永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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なにも知らずに本音は隠す

( 二 )

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 インターホンが鳴る。
 天音の方が近いからと彼女が出た。
「はい、どちら様ですか?」
「お、良かった。駿河だ」
「え、先生?」
 慌てたように天音は玄関に飛んでいった。
 見送った奏は少し前の昼間のことと先程のことを思い返し、少し複雑な気分を抱えた。
 天音が鍵を解いてドアを開けると、私服姿の篤が封筒を抱えて待っていた。
 いつもと雰囲気が違って天音は困ってしまった。
 よりにもよって、どうして今現れてくれてしまったのか。篤の顔を見た瞬間、自身をやたらと惨めに感じた。
 彼は少し顔を見たかったけど、少し顔を見たくなかった相手だった。
 彼の言葉を実践した結果、少しだけ彼の顔が見たくなって、でも自分の顔は見られたくなかった。
 奏に言ったこととしたことが、彼にあげられる全てだ。これ以上のものはきっと天音は彼にあげられない。
 篤の顔を見たら、奏に対する自分の気持ちに切なくなった。
「なに?」
「いつもと違う」
「そりゃそうだろ」
 「これ届けに来た」と篤は天音に封筒を差し出した。
 わざわざ家まで届けに来るものとはなんだろうか。
「舜に急用だって呼びつけられて、パシられた。お前のせいで」
 天音は首を傾げつつ、自分が悪いわけではないのにとりあえず謝った。
「中身なんなの? その場で開けさせろって言われたんだけど」
 急かされて封筒の中身を取り出すと、それは模試の申込書だった。
「やったー! 雪山!」
 模試と雪山の関連性は見つからないが、勝負ごとが好きそうな弟や天音から考えて発想の検討が付いた篤が聞いた。
「冬休みの遊び選択権?」
「そう!」
「まだ早いだろ」
 呆れながら篤が天音の手元を覗き込むと舜からのメモが貼り付けてあった。
「締め切り、明日じゃん」
「先生、どうしてうちの学校はこの模試受けないの?」
「レベルの問題?」
 納得した天音に、それはそれでひどいなと篤は思った。本当はそんな理由ではないのに。しかしそう言った彼も彼だ。
「これ、申し込めば学校で受けられる?」
「ちょっと貸して」
 天音の手元から申込書を奪うと篤が目を通しはじめた。
「……あいつ、どうやってこれ手に入れたんだよ」
 呆れながら何枚か綴ってあるプリントに目を通していくと、最後のプリントに個人での取り寄せは可能でも申し込みは学校を通す必要があると書いてあった。
「申し込みは学校から。今見てよかったわ」
「だから急用って舜言ったのね」
 この模試が当たり前のように自分の学校でもあると思っていた天音は、無いことを知るとそれはもう悔しがった。勝負の土俵にすら上がれないのだ。
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