永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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なにも知らずに本音は隠す

( 四 )

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「親御さんは?」
 勧められて着いたテーブルで、篤は奏に聞いた。
「ふたりとも何日か留守」
 美味しそうな料理を見ながら「残念だ」と篤が言った。
「弟も世話になってるから挨拶をと思ったんだけどな。弟の親友だし」
 奏は一緒に暮らすまでの天音のことをほとんど知らないことに今更気付いた。けれども自分の目に映る天音の姿だけで充分で、それが全てでよかった。だから適当に相槌を突いた。
「また来ればいいじゃん。母さんの料理も美味いよ」
 その言葉に篤は面を食らった。歓迎されているようでされていないと感じていたのだ。当たり前のようにそう言った奏と天音と血は繋がってない。されど姉が姉なら弟も弟だなと可笑しくなった。
 篤の分のご飯をよそってきた天音が不満そうな顔で篤に言った。
「先生。今なにか失礼なこと考えてたでしょ」
 あたしには隠そうとしてもわかるのだからと言わんばかりの目付きで天音が篤を睨んでくる。
「お前、人のことなんだと思ってるんだよ」
 茶碗を受け取り、「ありがとう」と言いった篤に「鏡を見たら」と天音が言った。
 篤に合わせて仕切り直して談笑しながら食べだしたものの、奏にしてみたらふたりの会話は仲が良いのか悪いのか量りかねた。互いに失礼極まりないようなことを連発している。
 天音も天音だが、この先生は本当に変な人だなと奏は思わずにはいられなかった。
 当事者たちは酷い内容の会話を交わしながらも楽しそうで美味しそうにしていて、時々奏も巻き込まれて迷惑である。
「食べるのが好きだから、料理も好き。そんでもって」
 化学だとか科学だとか思っているんだろうと言おうとしたら奏に止められた。
「先生、それ言っちゃうとさ、面倒くさいことになるよ」
 やっぱりかと勝手に気付いて、篤は言うのをやめた。
 全くもって誰かさんと同じ発想をしてくれて、少し悔しい。
 ケミカル反応だと言って常日頃からやたら嬉しそうにシェイカーを振る親友を思い浮かべた。
 甲斐はきっとこの状況を伝えたとしても顔色なんか微塵も変えないだろう。篤はそうは思う。どうせ馬鹿にしたような顔でよかったねと言うくらいだ。篤は甲斐に天音のことを伝えていない。伝えてあったとしても微笑む程度だろうと思う。他の連中は羨ましがるかもしれない。
「姉さんさー、先生に貰ってもらえば?」
 奏はやたらと唐突にものを言うなと篤は思った。
「奏、自分で抉り返して楽しいの?」
 嫉妬と共に似合っているなとも思ったら、無意識に口から言葉が飛び出してしまった。
 天音に言われて気付いた奏は途端に不機嫌な顔な顔付きになった。
「今また抉られた。言われなきゃ気付かなかった」
 奏が天音に何を抉られたのかはさて置き、本当に仲が良いなと篤は思った。
「お前ら、仲良いな。ご両親も喜んでるんじゃないか?」
 義理の家族であるふたりには、血が繋がっていないという線引きなどないように見える。
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