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第7話
しおりを挟む台所から、カップケーキの焼ける甘い匂いが漂う。
「はい、完成」
早瀬の手を借りた(というかほぼ早瀬が作ったのだが)お陰か、カップケーキは無事に爆発することなく出来上がった。
早瀬は焼きあがったカップケーキを奇麗なトレイに並べると、それを食卓のテーブルへと運ぶ。
「クリームとかチョコレートでトッピングしても良いんだけど、このままでも十分甘くて美味しいと思うわ」
「すごい・・・ありがとう、早瀬さん」
ショッピングモールでの出来事からあまり元気のなかった鷹華だったが、綺麗に焼きあがったカップケーキを見て感動している様子である。
「ありがとうじゃないわよ、二人で作ったんだから。さ、早く食べましょ?」
鷹華が席に着くと、早瀬もその隣に腰を下ろす。
「それでは、いただきます・・・」
初めて自分で作った料理を前にしているせいか、鷹華は緊張した様子でカップケーキを手に取り、一口齧る。
その様子を、早瀬が無言で眺める。
「・・・」
さっきまでは自信満々な早瀬だったが、いざ食べてもらうとなるとその反応が気になるのだろう。
「・・・美味しいです。甘くて、生地も丁度良い柔らかさで!」
言い終わると、鷹華は手に取っているカップケーキをぱくぱくと口に運び、そして息を付く間もなく次のケーキを手に取る。
その様子を見て安心したのか、早瀬もカップケーキを手に取る。
「鷹華、そんなに急いで食べて喉につっかえないでよ?」
「ふぁい・・・」
もごもごと頬にケーキを含みながら返事をする鷹華。
それを見て、早瀬はくすりと笑いながらカップケーキをかじる。
「うん、中々の出来ね」
早瀬もケーキの出来に満足そうな様子である。
「・・・凄いですね、早瀬さんは」
口に含んでいたケーキを飲み込んで、一息ついた鷹華が独り言の様にそう呟く。
「こんなに美味しいケーキも作れて、お掃除もきっちりとこなせて。早瀬さんは本当に凄い人です」
「な、なによ、いきなり」
早瀬は真面目に褒められて恥ずかしくなったのか鷹華から顔を逸らし、照れ隠しのつもりなのかケーキにかぶりつく。
しかしそんな早瀬とは対照的に、鷹華は真面目な表情をしていた。
「・・・私、決めました」
そして鷹華は口を開く。
「早瀬さんみたいな、何でもそつなくこなし、皆を支える。そんな強い人を目指します」
そう言う鷹華は、先程までの沈んでいた時とは違いとても力強い声であった。
「わ、私みたいなんて、大げさよそんなの」
早瀬は相変わらず照れているのか頬を染める。
しかし普段の調子が戻ってきた鷹華を見て安心したのか、自然と笑みを浮かべる。
鷹華にどんな心境の変化があったのかはわからないが、初めての恋愛と失恋を通して、彼女の中で何かが変わったのだろうと。
そんな鷹華の成長を見て、早瀬は何だか嬉しく感じたのだ。
「・・・でも、大変そうね。鷹華は不器用っぽいし」
早瀬がくすりと笑う。
早瀬が見ていた限り、鷹華は結構なドジで料理も下手である。
中々の茨道だと思う早瀬であった。
「なっ、なんで笑うんですか!? 今度はちゃんと爆発しないケーキを作って見せますから!」
頬を膨らませる鷹華。
それを見て、早瀬はまたくすくすと笑みを浮かべる。
「そう? じゃあしょうがないから、これからも私が傍で教えてあげる。だから・・・」
早瀬はカップケーキをひとつ手に取り、そしてそれを鷹華へと差し出す。
「これからも、よろしく」
鷹華は、はっとした表情で差し出されたケーキと早瀬の顔を何度か交互に見た。
そして嬉しそうに微笑み、両手でカップケーキを受け取る。
「・・・はい! これからも、よろしくお願いします!」
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