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第五話
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先程から「馬鹿らし」以外発していなかったミナミが突然言った。
「あのさ、カズもエリカも、もう少し他のものも視野に入れた方がいいよ」
ミナミにそんなことを言われるとは思っていなかった。顔を顰めそうになったら、同じことを思ったのだろう、カズが先に舌打ちをした。
最もだから言い返せない。
言い返せないはずだった。
「そうすると物悲しい気分になっちゃって嫌」
ぽろりとわたしがそう言ってしまったら、カズが歯がゆそうな顔をした。
「淋しいって気づいちゃう。今も淋しいのに、余計に淋しくなってどうしようも出来なくて……最後に絶望するんだよ。居ないのはどっちも一緒、だったら偶然に期待しながら少しでも心を軽くしておける方がいいの」
「不健康だよ、そんなの。ねえ、ユウヤはどうなのさ」
変わらず面倒くさそうにミナミはユウヤに話を振った。
「ん? 俺? そうだねえ、俺はなるようになるが主義だから、ミナミとも違う」
「そ、ミナミに不健康とか言われたくないよな」
カズがそう言ったのは、ミナミが自分の悩みを他人に言いたがらないからだ。
ミナミは悩みごとがあっても、大抵面倒くさいという理由で溜め込んで我慢する。
わたしたちに言わない。
特にユウヤには、なにかがあっても絶対に言わない。
どうせユウヤが気づいているから。
ユウヤは気付いても気付かぬ振りをする。ミナミが言われたくないことを知っているから、ユウヤはなにも言わない。
ミナミが誰にもなにも言いたくないその理由を、わたしたちは知っている。
誰かに言われてしまったら、面倒くさいと片付けられなくなる。
そんなミナミにとって、あの子はわたしたちとは少し違う感覚の特別な存在でもある。
あの子は誰かになにかあった時、なにも言わなくても気付いてくれて、気付いてもなにも言わない。それなのにわかってくれる。だからあの子がいなくなってからのミナミは、いつもなにかを堪えているようにも見える。
ちょびっと内側になにかを溜め込もうとした途端、あの子には既に見破られていて、あの子はなにも言わないのに、自然と溜め込みかけていたものが溶けて行く。
ミナミは見透かされるのが苦手だ。それでもすうっと胸がすっきりすると、いつか言っていた。
わたしもミナミも、あの子が居なくなってから、胸がつっかえてもすっきりさせることが出来なくなった。
けれども、誰かに言うよりは溜めて置くほうが到底楽。
そんなミナミとそんなわたしは同じようで違う。
わたしは溜め込み続けることを出来なくなる時がある。
我慢することも我慢しなくていいことも、わたしは知っている。
溜め込んで外に出さないことを自分らしさと感じるミナミは、それをストレスとして捉えない。そして、そんな自分を変えようとするつもりもないようだ。
きっと変わる時は自然と変わって行く。
わざわざ変えようなんてまるで面倒くさいというミナミの発想は、わたしにもよくわかる。
一部分を止めたまま、自然と変わっていくわたしはきっと偏っている。
一部分を止めたまま、自然と変わっていくミナミはきっと偏っていない。
ミナミこそ不健康だと思っていたけれど、ミナミはちっとも不健康ではなかった。
「あのさ、カズもエリカも、もう少し他のものも視野に入れた方がいいよ」
ミナミにそんなことを言われるとは思っていなかった。顔を顰めそうになったら、同じことを思ったのだろう、カズが先に舌打ちをした。
最もだから言い返せない。
言い返せないはずだった。
「そうすると物悲しい気分になっちゃって嫌」
ぽろりとわたしがそう言ってしまったら、カズが歯がゆそうな顔をした。
「淋しいって気づいちゃう。今も淋しいのに、余計に淋しくなってどうしようも出来なくて……最後に絶望するんだよ。居ないのはどっちも一緒、だったら偶然に期待しながら少しでも心を軽くしておける方がいいの」
「不健康だよ、そんなの。ねえ、ユウヤはどうなのさ」
変わらず面倒くさそうにミナミはユウヤに話を振った。
「ん? 俺? そうだねえ、俺はなるようになるが主義だから、ミナミとも違う」
「そ、ミナミに不健康とか言われたくないよな」
カズがそう言ったのは、ミナミが自分の悩みを他人に言いたがらないからだ。
ミナミは悩みごとがあっても、大抵面倒くさいという理由で溜め込んで我慢する。
わたしたちに言わない。
特にユウヤには、なにかがあっても絶対に言わない。
どうせユウヤが気づいているから。
ユウヤは気付いても気付かぬ振りをする。ミナミが言われたくないことを知っているから、ユウヤはなにも言わない。
ミナミが誰にもなにも言いたくないその理由を、わたしたちは知っている。
誰かに言われてしまったら、面倒くさいと片付けられなくなる。
そんなミナミにとって、あの子はわたしたちとは少し違う感覚の特別な存在でもある。
あの子は誰かになにかあった時、なにも言わなくても気付いてくれて、気付いてもなにも言わない。それなのにわかってくれる。だからあの子がいなくなってからのミナミは、いつもなにかを堪えているようにも見える。
ちょびっと内側になにかを溜め込もうとした途端、あの子には既に見破られていて、あの子はなにも言わないのに、自然と溜め込みかけていたものが溶けて行く。
ミナミは見透かされるのが苦手だ。それでもすうっと胸がすっきりすると、いつか言っていた。
わたしもミナミも、あの子が居なくなってから、胸がつっかえてもすっきりさせることが出来なくなった。
けれども、誰かに言うよりは溜めて置くほうが到底楽。
そんなミナミとそんなわたしは同じようで違う。
わたしは溜め込み続けることを出来なくなる時がある。
我慢することも我慢しなくていいことも、わたしは知っている。
溜め込んで外に出さないことを自分らしさと感じるミナミは、それをストレスとして捉えない。そして、そんな自分を変えようとするつもりもないようだ。
きっと変わる時は自然と変わって行く。
わざわざ変えようなんてまるで面倒くさいというミナミの発想は、わたしにもよくわかる。
一部分を止めたまま、自然と変わっていくわたしはきっと偏っている。
一部分を止めたまま、自然と変わっていくミナミはきっと偏っていない。
ミナミこそ不健康だと思っていたけれど、ミナミはちっとも不健康ではなかった。
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