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拾九 ~不老不死の泉あります~
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拾九
崖の上は結構な風だ。お春の筆によるノボリがはたはたと生き物のようにはためいている。
~不老不死の泉あります~
「このノボリこそが不老不死の生き物のようにも見えますな」
「まあな。しかしおぬしらだって結構な長生きじゃろう」
お春は自分の為に溌剌と動いてくれるヨシツネと、後ろからそれとなくサポートする青蛇を羨ましそうに見つめた。小さな体のヨシツネが風に飛ばされないよう、青蛇が風除けになっている。実にお似合いだ。
お似合いのカップルというものは、こうした他人の目で評価される。源ジィとお春も常々そう言われてきた。見てくれや出自が異なることが何の妨げになろうか。生き抜く艱難辛苦が身を焦がし磨かれ、時に異形となることもあろう。天の匙加減ひとつで異国や異空へ赴かねばならぬことも多い。蛇だ人間だの大きかろうが小さかろうが、異人だろうが、そんなことはたまたま出逢ったときの外観の巡り合わせ。縁とは、ずっと前から仕組まれていた絆なのだ。だから、ヨシツネを護る青蛇の大きな蒼さは、強風に身じろぎもしない。
~不老不死の泉あります~
のノボリが、ヨシツネへの想いを代弁するかのように激しくはためく。
「お春さんが書かれたのですね」
「せや!」
お春は、リュックに丸めていたカンバスを広げた。
「もう一枚あるんや」
~てっぺん~
「てっぺん……ですか。これも威風堂々として、素晴らしい出来栄えですな」
「あすこに持ってかなアカンのや」
「あの山の……?雲の中ではござらぬか」
「せや、てっぺんの印なんやと。どのみち遠くからは見えへんのにな。せやけど、あすこに家族居るねん。たぶんベンケェはんも」
青蛇が、物憂げにシッカリ山の頂上を見つめる。海から出て強風に曝される時間が長くなり、そろそろ表皮が乾いてきたのだ。
「永い旅になるでござろうか?」
「わからん……。せやけど、永いこと帰って来んゆうことは、まだ辿り着いとらんのかも知れんて……」
「青蛇殿、ここから先、そなたの棲みうる処より遠く離れてしまう。すでに某をかばおうと風に曝されさぞ辛かろう。そなたの想いはしかと受け止めたぞ。此処で海に帰るがよかろう」
「嗚呼、何を仰いますかヨシツネ様。それでは、あのシャコタンの悲劇の二の舞です。これからは一秒たりともヨシツネ様から離れとうありません。八百年ぶりにお逢いできた愛する方と離れることと、海から離れて『干し蛇』となることの二択でしかないのであれば、私は躊躇なく『干し蛇』となることを選択いたします。元より、恋の炎に焼き尽くされ、焦がれ焦がれて細く長くの死に損ないの身。見事『干し蛇』となった暁には、どうぞ皆さんで酒のアテにでもして戴けると幸いです」
「死に損ないはお互い様じゃ。青蛇はん、ひとつこれ呑んでみいや。ちっとは潤うかも知れんて」
お春は瓢箪徳利を掲げ、芳醇な白い液体を青蛇の口に注いだ。
崖の上は結構な風だ。お春の筆によるノボリがはたはたと生き物のようにはためいている。
~不老不死の泉あります~
「このノボリこそが不老不死の生き物のようにも見えますな」
「まあな。しかしおぬしらだって結構な長生きじゃろう」
お春は自分の為に溌剌と動いてくれるヨシツネと、後ろからそれとなくサポートする青蛇を羨ましそうに見つめた。小さな体のヨシツネが風に飛ばされないよう、青蛇が風除けになっている。実にお似合いだ。
お似合いのカップルというものは、こうした他人の目で評価される。源ジィとお春も常々そう言われてきた。見てくれや出自が異なることが何の妨げになろうか。生き抜く艱難辛苦が身を焦がし磨かれ、時に異形となることもあろう。天の匙加減ひとつで異国や異空へ赴かねばならぬことも多い。蛇だ人間だの大きかろうが小さかろうが、異人だろうが、そんなことはたまたま出逢ったときの外観の巡り合わせ。縁とは、ずっと前から仕組まれていた絆なのだ。だから、ヨシツネを護る青蛇の大きな蒼さは、強風に身じろぎもしない。
~不老不死の泉あります~
のノボリが、ヨシツネへの想いを代弁するかのように激しくはためく。
「お春さんが書かれたのですね」
「せや!」
お春は、リュックに丸めていたカンバスを広げた。
「もう一枚あるんや」
~てっぺん~
「てっぺん……ですか。これも威風堂々として、素晴らしい出来栄えですな」
「あすこに持ってかなアカンのや」
「あの山の……?雲の中ではござらぬか」
「せや、てっぺんの印なんやと。どのみち遠くからは見えへんのにな。せやけど、あすこに家族居るねん。たぶんベンケェはんも」
青蛇が、物憂げにシッカリ山の頂上を見つめる。海から出て強風に曝される時間が長くなり、そろそろ表皮が乾いてきたのだ。
「永い旅になるでござろうか?」
「わからん……。せやけど、永いこと帰って来んゆうことは、まだ辿り着いとらんのかも知れんて……」
「青蛇殿、ここから先、そなたの棲みうる処より遠く離れてしまう。すでに某をかばおうと風に曝されさぞ辛かろう。そなたの想いはしかと受け止めたぞ。此処で海に帰るがよかろう」
「嗚呼、何を仰いますかヨシツネ様。それでは、あのシャコタンの悲劇の二の舞です。これからは一秒たりともヨシツネ様から離れとうありません。八百年ぶりにお逢いできた愛する方と離れることと、海から離れて『干し蛇』となることの二択でしかないのであれば、私は躊躇なく『干し蛇』となることを選択いたします。元より、恋の炎に焼き尽くされ、焦がれ焦がれて細く長くの死に損ないの身。見事『干し蛇』となった暁には、どうぞ皆さんで酒のアテにでもして戴けると幸いです」
「死に損ないはお互い様じゃ。青蛇はん、ひとつこれ呑んでみいや。ちっとは潤うかも知れんて」
お春は瓢箪徳利を掲げ、芳醇な白い液体を青蛇の口に注いだ。
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