのを感じた。
だが、左腕の触手は少女の身体を締め付け、爪の生えた手は、飢えた獣の口の様に大きく開く。
もう、この腕に意思は伝わらない。
鋭い爪は獣の様に、アリアの胴体に食らいつく。
「あ、あぁぁ・・・ぁ・・・」
目の前で、自分の愛した少女が、血まみれになっていく。
自分の腕が、少女の肉を削いでいく。
「あぁぁぁぁあぁぁあxxxがgxggggっzzggggxgzgzxxx!!!!!!!!」
身体に液体の様なものが流れ込んでくる感覚。
身体に力が染み渡ると同時に、それは全て後悔と、悲しみと、理不尽さに代わり。
それは、力へと変化する。
肩から黒い霧が吹き出し、それが形を造り、一本の、禍々しい腕が創造された。
「ああアァァァxxx!!!」
分厚い扉が、空き缶の様に吹き飛ぶ。
異変に気が付いた外の人間達が、慌ただしくなる。
コハクは、身体が力に支配されるのを感じた。
その力を抑えられず、床を蹴って駆け出す。
「ハハxxァァァxxxガァxxx!!!」
目の前に出てきた物体は、全て引き裂く。
テイザーガンや、束縛用の特殊武器が飛んでくるが、それらは全てコハクの身体をすり抜けていった。
研究員達が、金庫の様に分厚い扉を閉めようとするが。
その隙間に手を突っ込み、身体を霧状にして通り込む。
「ひぃぃぃ!!! ぎゃあああ!!!」
人間の悲鳴が響くが、数秒後には何も聞こえなくなった。
***
電源関係がショートし、パチパチと音を立てる。
研究室には、通路は、無機質なガラクタと、有機的な赤い血肉が散乱していた。
「は、はは・・・」
その研究室の物陰から、恐る恐ると人影が覗いていた。
「あぁ、あれが・・・"救世主"なのか・・・!」
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