カヌーの悩める曜日の花

イナミ

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カヌーの悩める曜日の花

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この曜日が来てしまった、と毎回想っている。

この王国の王子様に、週1回会える日だ。
教会の預かり子や、富豪商会の令息、令嬢、学業成績が優秀な者。その他の何かに秀でた者。
王子様と同世代の若者達が王子の宮に集められる。
その集いは、まだ若い王子様が市井の民の声を聞く場とされていた。

王子様を害する目的を持つ者は、王子の宮を護衛している騎士達や術師達の強力な陽の魔法で、逃げ仰せる事なく捕らえられてしまう。

女性男性問わずに集められる。
初めは女性達から面会し、次が男性達の面会となる。

ぼくは、性を持たないから悩んだ。
女性ではないけど、男性ではない。
どちらもないけど、どちらかになれるし、どちらも両方同時に持てる。

ぼくを食べてくれる方の、好みで。


ぼくは、週1回の曜日に王子様に面会をする為、王子の宮に行くが、他の子供や大人びた雰囲気の子達から疎まれる。
なぜおまえみたいなのが、ここに来れるんだ、と言う感じに。

ぼくもそう想ってる。

容姿が秀でている訳もなく。
学問の覚えが良い方でもなく。
何かを極めているハズもない。



ぼくは、捨て子の保護活動をしている教会に拾われた。

人間の女性からではなく、樹の股から生まれたぼくは。
すでに自分は人間ではないのだと知っていた。

ではなぜ、人間の姿をしているのか。
それは、ぼくを食してくれる方が、人間の世界の方だと知っていたから。
だから人間の世界に生まれ着いた。

教会を、もう少しで引退するおじいちゃん教士様は、憂鬱な顔になっているぼくを励ましてくれる。
カヌーよ、心配せず共、大丈夫じゃ。
、、、、、と、しか、言ってくれないが。 


面会する曜日に合わせ、1つの花を持っていく事になっていた。
今日は水曜日だから、白の色の花を持っていかなければならない。
この日も、街で売られている白の花は、どこかのお金持ちが容赦なく爆買いしたらしい。
王国を潤すとは、こう言う事なのか、と納得する。

王子様の誕生は、この王国の誰もが心配していた。
長らくお子様が出来なかったので、王国中でヤキモキしていた。

無事にお生まれになったとわかった時は、王国中が歓喜に沸いた。

王子様は占いで、王国の輝ける道への標べ、となるお方と預言された。
王国が潤い、他国との戦争もなく、貧民がいない。
そう言う預言なのじゃ。カヌーよ。
と、おじいちゃん教士様が教えてくれた。


ぼくは、王子の宮まで歩いて行っている。
本来なら、王国が用意した4頭の馬が引く2階仕立ての馬車に乗らなければならないが、必ず途中で一緒に乗っている同じ年頃の子達から降ろされる。
教会の預かり子は優遇され過ぎる。
との不満から。

歩いて行けなくもない距離。
だが、、、、。
貧民街にいる子に、おじいちゃん教士様から今日の為にと渡されていた履き物をあげたから、今ぼくはクツを履いていない。
馬達は、後ろを早歩きでなんとかついて行っているぼくを哀れんだのか、御者のもう少しスピードを出せの鞭を半笑いでかわしていた。

王子の宮の門番の騎士達は、後から息を切らしやっと追いついたぼくを見ているが。
いつものお約束と想っているらしい。
他の子達を注意する事はない。
馬車から颯爽と降り、もはやロイヤルファミリーになれたとどこで感じたのか。
ツンと澄ました様子で馬車から降りてくる若者達。

富豪商会の令息達、令嬢達が、自分達だけが乗る王子の宮への専用馬車を購入しようと考えている。
王国の仕立てた馬車に何か気に入らない箇所があったのだろか。2階もある馬車は乗り心地がものすごく良かったが。
王国が、これでまた潤うな、とぼくは想った。

市井の民の声を聞くはずだった集いは。
今や、個人ワザの鑑賞会、となっている。
さまざまな特技を持つ若者達による、王国のサロンと化していた。
面白い宴、余興があると貴族諸侯達に伝わり。

王子様側と敵対するはずの高位貴族達も、噂を聞きつけ興味津々に週替わりの交代で、王子様の側使い達の後ろに控えてそれらを鑑賞し、拍手を送っていた。







この世界の神様への御挨拶はすんでいる。

おじいちゃん教士様がいる教会に、ぼくは拾われてすぐに預けられた。
この世界でのぼくは14才くらいであるらしい。
服はなかったので教会が貸してくれた。
おじいちゃん教士様は、もはやワシが生きている内に出会えるとは、、、と、言っていた。

神様への感謝を示さねば。と、おじいちゃん教士様に連れられて、礼拝堂に来た。
陽の神様と夜の神様がお互いに手を取り合っている素朴な木彫りの小さな像があった。
自分の名を示しなさい。と、おじいちゃん教士様の言葉で。、、、まだ名乗りをあげていなかった、、、、と、気づく。
神様に対して、無作法だった、、、。
樹の股から無事にこの世界に生まれ出た時、嬉しさのあまりに。やったー、ありがとうございます。、、、、しか届けていなかった。

新めて感謝の心を、御前にさしだす。


陽の神様には。
歳若い不可思議を幾世をも孕ませ侍らせる、奇匿面妖な平行世界の魂か。あちらが根源とはな。と、面白がられ。
夜の神様からは。
あの王子の最良の糧となれ。と、お言葉を賜わった。


カヌー。と言う名は生まれる時にはもうあった。
この世界の神様がぼくに名付けられたのではない。
そしてぼくの好みの名でもない。
自分で自分に名付けたのではない事を、おじいちゃん教士様に強調し、わかってもらえた。

王子様に関する事は、ほくは生まれる時にはもう知っていた。
本能の知識としてぼくの中にあった。

ぼくより2つ年上の少年。
陽の神様と夜の神様の2つの加護をお持ちだ。
この世界の人間は、どちらか一方の加護を授かって誕生する。
2つの加護持ちは特殊な者、と言うのではなく。
幸運を約束された果報者、を意味する。


ぼくがこの世界に馴染み始めた頃。
王子様の、王子の宮への集いが開始されたのだった。


初回から王子様への面会が叶うと信じて疑わなかったぼくは。その報告をおじいちゃん教士様から聞きながら、心と体がそれぞれ別々の方向へ飛んで行ってしまうのを、抑えていた。

会えない、だなんて、、、、。
すぐにでもぼくを食べて頂くつもりでいたぼくは。
ショックが過ぎて、おじいちゃん教士様の慌てた様子を、どこかでホッコリしながらも、やはり寂しく、悲しく、落ち込んでしまう自分を、引き留めていた。


次の、王子の宮への集いには会える、と想っていたが、出席者の名簿録に記しはなく。
おじいちゃん教士様も、何故に?、と困惑していた。

3度目、は勿論、なく。

4度目は、どの曜日でどの曜花が花屋と街から消えてしまうのだろうかと、予想屋まがいの思考になっていた。

ご縁が無かった。
として、諦めた方がいいのか。
それとも、、、、、。



自暴自棄になり始め、ぼくの存在をぼく自身が全否定をしウロボロスに成り果てそうな頃。
王子の宮への招待状が、教会宛てのぼくの名で届いた。
陽の神様が、ぼくの現状を見かねて、加護を分けて下さったのだろうか?
あまりの不出来さに、、、、。







曜日の花を、教会に借りている質素な服の胸元にさしている。
王子の宮まで、ぼくは小走りをしている。
今日は馬車にも乗れず。
乗るな。と、王子の宮まで一緒に乗っている子達からはっきりと言われ、馬車に乗る為の踏み板を外された。

、、、、2階仕立ての馬車は、、、、遠くに見えていた。



王国の馬車が選ばれた若者達を乗せるのは、街の中央の2つの噴水がある広場と決まっていた。
王子の宮に集う男女の若者達は、馬車を待っている間、散歩をしている街の人と話したり、側使いに何かを買いに行かせたり、自分の特技のおさらい等をしている。
みんな熱心で。王子様に話しかけてもらおうと躍起になっている。

小さな籠を持った少女が、数字の暗記をしていた少年に、良かったら食べてね、と、頬を真っ赤な花のように染めながら話しかけていた。

少女は、籠を受け取った少年を何度も振り返りながら、広場を去った。

王子の宮の集いでも豪華な軽食が今から待っているが、少年は籠からサンドイッチを取り出すとさっそく食べ始めた。
貧民街の出身ではなさそうで、いつもお腹を空かせている感じにも見えず、朝食に困ってそうでもないから、笑顔でサンドイッチを頬張っているのは、少女の愛の告白を受け取り、2人は恋人になったのだろうか。

ぼくは、いつ、王子様に召し上がって頂けるのだろう。
あのサンドイッチの美味しさの上は必ずいける自信はある。
ぼくの体は王子様が望む味になれる。
王子様専用の食料体。
王子様の、力の源、王子様のいまだ解かれてはいない能力を垣間見せる為の器。

王国が建国された理由。
初代王様の力が強靭だった訳。
血筋が絶える事を神々が許さない、その意味。

ぼくを召し上がって頂ければ、何故なのかの疑問はすぐ解ける。
王宮で学ばれているどんなに貴重な学術書や文献、国宝級の価値のある歴史書にも、ついに描かれる事が叶わなかった真実。

ぼくの指をたった1切れでも、召し上がって頂けたのなら。









もはやマラソンの域になっている王子の宮までの持久走。
街の人達が、笑顔で、がんばれーエールをくれる。

ここは街の人達に手を振るべき所なのだろうか。




集いが始まる時間は、、、、過ぎていた。

教会の借り服にさしていた曜日の花は、紫の色の花。
だった。
花弁は1つも残ってはおらず、茎だけが残っていた。

茎だけ門番の騎士達に見せても、曜日の花を咲かせていた茎だと、主張しても無意味だろう。
ぼくが、馬車にも乗れない、教会の預かり子だと知ってはいても、時間厳守なのに、中に入れてくれるはずもない。

おじいちゃん教士様が、せっかく用意してくれた、いつもの何百倍もの高値で買い取ったであろう紫の色の花。

曜日の花は購入する前にはいつも消え、色の紙をそれらしく何とか花にみえるように折り、胸元にさしていた。
本物の曜花を胸元に飾れるのは、この日が初めてだった。

茎だけを見せる為に教会に帰るのは、躊躇われた。


門番の騎士達の交代時間らしい。
ぼくを面倒くさく見ていた門番の騎士達は、あっさりと次の騎士達と交代した。

1人の門番の騎士が、大きな門の随分遠くの端っこの隅からじっと門の入り口だけを睨んでいたぼくを見つけた途端に破顔した。

お腹を抱えて今にも笑い出したいのを我慢しているらしい。
笑うのを堪えたままぼくを手招きし、恐る恐る近づいたぼくに話しかけてくれた。
その騎士は、この時間を警護する門番の騎士達のまとめ役だった。
門番の仕事を他の騎士に任せると、ぼくを裏口へと案内してくれた。
国難の時の為の緊急用の、入り口だった。

今まさにその時だと想いまして。
と、その門番の騎士はぼくに笑顔で話した。

ぼくを通したのがバレたら、どうすればいいのか。
おじいちゃん教士様に、罰が与えられてしまったら。
不安を感じ、前に進められずにいるぼくを、門番の騎士は。
私は王妃様から、えこひいきされているので大丈夫なんですよ、と小声で言った。



みんなは集いの宴中だった。
歓声や驚きの声は、王子の宮にある森にまで響いていた。
ぼくは、もちろんお約束事の様に迷子になっていた。
門番の騎士の言う通りに小道を歩いていたはずなのに。
王様、王妃様がいる王宮にも繋がっている森は開放的で明るく、高く頭上の澄んだ青空を迷うことなく飛び交う小鳥達は、楽しげな鳴き声で会話をしていた。

ここに植えられている樹木は、人間によって遠い地から持って来られた物もあるが、この地で芽生え永きにも渡り育まれた年輪層が分厚い樹木もたくさんあり、生え始めたばかりの若樹は、みずみずしい露が滴り落ちそうになって、下草達が水蜜を我先に得ようと競い合って生い茂っていた。

ぼくは、ぼくを生んでくれた樹が、その後どうなったのかは知らない。
おじいちゃん教士様に聞けば答えてはくれるのだろうけど。それ以上の聞きたくない事も聞かされるとわかっているから。、、、、まだ聞けていない。





もうここに住んでしまおう。
と、ぼくが戻れる小道探しの断念を決意した時。
、、、王子様が、いつの間にか森に陽の光が先程よりもまばゆく差し込んでいる位置に現れていた。

いつから、ぼくを見ていたのだろうか。

ぼくが、百面相に近い数の悩める顔をしていたのは自覚している。、、、、。
入森を許可した覚えのない珍獣を前にした王子様は。
ぼくを見て。
蔑む態度を見せず。
きみは教会の預かり子だろう、と、言った。

2つの加護をお持ちの王子様。
金の色の髪は背中まであり、金の色の刺繍紐でひとつに結わえられている。瞳は夜の神様の色をしていた。
黒の色は、この王国には当たり前にある色彩で。
他国に有る様な、不吉を表す禁色ではない。
黒の色の髪の街の人達も当たり前に生活している。
黒の色の瞳のこども達も当たり前に生きていた。

王子様の金の色の髪は、陽の神様の色をしていた。
明るく前向きなお人柄の様だった。


教会の預かり子だと聞いているから警戒していたけれど。
と、王子様は言った。
正教会、とはまた別の組織なのかな。
と、独り言のような、ぼくにあえて聞かせているような、声音で、話す。

この森に拒まれないのだから、カヌーは、善良なのだろう?
と、ぼくに聞く。

いきなりの呼び捨ては、ぼくの胸を直撃した。
こんなにも破壊力があるなんて。
力が眠ったままなんて嘘だろう。
王子様の御力を引き出すのはぼくなのに。
ぼく以外の誰かがもう王子様に食されているのだろうか?

ぼくがマラソンで体力を養っている間に、正教会とかいう物に王子様は狙われていたのだろうか。

ぼくは、王子様の話しを聞きながらおじいちゃん教士様からの茎だけになってしまった紫の色の花を無意識になでていた。





ぼくは、果たして善良なのか。
王子様の森に入れたとしても、ぼくはぼくを善良だと言ってあげれない。

ぼくの出自は、樹の股だ。
これは善良、ではないだろう。
人として生まれなくても善良な物はたくさんある。
が。ぼくがその中に入るとは想えない。

おじいちゃん教士様や、他の教士様達が毎日欠かさず行なっている修行は、ぼくの体には負担が大きく。
毎日の神々へのお祈りは、この世界の神様以外にもされるので、ついていけなかった。

ぼくの神様は、この世界の2神様だけだ。
陽の神様は。
ぼくの、結構精神的には1番クる、過酷な王子の宮への奮闘ぶりを見て下さって。応援をしている、体を大事に労わりなさい。と、夢の中に出て来てくれた。
夜の神様は。
魂元の運命が定まらない等とは。余計で下らぬ物らを惹き寄せ被せ、何をさせたいのか。
と、おじいちゃん教士様には内緒の夜の散歩中のぼくに、ベンチで居眠りしかけていたのを起こしてくれた。



細密に複雑に異妖が入り組み贄によりなされた禁戒は相互を縛り絡み合いきつく結び合い、しまいには。
と、夜の神様のお言葉はなぜだか不自然に、途切れていた。











ぼくは、王子様に話しかけられているのに。
ろくに返事を返せないでいた。
最近のぼくは、ぼくを食べて頂くにはどうしたら良いのかばかりを考えていた。
ぼくのレシピを考えていた。
ぼくの体は、ぼくを食す方の好みが反映される。
甘いのがお好きなら、甘い味の血に。
薬草茶の味がお好きなら、その味の肉に。
口がさみしく感じたのなら、お口の中を傷つけない柔らかい骨のキャンディーを。
女性の体が好みなら、芳醇な女体を。
男性の体が好みなら、健やかな体躯の男体を。


レシピとは到底言えない、王子様の味覚に縋るしかないぼくの体。

あれこれを想像しただけで、、、、、。
、、、、、酩酊に溺れかける、ぼくの体。


ぼくは本当に人間ではないのだな。と。
わからされた。


街道マラソンと化したぼくを応援してくれた街の人達。
ぼくはあの時に勘違いをしたんだ、きっと。
ぼくは人間だ。
と。






食事の前には会話をしなければならない事を、ぼくはすっかり忘れていた。

会ったばかりなのに会話もなくいきなりぼくを食べて。はないだろう。
高等技術者のスキルだ。
ぼくにはムリだ。

緊張の余り、言葉を発声できないでいるぼくを。
王子様は、ぼくの右手を優しく取ると。
ゆっくりと指文字を、ぼくの手の平に書いた。

泣いていいよ。と。

ぼくは、王子様が指文字を書いてくれている途中ですでに涙の崩壊を起こしている。

この涙も王子様の物なのに。
ぼくの感情で振りまわしていい物じゃない。

王子様のお気持ちでうまれるべき物なのに。

ぼくと王子様の儀式はまだ結べていない。
儀式が終わっていたなら、この涙を王子様に味わって頂けたのに。

ぼくの涙は、王子様の人差し指に掬われ、舐められた。

うーん。?。
と、ぼくに言い。

王子様は、ぼくより少し高い身長で。
街の人達が着ている安価な服を着こなしていた。

、、、2階仕立ての馬車の中で、、、。





王子様は、金の色の髪を結わえていた刺繍紐を無雑作に取ると。
ぼくの首に結わえ直した。

この方がわかりやすくて、いいだろ。
と、王子様は言った。
金の色の刺繍紐は、ぼくの声の緊張を労わってくれた。

教会の借り服の胸元にある茎を、王子様は見た。

今日はあの子が仕切ってる。
と、王子様は言った。

あの子?

ある人との予期しない出会いで、2つの心を持つ事になった。
と、王子様は続けた。

1週間おきに、体と心が9才の頃に戻り、成長している自分を忘れている。時々想い出す事もあるが。
と、ぼくを夜の瞳で見つめられる。

その原因は、ぼくにあると、暗に責めている、、、。


ぼくは、覚えてはいないが、ぼくなので。知らない場所の知らないどこかで何かをやっちゃっているのは、否めない、、、、。


母様は、もう一度あの頃の僕を堪能出来るとか仰っていたけど。
この森にくれば一時的にでも成長した体と心の僕に戻れる。
あの子はこの森に積極的には来ないから、側使え達にも協力してもらっている。
あの子は、カヌーに失礼な事をしていなかったろうか?
あの子に替わる時、僕は、黒の色の髪で金の色の瞳をしている。
街の広場で、僕を見かけなかったかい、カヌー。



ぼくはもう声は出せる状態だが、別の意味で声がでない。
なんと返せばいいのだろう。
ごめんなさい、は違う気がする、、、。










ぼくが生まれたところから、王子様には聞いてもらいたい。
この世界の何を見て何を感じて生きていたかを。
王子様だけには知っていて欲しい。

2神様には感謝しきれない。

おじいちゃん教士様、ぼくが王子様の食体になるまでまだ時間が少しあるので、後でお話しがあります。






ぼくは王子様だけに美味しく召し上がって頂く為の存在。
それ以外の存在ではない。


終わりの初まりなき舞台の前の、ささやか過ぎる歪曲で矮小な前座だ。

前座に意識など必要ない。
役割りが終われば。


存在しない。










ぼくは、王子様に謝らなければいけない。
ぼくは王子様の名前を儀式の前なのに知っていた。

王子様がぼくの名を知っている事は問題ではない。
ぼくの名は預言の書にうかぶから。
問題なのはぼくの方だ。

王子様の名前は、ルゥベクト様と言う。
9才のルゥベクト様は、まだこの頃は、ルゥ様と名乗られており。
教会による成人としての改名は、まだ行われてはいなかった。

ぼくを美味しく召し上がって頂くにあたり、これは緊急事態だった。
儀式としての意味合いもあるぼくの食し方は、成人として教会から認められなければならない。
ルゥ様は成人していない。

1週間で替わられてしまう王子様。
もしも。
ずうっっっと、ルゥ様のままだったら。
、、、、、。

まだ2ケタも生きていないルゥ様に。
ナマのまま、ぼくを食べてとは、言えない。
この食体が、腐っても、言えない。
王子様の名前を儀式前に知ってしまった罰だ。

食体主の名は、食体の命である。
食体主がなんらかの事故で亡くなってしまえば食体も、途中で腐敗が侵蝕し悪臭を、撒き立ち昇らせ絶命する。


ぼくはきっと何かの事故で、ぼくが目醒める前に王子様と接触している。
でなければ、手の平に残る。ルゥベクト。と言う名前の指文字の感触はないはず。
ぼくはそれで、ルゥベクト様専属なのだ。と、感じた。




ぼくの右手を引き、賑やかな歓声がする集いの方向へと軽やかに走り出すルゥベクト様。

余興に戻らないとあの子の機嫌が悪い。
と、ルゥベクト様は言ってはいるが、実は少し楽しまれている筈だ。
9才の頃のルゥ様の笑顔をしているんだろうなあ、とルゥベクト様の、陽の明かりに揺れてる髪を堪能しながら、夜の色の髪の成人されたルゥ様を想像し。
、、、、ジュースなら、との良からぬ思考は、急停止させ捻じ伏せ擦り潰し重厚な夜の底へと旅立ってもらった。



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