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《 五 》

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 席へ戻ると、飲み会はお開きモードに入っていた。
 心配そうな顔をしたシゲルが声をかけてくれようとした瞬間、誰かがそれを遮った。その誰かがいやらしく気を遣ってくる。あたしはそれには答えずに、シゲルに向かって「大丈夫だから」と一言言った。途端にほっとした顔をしたのが可笑しかった。それはたぶん、あたしにしか見えてなくて、あたししか知らない顔だ。
 どうやら、あたしたちが居ない間にカラオケで二次会という話になっていた模様だ。もちろん、あたしは帰る気満々だ。久しぶりに会えても、長い時間一緒に居れても、こんなのは面白くない。一緒に帰っちゃおうよと彼に視線を送ろうとして止めた。
「ミチル、明日早いんだろ? 送るよ」
 どうしてシゲルにはあたしのしてほしいことが直ぐにわかってしまうんだろう?
 会計を終えて店から出ても、女たちはシゲルを引きとめようと必死に群がったが、彼は気にも留めずに歩き出してしまった。あたしはさっき仲良くなった彼女に一言告げると、慌ててそれを追いかけた。
 視線が痛い。あたしは何も悪くないはずなのに、何故か後ろ髪を引かれた。躊躇っていると、シゲルが潔く一言を発した。
「気にするな。ほら」
 立ち止まった彼は振り向きもせずに左手を差し出した。
「うん……」
 シゲルの手を取ると握り返した。そして彼はゆっくり歩き出した。
「今日、うち泊まってかない?」
 彼の提案にあたしは少し間を置いてから、「うん」と返事を返した。
 今日、初めて彼の部屋に行く。


 あたしは最近いつも思う。いったい、あたしは彼の何なんだろう? あたしはシゲルのことがすごく好きだ。でもそういう話になると彼はすぐに誤魔化して上手い具合に丸め込まれてしまう。
 シゲルの部屋はとても彼らしくて、彼のにおいがして、初めて来た気分がしなかった。けれど、ここに果たしてあたしの居場所はあるのだろうか? そんな微かな不安を抱きながら、ぐるぐるとひとつのことばかり考えていた。今日こそ、彼の本音をきちんと知りたい。
「何考えてるの?」
 コーヒーの入ったマグカップを二つテーブルに置いて、彼は隣に座った。
「別に何も」
「そう? こういう時のミチルは大抵、ろくな事考えてない」
 そう言われてはっと気づく。ソファーの上でしっかり膝を抱え込んで、体育座りをしている自分を悔いた。取り繕いようもない程にわかりやすい、あたしの癖だ。
「本当に何でもないよ」
 飲み会の時とは違って、今度はぴったりくっ付いて座る。シゲルは大きいから肩に頭がぶつかる距離、見上げるとすぐ上に目が合う。この距離があたしは好きだ。
「そう。ならいいけど……今日は悪かったな」
「うん。でもカンナさんと仲良くなったよ」
 今日彼女と話したいろんなことを話した。
「女は嫌いって言ってたよ」
 シゲルが爆笑した。
「ミチルとカンナは似てるよ。あいつとは一番付き合い長いんだけれどさ、学生時代からだから。昔からおんなじこと言ってたよ。んで、お前と同じくらいの頃、ひと回りくらい年上の男、追いかけてたっけな。気が合うはずだよ」
 うーんと、なんとなく引っかかって腑に落ちずに唸っていると、気が付いたらシゲルは笑いを引っ込めて真面目な顔でこちらを見つめていた。
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