子供のいない国の話

しっかり村

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子供のいない国の話

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「子供のいない国の話」





その国に子供がいなくなって何年経つことでしょう。最後に子供をつくった家庭で虐待と生活保護費虚偽申請の事件が起こったのがきっかけでした。多くの大人たちが溜息をつき我が身はそうならないように子供を産み育てることを控えてきたのです。生活が豊かにならない限り子供を産み育ててはならないと我慢してきました。ところが働けど働けど生活はいっこうに良くならないし物価は上がり税金徴収が増えるばかり。大人たちはついに、子供を産み育てることをあきらめました。あきらめは、世渡りのひとつの方法であると同時に機能の衰えを促しもします。長寿の国とはいえ大人たちの生殖機能はみるみる衰えていきました。生殖機能が衰えると、気力が湧かず希望も薄らいでいきます。やがて、希望を失くした大人たちは、その時々を与えられた分だけ楽しみ、従順に働き、できる範囲で助け合って生きるようになりました。
そのうちに大人たちは子供が何年も産まれていないことなどすっかり忘れてしまいます。若い頃と同じようにゲームに興じ、それなりに働き、収入に応じた物を食べて不満も不自由もなく、もちろん希望もありません。
老いて少しずつ動きがゆっくりになってくると生活習慣も変わってきます。でこぼこの路面や車が行き交う道路を歩いたり走ったりするより家の中で映像を観ながらランニングマシーンを使っていた方がリスクは少なく、旅行に出かけるくらいなら画像やVRで済ました方が経費も時間も節約できて疲れもしないので満足感が得られます。ささやかな性的欲求も、VRで処理しているうちに同性異性に関わらず肉体的な関心が薄れていきました。
困ったのは王様をはじめとする権力者たち。大人たちが老いているため働き方が鈍くなり、税収が乏しくなってきているのです。その一方で、自分たちも含めて悩んだり考えたりしなくて済むようなインフラ整備を進めなければならないため歳入より歳出の多い年が続きます。活力あふれる新しい働き手はゼロですからこのまま尻すぼみになるのは目に見えています。けれども頼りのAIは斬新なアイディアなど思い浮かばない様子で
「祈るしかありません」と繰り返すのみ。
普段は神と仏を、統率と金儲けの手段ぐらいにしか思っていない権力者たちですが、AIが言うのなら、と祈り始めます。すべての大人たちに祈るよう命じ、自分たちも毎日空に向かって祈りました。

そんなある日、東の空から大きなコウノトリが飛んできました。権力者たちは大喜びです。コウノトリといえば昔話に出てくる子供を運ぶ幸運の鳥なのですから。祈りが通じたのだと宗教心を見直し、久しぶりに涙を流し、長らく口にすることのなかった希望という言葉を想い出してしまいました。けれどコウノトリは、その国に降り立とうとはせず高い上空を過ぎていきます。それでも何かの幸運をもたらしてくれるのではと期待して待ち受けているところへポトリと一粒の種。
権力者も大人も歓喜しました。きっとこの種に大いなる意味があるのだろうとふたたびAIに尋ねてみます。
「種が発芽し、開花し、結実するころには、数多の命の連鎖が育まれていることでしょう」
AIの重々しく説得力のある回答に皆が感嘆したのは言うまでもありません。
権力者たちはリーダーシップを発揮し、大人たちに種を世話するよう命じます。
従順な大人たちは土を耕し、肥料を入れ、種を植えました。そして毎日せっせと水をやりました。





種は発芽し、苗となります。
権力者たちはワクワクしながら待ちました。
大人たちは周りの草を採り、苗の日当たりを良くしました。
苗はすくすくと成長していきます。
大人たちは来る日も来る日も水をやり、生えてくる周りの草を採りました。
権力者たちはひたすら待ちました。
やがて苗は、大木へと成長します。
権力者たちは大木に「希望の木」と名付けます。
けれどその頃にはもう、大人たちは歩けぬほどに老いていました。
そして皆倒れてしまいました。
大木は花を咲かせ結実し、たくさんの種子を落としました。
大木の周りにはたくさんの苗が芽生えます。
最後に残った数人の権力者たちはたくさんの発芽を見届け、倒れました。
AIの電源は入りっぱなしです。
今日も誰かの質問を待っています。(了)
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