永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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特別はいつだって秘め事と化す

( 三 )

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「天音の彼氏?」
 出迎えた見知った顔が不躾に聞いてきたから、天音も不躾な聞き方をした。
「一葉、バイト?」
「というより、実家の手伝い」
 天音は、あたしの一大決心がとぼやいた。
「この子の彼氏なんて大変そう」
 案内しながら一葉が失礼にもそう言ってみた。彼氏じゃないことはなんとなくわかっているけれど、茶化したくなる。
「彼氏じゃないよ。大変そうじゃない」
 洸までそんなことを言ったから、天音が「ひどい」と嘆いた。
 そんな大変そうな女の子が大好きな誰かさんがいるじゃないかと思うと、一葉は面白くなった。
 面白おかしく天音を揶揄いながら、一葉は二人をカウンターへ案内した。
 カウンターの向こうからメニューとお冷やを出した後、一葉が言った。
「うち、ワッフル屋だと思ったでしょ? 本当はハーブティー専門店」
 メニューを開いた天音が嬉しそうに「知ってる」と返す。
「みんなワッフル食べてるから、ワッフルが専門かと思った。ごめんね」
 メニューの多さに目を見張りながら洸が言った。
「あ。北野の弟の友達でしょ」
 一葉がそう検討を付けると自己紹介をした。
「林田一葉、よろしくね」
 一葉は一見大人しそうに見えるのに、誰に対してもいつもこの調子なのだなと天音は呆れた。そんな天音だって、あまり人のことは言えない。洸は接客に向いている人懐こい子だな思った。
「篠崎洸です。よろしく。おススメある?」
「おすすめって言ってもね、好みや気分もあるし。メニューの説明書き読んで気になるのを見つけてもらう方が俺はオススメかな」
「なるほどね」
「あたし、洸くんと一緒にいるから、ほっとするやつ」
 話を聞かずにメニューを眺めていた天音がそう言った。
 天音好みのほっとするやつを選べと言われているのだと一葉は呆れ、わがままを言った彼女が彼に心を許しているのだなと洸は思った。
「天音が洸くんといるとどうほっとするのか知らないし」
「それもそうね」
 そんなやり取りを終えると、一葉は他の注文を取りにカウンターを出て行き、天音はメニューに目を戻した。天音のこの物言いが健在で洸は少しほっとした。
 天音はカモミールをベースにした仄かに甘さも香るマイルドな味わいのものを、洸は爽やかでスッキリとした飲み心地のものを選んだ。
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