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第二話
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「ねえねえ、なに読んでるの?」
読書に集中していたカズが突然掛けられた声に戸惑っている。
わたしはベランダと教室を仕切る窓枠に座ってその様子を面白おかしく眺めていた。
声を掛けた子は睨むようなカズの視線に縮みそうになっている。
カズは睨んだつもりはなく、驚いているだけだ。カズが本気で睨んだら、女の子なんて泣いてしまうと思う。
相変わらず気を抜くと言動が荒っぽいけれど、最近知的さを前面に出しているカズは女子の間で株が上がりつつあった。
そんなことなどてんでどうでもいいと感じているカズは、最近学んだことがあるそうだ。
女の子には優しく接しなければ怖がられてしまう。
無意味に怖がられるのは流石にカズも嫌らしい。
それなのに今、まんまと女の子を怖がらせている。いつもの間抜けさに笑いが込み上げそうだ。
「わるい……」
戸惑ったままのカズが謝ると、直ぐに横槍が入った。
「全く、もう! あんた、折角モテるんだからさあ、もうちょっと女の子に優しく出来ないかなあ」
呆れたようにそう言ったのは、クラスの中でカズと仲の好い女の子だ。
さばさばとした性格で、カズの荒っぽい仕草を初めて目の当たりにした時も、ちっとも怯まなかった。
わたしも彼女とはよく話をする。彼女のさっぱりした言動は気持ちが好い。
また始まったなあと、遠目にだんだんと楽しい気分になってきた。
「別に俺はもてなくて良いんだけれどなあ」
そんな風に言ったカズは、本当にどうでもいいと思っている。
カズの好きなものは、読書とそれからいつまでも大切なあの子。
中学に上がった時、カズとわたしだけが同じクラスになった。
全員同じ中学に進んだわたしたちの関係は変わらず、しかし違う小学校から来た新しい友人と新しい生活が運んで来た新鮮な空気が、少しずつわたしたちを変えて行く。成長期でぐんぐん変わって行く体格と一緒に、内面だってぐんぐんと変化していく。
わたしは、止まってしまった。
わたしはそのことに安堵していた。
わたしだって少しずつ、本当はなにかしら変わって行っている筈ではある。
スポーツは変わらず得意だ。みんなより少し優っていた勉強は真ん中でどうにか維持している。みんなより少し高かった身長は相変わらず。
運動が万能なユウヤは部活動に精を出し、やんちゃはあんまりしない。
相変わらず周りを束ねることに長け、みんなから慕われている。どこに居ても和やかに笑っている。
わたしは大人びた感覚を周りに与えるように振る舞っているらしい。クラスメイトのわたしの印象は、大人しやかで物柔らかというもの。
わたしがそうしたくて植え付けた。
あの子が居ないわたしは、遂にそうするしか出来なくなっていた。
わたしはこうして、在りたいわたしを維持し始めていた。
カズはそれが可笑しくて、いつもこっそりと爆笑している。わたしからちゃんと見えている場所で。
ミナミは少し前まで女の子みたいに可愛らしかった。背が伸びて声が低くなって、可愛らしさのせいで潜んでいた気怠そうな雰囲気が前面に出てきた。
周りに与える印象が小学生の頃とは随分変わっている。
エータだけは全てがそのまま、変わって行っているのに、まるでそのままだった。
穏やかで明るくて、男女問わず優しくて。
仲の良過ぎるエータとカズは喧嘩ばかりしていたけれど、ある時を境にあまり喧嘩をしなくなった。
代わりに、少しだけいつも淋しそうに見える。
わたしとユウヤはそれが少し心配だった。ミナミがどう思っていたのかは知らない。
読書に集中していたカズが突然掛けられた声に戸惑っている。
わたしはベランダと教室を仕切る窓枠に座ってその様子を面白おかしく眺めていた。
声を掛けた子は睨むようなカズの視線に縮みそうになっている。
カズは睨んだつもりはなく、驚いているだけだ。カズが本気で睨んだら、女の子なんて泣いてしまうと思う。
相変わらず気を抜くと言動が荒っぽいけれど、最近知的さを前面に出しているカズは女子の間で株が上がりつつあった。
そんなことなどてんでどうでもいいと感じているカズは、最近学んだことがあるそうだ。
女の子には優しく接しなければ怖がられてしまう。
無意味に怖がられるのは流石にカズも嫌らしい。
それなのに今、まんまと女の子を怖がらせている。いつもの間抜けさに笑いが込み上げそうだ。
「わるい……」
戸惑ったままのカズが謝ると、直ぐに横槍が入った。
「全く、もう! あんた、折角モテるんだからさあ、もうちょっと女の子に優しく出来ないかなあ」
呆れたようにそう言ったのは、クラスの中でカズと仲の好い女の子だ。
さばさばとした性格で、カズの荒っぽい仕草を初めて目の当たりにした時も、ちっとも怯まなかった。
わたしも彼女とはよく話をする。彼女のさっぱりした言動は気持ちが好い。
また始まったなあと、遠目にだんだんと楽しい気分になってきた。
「別に俺はもてなくて良いんだけれどなあ」
そんな風に言ったカズは、本当にどうでもいいと思っている。
カズの好きなものは、読書とそれからいつまでも大切なあの子。
中学に上がった時、カズとわたしだけが同じクラスになった。
全員同じ中学に進んだわたしたちの関係は変わらず、しかし違う小学校から来た新しい友人と新しい生活が運んで来た新鮮な空気が、少しずつわたしたちを変えて行く。成長期でぐんぐん変わって行く体格と一緒に、内面だってぐんぐんと変化していく。
わたしは、止まってしまった。
わたしはそのことに安堵していた。
わたしだって少しずつ、本当はなにかしら変わって行っている筈ではある。
スポーツは変わらず得意だ。みんなより少し優っていた勉強は真ん中でどうにか維持している。みんなより少し高かった身長は相変わらず。
運動が万能なユウヤは部活動に精を出し、やんちゃはあんまりしない。
相変わらず周りを束ねることに長け、みんなから慕われている。どこに居ても和やかに笑っている。
わたしは大人びた感覚を周りに与えるように振る舞っているらしい。クラスメイトのわたしの印象は、大人しやかで物柔らかというもの。
わたしがそうしたくて植え付けた。
あの子が居ないわたしは、遂にそうするしか出来なくなっていた。
わたしはこうして、在りたいわたしを維持し始めていた。
カズはそれが可笑しくて、いつもこっそりと爆笑している。わたしからちゃんと見えている場所で。
ミナミは少し前まで女の子みたいに可愛らしかった。背が伸びて声が低くなって、可愛らしさのせいで潜んでいた気怠そうな雰囲気が前面に出てきた。
周りに与える印象が小学生の頃とは随分変わっている。
エータだけは全てがそのまま、変わって行っているのに、まるでそのままだった。
穏やかで明るくて、男女問わず優しくて。
仲の良過ぎるエータとカズは喧嘩ばかりしていたけれど、ある時を境にあまり喧嘩をしなくなった。
代わりに、少しだけいつも淋しそうに見える。
わたしとユウヤはそれが少し心配だった。ミナミがどう思っていたのかは知らない。
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