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彼女がきれいな理由
( 五 )
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奏は無意識に綺麗な天音の一番綺麗なところが知りたくなった。彼女の泣く姿を見たいと思うのは、涙に濡れる天音の姿がきっと美しいに違いないと感じるからだと漸く気付いた。憧れ慕う天音の美しい部分を遍く知りたいのだ。本当に彼女の泣く姿が一番美しいのかはわからないけれど、無意識に働く恋慕が普段は絶対に泣かないだろう天音の特別を手に入れたいと欲している。
口付けを交わす時の天音は綺麗だ。はっとするくらい綺麗に映る。
思い出すと、苦しくなった。
自室で物思いに更けていた奏は立ち上がると部屋を出た。隣の天音の部屋のドアをノックした。
天音がドアを開けると、なにかを我慢しているような顔をした奏が居た。
手を引いて、部屋の中へ連れて行って、ベッドに座らせた。
天音はその前に膝をついて奏の顔を見上げて覗き込んだ。そうしてそっと奏の手を取った。
「奏って。気だるそうにしているくせに、いつも頑張ってる。どうしてそんなに頑張っちゃうの?」
苦しそうな奏に天音はそんなことを言った。奏の苦しみを知っているからこそ、捻くれた義弟への彼女なりの精一杯の優しさで尋ねたつもりだった。
「頑張っているつもりはない。けれど、いつも我慢はしてる」
多少の我慢は仕方ないのだ。天音の義弟であるということが、既に特別なことであるのはわかっている。それなのに彼の我慢を止めどなく崩そうとする本能が嫌になる。結局、彼女に甘えて、やり過ごす。彼女の特別を少しだけ与えてもらって安堵して、また欲しくなる。
天音も知っている。我慢がどんなに苦しいことかなど。
「苦しいの少しだけもらってあげる」
そう言うと、天音は奏の隣に座り、彼の唇を奪った。
彼女はまだ自分の一番の特別がなにか知らない。一番ではないが、奏は大事だ。大事な奏が苦しいのなら、その苦しみを少しでも取りのぞいてあげたい。彼女たちはまだこの方法でしかその仕方を知らない。
今日の奏はまるで天音の優しさを受け止めることで精一杯だった。
天音が顔を離すと奏の顔が少し歪んでいたけれども、天音はじっと目を見て敢えて聞いた。
「苦しいの、少しだけだ取れた?」
「……少しだけ取れた」
そう返した奏に、天音が優しさの滲む微笑みを浮かべた。あまりにも綺麗だったから、奏は少しだけわがままを言った。
「本当は全部取ってほしかった」
そう言葉にしたら、胸のつっかえがどうしてか少しだけ溶けた。全ては取れやしないけれど、今だけは大丈夫になった。
歪んでいた顔を元に戻すと奏は言った。
「ねえ、どうして姉さんはそんなに綺麗なの」
あたしはあたしだからと言った天音に、奏は智也の言葉を脳裏へ浮かべた。
天音は無意識に綺麗なんだよ。
天音は無条件に綺麗なんだと奏は思った。彼女が彼女であるが故に。
口付けを交わす時の天音は綺麗だ。はっとするくらい綺麗に映る。
思い出すと、苦しくなった。
自室で物思いに更けていた奏は立ち上がると部屋を出た。隣の天音の部屋のドアをノックした。
天音がドアを開けると、なにかを我慢しているような顔をした奏が居た。
手を引いて、部屋の中へ連れて行って、ベッドに座らせた。
天音はその前に膝をついて奏の顔を見上げて覗き込んだ。そうしてそっと奏の手を取った。
「奏って。気だるそうにしているくせに、いつも頑張ってる。どうしてそんなに頑張っちゃうの?」
苦しそうな奏に天音はそんなことを言った。奏の苦しみを知っているからこそ、捻くれた義弟への彼女なりの精一杯の優しさで尋ねたつもりだった。
「頑張っているつもりはない。けれど、いつも我慢はしてる」
多少の我慢は仕方ないのだ。天音の義弟であるということが、既に特別なことであるのはわかっている。それなのに彼の我慢を止めどなく崩そうとする本能が嫌になる。結局、彼女に甘えて、やり過ごす。彼女の特別を少しだけ与えてもらって安堵して、また欲しくなる。
天音も知っている。我慢がどんなに苦しいことかなど。
「苦しいの少しだけもらってあげる」
そう言うと、天音は奏の隣に座り、彼の唇を奪った。
彼女はまだ自分の一番の特別がなにか知らない。一番ではないが、奏は大事だ。大事な奏が苦しいのなら、その苦しみを少しでも取りのぞいてあげたい。彼女たちはまだこの方法でしかその仕方を知らない。
今日の奏はまるで天音の優しさを受け止めることで精一杯だった。
天音が顔を離すと奏の顔が少し歪んでいたけれども、天音はじっと目を見て敢えて聞いた。
「苦しいの、少しだけだ取れた?」
「……少しだけ取れた」
そう返した奏に、天音が優しさの滲む微笑みを浮かべた。あまりにも綺麗だったから、奏は少しだけわがままを言った。
「本当は全部取ってほしかった」
そう言葉にしたら、胸のつっかえがどうしてか少しだけ溶けた。全ては取れやしないけれど、今だけは大丈夫になった。
歪んでいた顔を元に戻すと奏は言った。
「ねえ、どうして姉さんはそんなに綺麗なの」
あたしはあたしだからと言った天音に、奏は智也の言葉を脳裏へ浮かべた。
天音は無意識に綺麗なんだよ。
天音は無条件に綺麗なんだと奏は思った。彼女が彼女であるが故に。
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