てっぺんかけたか(カケス男とウグイス女Ⅱ)

しっかり村

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拾四 ジョッピンお構いなし~初めての独りの冬

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拾四
「カマクラはんまで居のうなんのかいな……」
その日はお春にとってやけに長く感じられた。いつまでも沈まない夕陽が割れたボージョレ―ヌーボーの残り香に集まる鳥たちを照らす。近くで見る紅味がかった濃褐色の背中と白い眉班は、ジョッピンカケタカのエゾセンニュウに間違いない。思えばこの鳥のせいで書き損じた。それが源ジィの帰宅の遅れに関係あるとは思えないが、ここは異空の北の孤島、小さなつまずきへの邪念が何らかの妨げになったと考えられなくもない。およそお春らしからぬ心持ちとはいえ、人生初の源ジィ長期不在において断酒と共に若返ったのは肉体のみにあらず。血気盛んな精神をも取り戻しつつあった。
「こいつのせいで間違ったんや!」
お春は、カマクラ氏の置いていった樽の栓を抜き、エゾセンニュウめがけて思いきり投げつけた。振りかぶったところでエゾセンニュウはすみやかに飛び立ったが、勢いのついたお春の動作は止まらない。ビュン!と振り下ろした右手から放たれた樽の栓は標的を失い地面にバウンドすると、ついさっき閉めたばかりのガラス戸を目指す。
バシャーン!という甲高い音と共に、二重ガラスが粉々に割れた。

ジョッピンカケタカ?
ビックリしたのはエゾセンニュウの方で、お春の頭の上でホバリングしている。
「じゃかあしいやい!」
投げるもののなくなったお春は、乱暴な言葉をエゾセンニュウに浴びせると、栓のない酒樽を引き摺って家の中に入った。

ジョッピンカケタカ?
「フン!鍵(じょっぴん)かけたかて、ガラス割ってもうてるから同じやがな。涼しなってちょうどエエわい」
その夜、お春はついに樽の中の濁酒に手を付けた。十日も断酒していたから酔いは早い。割れたガラス戸をピューピューと虎落笛が叩く。けれど酔いつぶれたお春の耳には届かない。

ジョッピンカケタカ?
エゾセンニュウの声さえ遠く、虎落笛とお春の寝息にかき消されてゆく
翌日、酒樽の栓がないことは、箍の外れたお春の酒量を無限に開放した。目覚めてすぐに呑み、源ジィのいない寂しさに呑み、昼間の暑さに呑み、疲れたから呑み、一人じゃ寝付けないから呑んだ。日の出を酒と共に迎え、日の入りと月の出を晩酌の供とした。そうしてひと月ふた月、み月の時間の経過など気付きもせず、割れたガラス戸から入ってくる風の冷たさに源ジィへの想いを掻きむしる。
「源ジィ、遅いのう」
庭先の斜立した柏樹はすっかり黄葉し、ドングリが転がる。煎って食べると結構な摘まみになるのだが、今のお春にその気力はない。割れたガラス戸から雪虫やカメムシが入ってこようがお構いなしだ。寒くなったらお酒で温まるだけのこと。お春の人生初の独りぼっちの冬は、虎落笛を聴きながら雪虫やカメムシを相手にひたすら濁酒を呑むことに費やされた。
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