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雲の中の竜
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雲の中の龍
「ちょっ、ちょっ、ちょっと!ウグイス女はん!ワイ等を何処へ連れてくつもりやねん?」
「ホウホケチョ」
「はいはい!わかりましたよ。ほっとけってぇか。ホケチョホケチョってぇ、何や、この子の名前やんか。なあ、オイ、ホケチョ!ん……アレ? 何や気ぃ失っとるんかい。ちぇっ、しっかりしてるようでもまだまだ子供やねんな」
「ホウホケチョ」
「アンタもそないホケチョホケチョってェ、言うのはひょっとして……」
「ホウホケチョケチョケチョケチチョチョ」
「おお~っとっと、ナニ慌ててんねん!天下のウグイス女やろが。よし、ハッキリ言うたる。アンタ、ホケチョに惚れとんのやな」
「ケ・チョ……」
ウグイス女の声が滑ってフェードアウトしていく。脱力した弾みで掴んでいたカケス男とホケチョを放してしまった。
カケス男とホケチョが真っ逆さまに雲の中へ落ちてゆく。
「おわっ! またかいな。もう飛べへんて」
カケス男は小さな翼をバタバタさせるが、落下速度は容赦しない。前後左右まっ白で何も見えないホワイトアウト状態の中を真っ逆さまに落ちてゆく。視覚的に何も変わらないが、身体が落ちてゆくものすごい風を受けて気圧の変化を感じ取っている。
「今度こそおしまいなや……」
カケス男の翼はついに力尽きた。落下が加速されたそのとき、下から突き上げるような風圧が襲いかかってきた。
「な、何や?」
ヒュンヒュンと唸りを上げた竜が上昇一途、カケス男目指してまっすぐに向かってくる。勢いに押されたカケス男はふわりと上昇し、抱えていたホケチョを放してしまった。
「あ、アカン! アカンがな。ホケチョ、すまん……」
竜の勢いで下からふたたび放り投げられたようなカケス男は雲の上に出た。そこへすぐさまウグイス女が飛んできた。
「あぁウグイス女はん、スマンなぁ、ホケチョ放してしもうたがな……」
ウグイス女は何も答えない。カケス男をしっかり掴んでまた力強く羽ばたいた。
竜は落ちてくるホケチョを捕えるとグルグル巻き付いた。上昇を止めたところで長い竜の胴がピンと張りつめる。そして白い雲の中を何かに引っ張られるようにゆっくりと下降してゆく。
やがてうっすらと雲が晴れ、緑が露わになった。アカエゾマツの樹林帯だ。ホケチョの捕獲に成功した竜は、樹冠に絡みつき休息する。仕留めた獲物をどうさばこうか、そんなことでも考えているのだろうか……。
「オイ!大丈夫か」
ベンケェは、アカエゾマツの樹冠とホケチョの身体に絡んだザイルを丁寧にほどきながら声をかけた。
「アア、・・・・・・ベ・ベンケェさん、アア・・・・良かった。またお逢いできて」
ベンケェが思い切り投げたザイルはホケチョに巻き付き、アカエゾマツの樹冠にしっかりと絡みついて基点となった。そして、ベンケェをここまで運んだ。
「どこをどう落っこちたのかわからんが、擦り傷と打撲だけですんだようじゃの。骨は折れとらんようだな」
「エエ、何とか大丈夫そうです。・・・・・あの柏の樹から・・・落ちてから記憶がないのですよ。いてててて・・・・・・・」
「まあまあ、喋らんでエエ。しばらくゆっくりしいや。ホレ!呑みな」
ベンケェは腰に下げた瓢箪徳利の栓を抜いてホケチョの口元へ添えた。
「ゴクリ・・・ああ、生き返ります。まさに命の水。でもこれお酒じゃあないですよね」
「ドアホ!さすがのワシも今この状態で、酒を勧めることは出来んわい!まぁ冗談言う元気はあるようでよかったわい」
「有難うございます。でも、今一体どの辺に居るのでしょうか?滝壺に落ちて川に流されて国見山の中腹あたり?それとももっと下の海の近くの林ですか? 嗚呼、また一から登らねばなりませんかね。だいぶ陽も傾いてきたというのに。申し訳ありません。ぼくのために・・・・・」」
「その様子じゃカケス男とウグイス女の行方なんて訊いてもわからんな。柏の樹から滑り落ちたところから・・・じゃったな。いいか! ゆっくり話すからな・・・・。カケス男が落ちてゆくお前をキャッチしてな。あのちっぽけな翼で、そら一所懸命羽ばたいたんじゃ。羽から煙が出るくらい。しかしそれも敵わず重力に従わざるを得なくなっちまった。そしてどんどん地面に近づいていったんじゃ。アア~っちうて思ったとき、『ホウホケチョ』ってぇ、あの鳴き声がしたかと思うと、電光石火の早業。すんでのところでウグイス女再登場でお前さんたちを拾い上げてくれた。と、そのまま連れ去って行っちまった。キタキツネ先生もヒグマ親父もワシも呆然と見送ったわな。ほんでワシは柏の樹までいったん登って、そっから又ザイルを思いっきりブン投げたとこじゃった。そしたらこのザイルも大したモンで、しっかりと持ち主のお前さんを探し出して捕まえてくれよったわい。おまけに丁寧に樹の上に寝かして。ワシはザイルを伝って崖を登り、樹をよじ登ってようやくここに倒れているお前さんを見つけたってわけじゃ」
「カケス男さんとウグイス女さんが……」
「そうじゃ。しかしどういうわけかどっちも見当たらん。察するにお前さんを落っことしちまったんじゃろう。カケス男のせいかウグイス女のせいかわからんがのう。まぁどのみちあと少しじゃ」
「?」
「ホレ、あそこでアカエゾマツの林がなくなっとる。あの辺じゃなかろか?」
「頂上?」
「おそらくのう」
「行きましょう」
「おいおい、大丈夫か」
「行きましょう」
ホケチョは自らを鼓舞するかのように念を押した。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと!ウグイス女はん!ワイ等を何処へ連れてくつもりやねん?」
「ホウホケチョ」
「はいはい!わかりましたよ。ほっとけってぇか。ホケチョホケチョってぇ、何や、この子の名前やんか。なあ、オイ、ホケチョ!ん……アレ? 何や気ぃ失っとるんかい。ちぇっ、しっかりしてるようでもまだまだ子供やねんな」
「ホウホケチョ」
「アンタもそないホケチョホケチョってェ、言うのはひょっとして……」
「ホウホケチョケチョケチョケチチョチョ」
「おお~っとっと、ナニ慌ててんねん!天下のウグイス女やろが。よし、ハッキリ言うたる。アンタ、ホケチョに惚れとんのやな」
「ケ・チョ……」
ウグイス女の声が滑ってフェードアウトしていく。脱力した弾みで掴んでいたカケス男とホケチョを放してしまった。
カケス男とホケチョが真っ逆さまに雲の中へ落ちてゆく。
「おわっ! またかいな。もう飛べへんて」
カケス男は小さな翼をバタバタさせるが、落下速度は容赦しない。前後左右まっ白で何も見えないホワイトアウト状態の中を真っ逆さまに落ちてゆく。視覚的に何も変わらないが、身体が落ちてゆくものすごい風を受けて気圧の変化を感じ取っている。
「今度こそおしまいなや……」
カケス男の翼はついに力尽きた。落下が加速されたそのとき、下から突き上げるような風圧が襲いかかってきた。
「な、何や?」
ヒュンヒュンと唸りを上げた竜が上昇一途、カケス男目指してまっすぐに向かってくる。勢いに押されたカケス男はふわりと上昇し、抱えていたホケチョを放してしまった。
「あ、アカン! アカンがな。ホケチョ、すまん……」
竜の勢いで下からふたたび放り投げられたようなカケス男は雲の上に出た。そこへすぐさまウグイス女が飛んできた。
「あぁウグイス女はん、スマンなぁ、ホケチョ放してしもうたがな……」
ウグイス女は何も答えない。カケス男をしっかり掴んでまた力強く羽ばたいた。
竜は落ちてくるホケチョを捕えるとグルグル巻き付いた。上昇を止めたところで長い竜の胴がピンと張りつめる。そして白い雲の中を何かに引っ張られるようにゆっくりと下降してゆく。
やがてうっすらと雲が晴れ、緑が露わになった。アカエゾマツの樹林帯だ。ホケチョの捕獲に成功した竜は、樹冠に絡みつき休息する。仕留めた獲物をどうさばこうか、そんなことでも考えているのだろうか……。
「オイ!大丈夫か」
ベンケェは、アカエゾマツの樹冠とホケチョの身体に絡んだザイルを丁寧にほどきながら声をかけた。
「アア、・・・・・・ベ・ベンケェさん、アア・・・・良かった。またお逢いできて」
ベンケェが思い切り投げたザイルはホケチョに巻き付き、アカエゾマツの樹冠にしっかりと絡みついて基点となった。そして、ベンケェをここまで運んだ。
「どこをどう落っこちたのかわからんが、擦り傷と打撲だけですんだようじゃの。骨は折れとらんようだな」
「エエ、何とか大丈夫そうです。・・・・・あの柏の樹から・・・落ちてから記憶がないのですよ。いてててて・・・・・・・」
「まあまあ、喋らんでエエ。しばらくゆっくりしいや。ホレ!呑みな」
ベンケェは腰に下げた瓢箪徳利の栓を抜いてホケチョの口元へ添えた。
「ゴクリ・・・ああ、生き返ります。まさに命の水。でもこれお酒じゃあないですよね」
「ドアホ!さすがのワシも今この状態で、酒を勧めることは出来んわい!まぁ冗談言う元気はあるようでよかったわい」
「有難うございます。でも、今一体どの辺に居るのでしょうか?滝壺に落ちて川に流されて国見山の中腹あたり?それとももっと下の海の近くの林ですか? 嗚呼、また一から登らねばなりませんかね。だいぶ陽も傾いてきたというのに。申し訳ありません。ぼくのために・・・・・」」
「その様子じゃカケス男とウグイス女の行方なんて訊いてもわからんな。柏の樹から滑り落ちたところから・・・じゃったな。いいか! ゆっくり話すからな・・・・。カケス男が落ちてゆくお前をキャッチしてな。あのちっぽけな翼で、そら一所懸命羽ばたいたんじゃ。羽から煙が出るくらい。しかしそれも敵わず重力に従わざるを得なくなっちまった。そしてどんどん地面に近づいていったんじゃ。アア~っちうて思ったとき、『ホウホケチョ』ってぇ、あの鳴き声がしたかと思うと、電光石火の早業。すんでのところでウグイス女再登場でお前さんたちを拾い上げてくれた。と、そのまま連れ去って行っちまった。キタキツネ先生もヒグマ親父もワシも呆然と見送ったわな。ほんでワシは柏の樹までいったん登って、そっから又ザイルを思いっきりブン投げたとこじゃった。そしたらこのザイルも大したモンで、しっかりと持ち主のお前さんを探し出して捕まえてくれよったわい。おまけに丁寧に樹の上に寝かして。ワシはザイルを伝って崖を登り、樹をよじ登ってようやくここに倒れているお前さんを見つけたってわけじゃ」
「カケス男さんとウグイス女さんが……」
「そうじゃ。しかしどういうわけかどっちも見当たらん。察するにお前さんを落っことしちまったんじゃろう。カケス男のせいかウグイス女のせいかわからんがのう。まぁどのみちあと少しじゃ」
「?」
「ホレ、あそこでアカエゾマツの林がなくなっとる。あの辺じゃなかろか?」
「頂上?」
「おそらくのう」
「行きましょう」
「おいおい、大丈夫か」
「行きましょう」
ホケチョは自らを鼓舞するかのように念を押した。
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