てっぺんかけたか(カケス男とウグイス女Ⅱ)

しっかり村

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拾伍 てっぺん書けたよ

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拾伍  てっぺん書けたよ
虎落笛の激しさに季節の動きを知る。叩きつけるような風が、そろそろ底をつく酒樽を転がしたとき、お春は冬の終わりを知った。寒さに慣れたのか、飲酒と老化で無感覚になったのかわからないが、何とか独りで冬を越したと少し安堵した。横になった酒樽に残っている濁酒を手に掬う。麹が溜まりかなり濃厚だ。以前ベンケェに貰った不老不死の泉の希釈液より濃い硫黄臭がした。
「どうしとるかのう……」
濃厚な濁酒の醸し出す硫黄臭にウットリしているうちに夜が白んできた。

ホウホケチョ
ホウホケチョ

「ウグイスか、久しぶりやな。そういえばホケチョは元気じゃろか?」
見上げる空には、ウグイスとは思えない巨大な鳥が旋回している。まさかこの鳥が声の主とは思えないが他に鳥は見当たらない。巨大な鳥は、お春の視線を誘導するかのように海を越えオシリ島へ向かった。いつの間にか激しい季節風は止んでいる。一年のほとんどを荒れ狂うはずのオシリ島との海峡が稀に見る静けさだ。波一つ立てぬ海面の先のオシリ島が朝陽を浴びて一段と神々しい。頂上は相変わらず雲の中、てっぺんは見えない。
「源ジィもホケチョもホウもシヅカはんも、オシリ島の方がエエ言うてみんなでワイワイやっとんのとちゃうやろか? アタイだけ除け者にして」

ジョッピンカケタカ?

「今度はエゾセンニュウかいな? ジョッピンやあらへんて、いっぱい練習したんやからもう間違いようないわい。えぇい!このまま沈んどってもしゃあない。アレ呑むか」
お春は、ここ一番のためにとって置いたベンケエの少し黄ばんだ瓢箪徳利を取り出した。これで手持ちの酒は無くなる。カマクラ氏頼みだが、そのカマクラ氏さえ去年の春から来ていない。みんな居なくなって間もなく一年経とうとしている。お春は、極北の海面に映る紫色の朝陽を正面に見据え、ゴクリゴクリと瓢箪徳利で喉を潤した。
「よっしゃあ!書いてまうでェ。そして源ジイのところへ持ってったる」
決めたら早い。集中力も抜群だ。

てっぺん

「うん、これでよし。源ジイも喜ぶやろ」
 
テッペンカケタカ?
正真正銘のホトトギスが柏樹に留まっている。
「書けたで!」
お春はカンバスの文字を乾かし、残り9枚と一緒に丸めてザックに入れた。そして少し軽くなった瓢箪徳利、大至急ご飯を炊いてオムスビを9つ、そしてオッカナイ高校時代のスクール水着、墨と筆も忘れずに詰め込んだ。 
「ほな、行くか」

ジョッピンカケタカ?
せわしないエゾセンニュウが戸締りの確認を促すが、元よりガラス戸が割れているし異空の島の老夫婦の家から盗む物などないだろう。ベンケェのようにわざわざ砂を運んで道を造る体力もないから、凪いでいる今のうちに泳いで渡るつもりだ。77歳とはいえ、あのホケチョの祖母であり生まれ故郷の海だ。お春は、誰も見る人の居ない砂浜で高校時代のスクール水着に着替えると、耳に唾で栓をして海に入った。

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