カケス男とウグイス女

しっかり村

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頂上台地とウグイス女の棲家

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頂上台地とウグイス女の棲家
カケス男は明るい陽射しとほんわかとした温もりを感じて目覚めた。まだウグイス女に背中を掴まれて空中遊泳のさなかだが今までにない自然な目覚めだ。カケス男という姿で生きておよそ四年、ほとんどの夜をベンケェと飲み明かし、ぐでんぐでんになってようやっと仕方なく昼前に目を覚ます毎日で今朝だってそうだったが、何としたことかこの心地よい目覚めは。まだ四月というのにこの世のすべての春の代名詞を集めたように百花繚乱ではないか! 目に映るすべてが花で満たされている。確かここは日の本の国の北限、オシリ島のはず。そしてたぶんシッカリ山の頂上だろう……。麓ではようやくフキノトウや福寿草が顔を出したばかりだし、ヒグマ親父でさえ、ついさっきホケチョに蹴起こされて冬眠から目覚めたばかりだというのに。
ミヤマキンバイの黄色、エゾノツガザクラとチングルマ、ひときわ背の高いアサヒラン、そして線香花火のように儚げなヒメシャクナゲ、標高の高い湿地らしい池塘と呼ばれる多数の小さな池が水面に青い空を切り取る。広大な頂上台地の中央のひときわ大きな三日月型の池の畔には、樹齢数百年はあろう巨大な柏の樹がシンボリックに立っている。まだ新しい葉の育たない枝先に古い葉が重たげにぶら下がり樹冠を左右に開く。二股に分かれた幹には、まるで狙いすまして着陸したかのように真紅の鉄の塊が乗っている。そのずっしりと重たげな側面には、はっきりと「ミサゴ」の文字。
「こ・これやがな、多分ベンケェはんとキタキツネ先生の言ってた、でっかい紅い鳥。ホケチョの言ってた”よく落ちる飛行機“いやいや”トラブルの多い飛行機“って奴や。こないな所にあったんかい……で、どうするってぇ……?」
カケス男の目に映るミサゴの文字がだんだん大きくなっていく。近づくほどに赤い鉄の塊の大きさを思い知らされ、それをしっかりと支える二股の柏の樹の圧倒的な力強さを感じずにはいられない。やがて柏の樹の上でホバリングを始めたウグイス女は、カケス男を掴んだまま、ヘリコプターのようにゆっくりと下降した。
カケス男と同じくらいの大きさの「ミサゴ」の「ミ」の文字が目の前に来たとき、ウグイス女は左に移動し、ドアの外れた入口らしきところから中へ入った。
「ここがアンタの家かいな?」
カケス男が尋ねるとウグイス女は頷いた。
「なるほどねぇ~。トラブルの多い飛行機っても、もうトラブルも出し尽くした感がするから、逆に安心は安心かもな。中は広いし、小窓が付いていて光も入るから明るい。そしてこの抜群のロケーションやんけ。頂上台地っちゅうわけや。外周がちょっとだけ高くなって、おまけにアカエゾやらの樹に囲まれとるからそう風も入って来ん。雲は周りだけで上にはカンカンのお陽様や。暖かいのは温泉も湧いとるってことやろか? いい風呂出来そうやな。百花繚乱と青空を映す三日月池を観ながら温泉入って酒を呑むなんて最高やがな! 」
カケス男の目に映る頂上台地は、まさしくキタキツネ先生の思い出話の通りだ。ただ、大きな湖が三日月池と小さな池塘群に変わり、シンボリックな柏の樹の上にミサゴがツリーハウスのように乗っていることを除けば。
「たぶん、この樹がキタキツネ先生の言うとった柏の樹やろか。してみると、アンタはそん時のシマフクロウさんの子孫かいな? そういやキタキツネ先生が昔カケスだったことと、ワイがカケス男いうんも縁あってのことかもしれへん。どやろ? ワイと一緒にならへんか? ワイもそろそろベンケェはんとばかり呑むのも飽きてきたとこや。そろそろ新しい道を切り開こうかなと思てた。ウグイス女はんがワイと夫婦になってくれれば、ワイはずっとここに居れる。そして毎日この景色観ながら呑めんねん。ワイかて鳥のはしくれや。どやろ?相性そない悪くは思えへんのやが」
「ケチチョケチチョケチチョケチチョ……」
ウグイス女は顔を真っ赤にして羽をばたつかせた。
「おお怒りよったんかいな。堪忍堪忍!冗談やがな……」
「ホケチョ、ホケチョホケチョケチョケチョケチョホケチョケチョ……」
 「オーエス、オーエス」
「ホケチョ、ホケチョホケチョケチョケチョケチョホケチョケチョ……」
 「オーエス、オーエス」
「ん? 何ぞ聞こえてきたで……」
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