てっぺんかけたか(カケス男とウグイス女Ⅱ)

しっかり村

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参拾弐 滝壺の堆積物

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参拾弐  滝壺の堆積物

「ん、なんぞ聞こえたか?」
ようやくシッカリの滝までたどり着いたお春一行。お春は、止め処ない滝の流れに交じり、ウグイスのような声を聞いた気がした。
「せや、ウグイス女やあらへんかったか?」
カケス男の耳にも届いたらしい。先頭のキタキツネ先生も上空を捜している。ヨシツネと青蛇は、周囲をキョロキョロ見回した。
「ウグイス女って、今朝の出端でも言うとったが結局何やねん?」
お春は朝からずっと疑問だったのだ。
「でっかい鳥や」
「でっかい鳥に何で『女』って付くねん?」
「顔が美人なんや」
「鳥にも美人やら不美人やらあんのかいな……? う~ん、ようわからへんけど、アタイとどっちが美人やろか? 逢うのが楽しみやで」
「せやな。頂上着いたら逢えるで。逢ってビックリ玉手箱って奴や」
「そない美人なんか」
「うん、まぁな! 細面の色白で慎ましやか、これぞ大和撫子って感じやなぁ」
「細面の、色白で、慎ましやか、これぞ大和撫子……ってか」
お春は、カケス男の言葉を反芻しながら、滝つぼに映る自分の顔を凝視した。頂上の不老不死の泉を含む水面は白く濁り、絶えず波打つ。それが朧さを増し、お春の目には往年の大女優のモノクロブロマイドのように映っている。
「細面で色白までは負けとらんなぁ……。慎ましやかさと大和撫子ぶりは、逢ってから源ジィに決めてもらおかの」
「せやな。それがエエ」
ウグイス女のすべてを知るカケス男だったが、敢えてすべてを話さず、ほくそ笑みながらお春に合わせた。
「この垂直の崖も、しっかりした道になっていますね」
キタキツネ先生が崖を見上げて言う。
シッカリの滝の右手には、源ジィとベンケェ・後から加わったヒグマ親父による九十九折の登山道が見事に造られている。そのプロセスにおいて、源ジィが滑落したことなど知る由もない。
「よっしゃ、ほな、行こか」
お春が号令をかけたその時、ヨシツネが皆を制した。

「皆の者伏せよ! 青蛇頼む」

叫ぶが早いか、狼煙のように鎌首をもたげつつ立ち昇る青蛇。その頭に立つヨシツネが刀を大上段に構え、上空から猛スピードで落ちてきた物体を一刀両断。二メートル程のその物体は真っ二つに伐られ、一行を避けて左右に転がった。右に転がった半分がそのまま滝壺に落ちる。
「冷蔵庫ですね。いったい何処から……」
左に転がった物体に駆け寄ったキタキツネ先生が確かめた。青蛇は乾きかけた身体の水分補給を兼ねて滝壺に入り、残り半分を捜す。
「あんま近づかん方がエエで。ガスがシューシューいうとる」
折れた銅管から漏れ出るフロンガスがお春の鼻を突いた。ほどなく、青蛇がいっそう蒼い顔で滝壺から上がってきた。
「底に同じようなものがたくさん沈んでいました」
青蛇の報告に、皆がく然とした。彼方此方の異空の島の神秘の山から流れ落ちる処女水に、何故そのようなものが沈んでいるのか見当もつかない。誰が何の目的で此処を目指して打ち捨てたのか? あるいは、ここにいるメンバーと、ベンケェ・ヒグマ親父の他に、このオシリ島に違う集落が存在し、文化的な生活をしているのか……。
「私たちより他に、もしかしたらずっと昔から、この島で、文化的な生活を送っていた方々がいたのでしょうか?」
キタキツネ先生が言った。
「何処からか誰の仕業かはわからぬが、とにかく此処にいては危ない」
「ヨシツネはんの言う通りや。崖の道登っとった方が落下物には対処できるんちゃうか」
「カケス男殿に賛成でござる。拙者が先頭を行こう」
「ヨシツネはん、頼もしいのう。大活躍やがな。せやけど、だいぶ影が薄うなっとるで! ここらで栄養補給せんか。おむすび最後の一個、今のアンタになら惜しないで」
「忝い。しかし、まだ先は長いでござる。この先も何があるかわからぬ。今はまだ、最後の一個に手を付けるときではありますまい」
「さすがは源義経じゃ。青蛇はん、頼むで」
ヨシツネを先頭に、青蛇に跨るお春、キタキツネ先生、そして全体を見守るカケス男の列が、崖の九十九折の道を進む。陽はまだ高い。巾二メートルほどに歩きやすく均された路は、気の急く一行の思いを受け止めてスムーズに運ぶ。源ジィが滑落したことなど知る由もない野営跡地を悠々と過ぎ、間もなく、かつて柏の樹の斜立していた広々とした踊り場に着く。その上からは雲霧。ベンケェやヒグマ親父にそう遠くない。

パラパラパラ……

パラパラパラ……

「ん? また何か異な音が……」
ヨシツネが刀に手を掛ける。
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