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第2話 ソウリスー走りの神機ー
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……風の音がする。
瞼を開けると、目の前一杯に青空が広がっていた。
レース中の事故により、この世界に転生された
少年、天城柊真は戸惑う。
「……どこだ、ここ……?」
体を起こすと、草の香りが鼻を抜ける。
身体の重さを感じて視線を落とす。
自分の格好はレーシングスーツのまま。
グローブもはめている。
だが――ヘルメットがない。
代わりに、額に残るわずかな痛みだけが
これが現実で在る事を主張していた。
「……死んだはず、だよな。俺。」
言葉が風に消える。
その時、視界の端に銀色の光が差した。
「確かこれは……ソウリス……。」
草原の中に、黒と銀の機体が佇んでいた。
日光を浴び、滑らかな外装が風を映すように
輝いている。
近づいて手を伸ばす。
金属の冷たさの奥で、かすかな鼓動を感じた。
「……何だ、これ。心臓みたいな鼓動だ……。」
タンクを撫でながら呟く。
エンジン部には、確かに排気口がある。
だが、ただの排気ではない。
奥から淡く青白い光が、呼吸のように明滅していた。
「……燃料でも電気でもない。…これは?」
その瞬間、低い唸りが地を震わせた。
ソウリスが、まるで応えるように光を放つ。
「っ、動いた……!?」
《――慌てるでない、天城柊真。》
「!?」
頭の奥に、声が響いた。
女の声。静かで、凛とした響き。
「……誰だ?」
《我はリスティ。風を司る神の一柱にして、
この《ソウリス》に宿る者。》
「…神……? まさかさっきの天の声、なのか。」
《左様。我はお主を選んだ。死の事実に直面し、
なお風を求めた、お主のその魂をな。》
風がざわつき、頬を撫でた。
《この機構はおぬしの“魂”と繋がっておる。
魔力を排出し、空気を循環させる構造はまさに
“生命”と同じ。お主の意志が走りを生み出し、
走りがお主の命を燃やす。》
「……つまり、俺が“走る”限り動くってことか。」
《その通り。理屈などいらぬ。おぬしは風の女神に
選ばれた存在なのじゃ。ならばまずは……どれ。
風を掴んでみるがいい。》
「……上等だ。神が造った機構だか知らないが…
これがバイクなら、俺が操って見せる。」
柊真は、ソウリスに跨った。
エンジンに手を添え、深呼吸をする。
「キーはない…のか。モニターに文字が……
ソウリス、起動――。……これでいいのか?」
青白い排気が吐き出され、
低音の震動が体の芯に伝わる。
エンジンの鼓動が、自分の心臓と重なる感覚。
《……良い。魂と機構、確かに同期した。》
「……よし、いくぞ。」
アクセルをひねる。
地を蹴るような轟音が響く。
次の瞬間、視界に在った草原が線になった。
「――っ、は、速ぇぇ…………!!」
風が顔を撫でるのではなく、叩く。
髪が後ろへなびき、視界の端で空が流れる。
《感じるか? おぬしの魂が風を掴み、ソウリスと共に躍動しておる。これがソウリスによる
“魂走(ソウルライド)”だ。》
「……この感覚、バイクと一つになっているみたいだ。
……すげえ。最高だ。」
柊真の胸が熱くなる。風が、肌を切っていた。
高揚していた――その時だった。
——悲鳴。遠くだが、確かに聞こえた。
「……今の声、まさか子供の悲鳴か……?」
ソウリスを止める。
遠くの丘の向こうで、砂煙が上がっていた。
その中に見える、黒い巨影。
鱗のような外皮。赤く光る眼。魚の顔だが両手足が確かに生えている。
地を割るように咆哮を上げ、魔獣は何かを踏みつけている。
「……なんだあれ。…生物…なのか?」
目を凝らすと、柊真は更に驚く。
魔獣の足元に、小さな少女が居た。
金色の髪を振り乱し、怯えたように手を伸ばしている。
《天城柊真。行け。》
「は?」
《走るのだ。我が風を纏い、その恐怖を抜け。
走りは生、走りは救いだ。助けて見せよ。》
「……いや、簡単に言うなよ、女神さま。
どう見てもバケモンだぞ……あいつ。」
《考えるな。風――いや、マシンを信じろ。》
柊真は息を整えた。一瞬目を閉じる。
しかし、手が自然にアクセルへと伸びた。
「……ああ!上等だよ!行くぞ、ソウリス!」
《応!》
そう応えたかのようにエンジンが吠える。
青白い排気が背後に噴き上がり、地を裂く轟音が
周りに響いた。
「さらに速くッ!奴まで、エンジン…全開だ!」
魔獣がこちらに気づく。
咆哮。巻き起こる土煙。
ソウリスが光の軌跡を描き、魔獣に一直線に突っ込む。
「喰らえぇぇッ!」
黒銀の機体が魔獣の脇腹に衝突。
衝撃と同時にソウリスから魔力の爆風が走り、
魔獣の体が大きくよろめいた。
《良いの!ソウリスと完全に共鳴しておる!》
ブレーキを引き、後輪を滑らせて停止する。
砂煙の向こう、少女がこちらを見つめていた。
その瞳が、恐怖から希望へと変わるのが見えた。
「……大丈夫か!」
柊真の声が、風の中に溶けて消えた。
ソウリスの計器に、文字が浮かぶ。
《Soul Ignition —— 天城柊真、リンク完了。》
ソウリスから、青白い光と風が再び吹き抜けた。
——天城柊真の、第二の走りが始まった。
瞼を開けると、目の前一杯に青空が広がっていた。
レース中の事故により、この世界に転生された
少年、天城柊真は戸惑う。
「……どこだ、ここ……?」
体を起こすと、草の香りが鼻を抜ける。
身体の重さを感じて視線を落とす。
自分の格好はレーシングスーツのまま。
グローブもはめている。
だが――ヘルメットがない。
代わりに、額に残るわずかな痛みだけが
これが現実で在る事を主張していた。
「……死んだはず、だよな。俺。」
言葉が風に消える。
その時、視界の端に銀色の光が差した。
「確かこれは……ソウリス……。」
草原の中に、黒と銀の機体が佇んでいた。
日光を浴び、滑らかな外装が風を映すように
輝いている。
近づいて手を伸ばす。
金属の冷たさの奥で、かすかな鼓動を感じた。
「……何だ、これ。心臓みたいな鼓動だ……。」
タンクを撫でながら呟く。
エンジン部には、確かに排気口がある。
だが、ただの排気ではない。
奥から淡く青白い光が、呼吸のように明滅していた。
「……燃料でも電気でもない。…これは?」
その瞬間、低い唸りが地を震わせた。
ソウリスが、まるで応えるように光を放つ。
「っ、動いた……!?」
《――慌てるでない、天城柊真。》
「!?」
頭の奥に、声が響いた。
女の声。静かで、凛とした響き。
「……誰だ?」
《我はリスティ。風を司る神の一柱にして、
この《ソウリス》に宿る者。》
「…神……? まさかさっきの天の声、なのか。」
《左様。我はお主を選んだ。死の事実に直面し、
なお風を求めた、お主のその魂をな。》
風がざわつき、頬を撫でた。
《この機構はおぬしの“魂”と繋がっておる。
魔力を排出し、空気を循環させる構造はまさに
“生命”と同じ。お主の意志が走りを生み出し、
走りがお主の命を燃やす。》
「……つまり、俺が“走る”限り動くってことか。」
《その通り。理屈などいらぬ。おぬしは風の女神に
選ばれた存在なのじゃ。ならばまずは……どれ。
風を掴んでみるがいい。》
「……上等だ。神が造った機構だか知らないが…
これがバイクなら、俺が操って見せる。」
柊真は、ソウリスに跨った。
エンジンに手を添え、深呼吸をする。
「キーはない…のか。モニターに文字が……
ソウリス、起動――。……これでいいのか?」
青白い排気が吐き出され、
低音の震動が体の芯に伝わる。
エンジンの鼓動が、自分の心臓と重なる感覚。
《……良い。魂と機構、確かに同期した。》
「……よし、いくぞ。」
アクセルをひねる。
地を蹴るような轟音が響く。
次の瞬間、視界に在った草原が線になった。
「――っ、は、速ぇぇ…………!!」
風が顔を撫でるのではなく、叩く。
髪が後ろへなびき、視界の端で空が流れる。
《感じるか? おぬしの魂が風を掴み、ソウリスと共に躍動しておる。これがソウリスによる
“魂走(ソウルライド)”だ。》
「……この感覚、バイクと一つになっているみたいだ。
……すげえ。最高だ。」
柊真の胸が熱くなる。風が、肌を切っていた。
高揚していた――その時だった。
——悲鳴。遠くだが、確かに聞こえた。
「……今の声、まさか子供の悲鳴か……?」
ソウリスを止める。
遠くの丘の向こうで、砂煙が上がっていた。
その中に見える、黒い巨影。
鱗のような外皮。赤く光る眼。魚の顔だが両手足が確かに生えている。
地を割るように咆哮を上げ、魔獣は何かを踏みつけている。
「……なんだあれ。…生物…なのか?」
目を凝らすと、柊真は更に驚く。
魔獣の足元に、小さな少女が居た。
金色の髪を振り乱し、怯えたように手を伸ばしている。
《天城柊真。行け。》
「は?」
《走るのだ。我が風を纏い、その恐怖を抜け。
走りは生、走りは救いだ。助けて見せよ。》
「……いや、簡単に言うなよ、女神さま。
どう見てもバケモンだぞ……あいつ。」
《考えるな。風――いや、マシンを信じろ。》
柊真は息を整えた。一瞬目を閉じる。
しかし、手が自然にアクセルへと伸びた。
「……ああ!上等だよ!行くぞ、ソウリス!」
《応!》
そう応えたかのようにエンジンが吠える。
青白い排気が背後に噴き上がり、地を裂く轟音が
周りに響いた。
「さらに速くッ!奴まで、エンジン…全開だ!」
魔獣がこちらに気づく。
咆哮。巻き起こる土煙。
ソウリスが光の軌跡を描き、魔獣に一直線に突っ込む。
「喰らえぇぇッ!」
黒銀の機体が魔獣の脇腹に衝突。
衝撃と同時にソウリスから魔力の爆風が走り、
魔獣の体が大きくよろめいた。
《良いの!ソウリスと完全に共鳴しておる!》
ブレーキを引き、後輪を滑らせて停止する。
砂煙の向こう、少女がこちらを見つめていた。
その瞳が、恐怖から希望へと変わるのが見えた。
「……大丈夫か!」
柊真の声が、風の中に溶けて消えた。
ソウリスの計器に、文字が浮かぶ。
《Soul Ignition —— 天城柊真、リンク完了。》
ソウリスから、青白い光と風が再び吹き抜けた。
——天城柊真の、第二の走りが始まった。
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