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第11話〜告白〜
しおりを挟む私の声に反応して袈裟を着た僧侶が振り返った。
「―ー湊尹……ど、どうして?」
「桜姫!」
湊尹は私の元に駆け寄ってきた。
呼吸が乱れ額には汗が流れている。随分急いで来たようだ。
私は会えて嬉しい気持ちと疑問で早口に質問した。
「なんでここにいるの?今日は忙しいって言って……」
「桜姫がこちらにいらっしゃるかもしれないと思ったので」
私の言葉を遮った湊尹の強い声色に驚いてしまって私は言葉を飲み込んだ。
「……昨日の姫の御様子が気になっていました」
「え?」
昨日はーーそうだった!
赤い顔を見られて恥ずかしさのあまりその場を逃げ出してしまったんだった。
「――――……あ……」
私はまた顔が熱くなるのを感じて咄嗟に袖で隠した。奏尹は眉を寄せた。
「またそのような表情をされる。私は姫の御様子が心配でならないのです」
「湊尹……」
「なにかあるなら話していただけませんか?」
思い詰めた表情の湊尹からは私を心配してくれている気持ちが痛いくらい伝わってきた。
とても嬉しかった。
私を心配して仕事が終わり次第ここまで走ってきたのだろう。私がここにいるかも分からないのに。
何も言わなくても湊尹の額の汗が全てを教えてくれている。
「ありがとう。心配かけてしまったわね」
私は覚悟を決めて、今も真っ赤に染まっているはずの頬からソロソロと袖をどけた。
もう、隠さない。
あなたへの気持ち―ー。
湊尹は私の顔を見て図れない表情をした。
「湊尹」
私は自分の声が震えていることに驚いた。奏尹は黙って私を見つめていた。
「本当に話していいの?あなたを困らせるかもしれない……」
俯いて口をつぐむ。
奏尹にこの気持ちを伝えようと覚悟した筈なのに、いざとなると心が揺らいだ。
伝えたらどうなるんだろうーー。
高鳴る鼓動と、今から告げようとする想いに未知の緊張と恐怖を覚えて私の体は震えた。
気持ちを伝えるという行為は、こんなにも緊張するものなのか―ー。
湊尹はしばらく黙ったまま私を見つめていたけれど、真摯な表情で頷いた。
「はい。お聞きします」
「ーー……」
想いを伝えるチャンスが来た。
私は拳を握りしめた。
けれど、怖い……!
(でも……!)
後退りしかけた足に力を込める。
私は決意したんだ。
後悔しないって決めた。
だから今、勇気を出して……!
「湊尹に、伝えたいことがあるの」
「私に?」
奏尹が驚く。
「お聞きしましょう。どうされたのですか?」
奏尹は何も気づいていないのだろうか。
それとも気づいていて気づかぬフリをしているのだろうか。
私はなかなか切り出せず長い時間が流れた。
「……あなたを好きになってしまったの」
「……!」
やっとの思いで告げた想い。
湊尹が息を飲む気配を感じた。怖くて、彼の顔を見ることが出来なかった。
… …長い、沈黙――――……
この沈黙が身を削るように長く思えて、私は震える体をこの場に保つだけでやっとだった。
あまりに長い沈黙に耐えられず、私は密かに彼を見上げた。
彼は寂しそうな表情を浮かべて視線を落としている。
「―ー湊尹……」
私にはその表情の意味が分からなかった。
「……姫のそのようなお気持ちーー。私には身にあまる光栄です」
湊尹の口は重い。
私の胸はズキンと痛んだ。
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