永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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諦めた者が願う着地点

( 五 )

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 人を綺麗にする仕事をしている玲二は自分の手を加えなくとも堪らなく綺麗なものを知っていて、常にそこを目指し化粧を施し続ける。
 彼にしてみたら、うまくいかないことばかりだ。
 どんなに頑張っても、施す相手は彼女じゃないのに、自然と手は彼女を目指していて、結局がっかりする。
 そこにあるのは造形美の問題ではなかった。誰もが持っている本当の綺麗を引き出してやれない自分に落胆する。
 落胆したくない玲二は本気の相手に絶対触れない。
 篤も玲二も、自分の気持ちにまっすぐで純粋だなと常々甲斐は思ってきた。しかし、篤の純粋さと玲二の純粋さは全く別物だ。
 篤のような純粋さの方が損ばかりする。
 少なくとも甲斐はそう考えている。
「その子何歳?」
「十七、二年生」
「お前の性格で一年半は絶対にあり得ない」
「俺、待てるよ?  五年でも十年でも、たぶん待てる」
 篤の神妙な声に、甲斐は返答が出来なかった。
 甲斐の言葉を待つ篤と、なにも言わない甲斐。しばらく無言が続き、どちらともなくおやすみと言って電話を切った。

 
 教え子と結婚したなどという話は山ほどあるし、世間体を除けば歳の差なんてなんら恋愛に支障などない。
 甲斐はよくよく考えると、今まで年齢を気にする必要がない経験しかなかったことに気付いた。
 そもそも、自分の体験してきたことがちゃんと恋愛と呼べるのかも怪しい。それでも本人はそれなりに本気で向き合っているつもりだった。
 誰を見てるのと聞かれたある日、ごめんとしか彼は言えなかった。
 数年前に、彼は恋愛を諦めた。自分には向いてないと放り出した。

 あの人がちゃんと生まれていれば同じ歳かなと、ぼんやりと思った。
 もし出会えたなら、篤ではないが十歳差だ。その差が大きいのか小さいのか、いまいち甲斐にはわからなかった。

 会うことはないだろう。出会う手段がない。

 諦めているけれど、諦めているとは誰にも言わない。
 そんなことを言えば、お前は仙人みたいだと言われるに違いなかった。
 自分は人間だし、人間を捨てる気もない。
 彼女が人間である自分を愛していることは確かで、彼女が彼に望む限り、人間であり続けて生きることをやめない。




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