永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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面倒くさい親友の親友は自分

( 三 )

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 神田は篤に電話をかけ直した。
「かんちゃん、何?  忙しいんだろ」
「……お前に聞きたい事があるんだよ」
 そう神田が言うと、篤は「答えられる事なら答えてやる」と偉そうに言った。
「小説のネタ?」
「いや違う」
「じゃあなに」
「聞きたいのは最近のこと」
「は?」
 神田の疑問は今更でもあるのに、何故か今知りたくなった。
「お前はあのまま大学に残って研究の道に進むと思ってた」
 電話の向こうで篤が押し黙ったのがわかった。しかし、神田は続けた。
「お前は居なくなったのに、なんで甲斐はあそこに居続けるんだ」
 甲斐らしくないと神田は言いたかった。甲斐は流離うことを好む性分だった、大昔から。
「甲斐はギターを辞めたからとか、どうでもいい理由しか並べない」
 と、ぽつりと篤が言った。
「なあ、あいつ、本当にギター辞める必要あったのかな」
 神田はそれ以上、突っ込むのをやめた。
「おーい」
 無言の神田に電話口で篤は呼びかけたが反応がない。
 切れたかなと思った時、神田が喋った。
「……あー、俺が馬鹿だった。甲斐は甲斐の理由を持ってる。例え俺たちが直接あいつに詮索しても、きっと無駄だ」
「……そうだな」
 篤が淋しそうに言った。
 そして「じゃあな」と電話を切った。
 篤はもうひとつ言いたいことがあったが、飲み込んで終いにした。
 甲斐の考えていることなど誰にもわからない。
 淋しそうに「そうだな」と言った篤に、大昔からそうだったじゃないかと、神田は嘆きたくなった。

 他人にあまり心を許さない甲斐は心を許している人間に対し、ひとりの例外を除いて、更に大事なことを言わない。
 理屈で全てを済ます彼は、なにかを抱え込むことをせず、のほほんと淡々と生きるだけだ。
 分かりきったことなのに、篤なら自分の知らないなにかを知っているかもしれないと尋ねてしまった。結果、虚しいだけだった。
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