永遠故に愛は流離う

未知之みちる

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懐古の音が鳴り響けば

( 一 )

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 時々「どうして俺が……」とぼやき嘆きながら運転する篤の表情に、となりに座る天音は只管面倒くささを感じ、うんざりとしていた。
 夏休みの始め、受験が本格化する前に北野家が所有する別荘に勉強合宿も兼ねて旅行に向かう最中のことだ。
 気を遣いつつ面白がった舜が天音を無理やり助手席へ押し込めた時、天音も篤もひどく嫌そうな顔をした。好意の裏返しのようなその反応に舜たちはひどく呆れた。
 二人はいつだかの「どこかへ行きたい」という会話を思い出していた。
 あまり言葉も交わさず、かといって背後の賑やかな会話にも加わってこない。時々ぽつりと埒のあかない会話を交わす。まるで二人だけにしかわからない言葉の応酬。
 このドライブが二人だけでないことが不満なわけではない。
 夏が二人をそうさせた。
 背後から天音と篤の不思議な光景を時々眺める度に他の面々は妙な気分だった。興味はあるものの、突っ込むには些か面倒くさい返答も返ってきそうだから放っておく。


 山奥の田舎の小さな街にある別荘に着くと、みんなで荷物を手分けしておろしはじめる。運転に疲れたと不機嫌な篤が長距離走った俺と俺の車を労えとのたまった。あまりにも天音が白い目で篤を見たから、みんなの笑いを買ってしまい、大人気ない篤は拗ねた。
 別荘の玄関の鍵を開けた舜が中から縁側の窓を開けると、そこから荷物を室内へと入れていく。食料やら適度に持ってきたものはそれなりに大量だ。
 この別荘は元々は篤たちの祖父母の家であった。二人が亡くなって後、思い入れのあるこの家を家族の誰もが手放す気がなかった。
 修繕やリノベーションを施して滞在しやすくしたこの家は昔ながらの日本家屋で風情がある。
 来る度に感じるこの風情に天音はひどく惹かれている。去年の模試で冬休みの出かけ先としてここを提案していた天音は一番を取れなかったから見送りだった。降りしきる雪の中に佇むこの家屋も見つめてみたかった。
 今回は模試の結果ではなく、全員一致で行き先がここに決まった。夏休みのこの旅行だけは毎年全員一致でこことなる。今年で三回目。


 篤は今回の連休中、甲斐のところに入り浸り、親友たちと馬鹿騒ぎするつもりだった。舜に押し切られて変わってしまったその連休の予定に天音だけが含まれるならもっと嬉しかったかもしれない。自分が一番そばに居るという優越感に浸れるのはきっと今だけだ。
 弟たちの前で彼女はどんな風に振舞っているのだろうか。興味があるから、保護者をするほどやんちゃではない弟たちに付き合ってやることにした。
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