マルタン王国の魔女祭

カナリア55

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エリス・ルロワ

引き渡し

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 朝から晩まで長時間馬車に揺られ、小さな宿に宿泊しながら四日後、マルタン王国の国境にたどり着き、国境警備隊の施設に案内された。

「私はサミュエル・ルグランです。ここからは我々が王都へお連れします。書類にサインを」

 短髪で大柄な二十代半ばくらいの男性がそう挨拶をし、フォーレ卿がそれに対応している。
 いよいよ、マルタン王国に引き渡されるのだ。

「えーと……エリス・ルロワ侯爵令嬢様、ですね?」
「はい」
「サミュエル・ルグラン侯爵です。フェリックス陛下の命を受けお迎えに参りました。王都まで安全にお連れ致します」

 ルグラン侯爵は、わたしをまじまじと見ながら言った。
 ……器量も良くないし、みすぼらしい格好だもの。侯爵令嬢とは思えないでしょうね。

「王都までは馬車で四日かかります。申し訳ありませんが、荷物と身体検査をさせて頂きます」
「わかりました」

 その場で調べられるものと思ったら、奥の部屋で女性が検査をしてくれた。
 マルタン王国は、敵国だった人間に対しても礼を尽くしてくれるらしい。
 
「問題ないようですね。荷物はあれだけですか?」
「はい」

 ほとんど処分されていたせいで、小さなバッグの中に入っているのはローラがくれた侍女用の黒いワンピースと残っていた数枚の下着だけだ。

「そうですか……まあ、すぐ必要なくなるか……」

 独り言のような小さな呟きに、ドキッとする。

「もし、この移動の最中に必要な物があったら言って下さい」

 そう言いながら、ルグラン侯爵はバッグを持ち『じゃあ、行きましょう』と外に出た。

「エリス様、お別れです」
「フォーレ卿、ここまでありがとうございました。わざわざ、アレクシ様の側近である貴方に送っていただき、本当にありがたかったです。どうぞ、お気をつけてお戻り下さい」
「……エリス様……」

 別れの挨拶をすると、フォーレ卿は小さな声で言った。

「お守りできず、申し訳ございませんでした」

 数年前、アレクシ様とフォーレ卿と、これからのガルシア帝国をどうやって繁栄させていくか、語り合った事を懐かしく思い出した。

「どうか、アレクシ様を……」
「かしこまりました」

 別れを告げ、わたしは一人でマルタン王国の馬車に乗りかえ、死への旅を続けた。
 王都まで四日と言われたけれど、それはとても余裕をもって組まれた日程だった。
 途中で何度も休憩をし、夕方には宿に入り、朝は遅めの出発。
 これまでの旅よりだいぶ楽だった。

「もう、王都は目の前です」

 四日目の朝、ルグラン侯爵が言った。

「一時間もしないうちに王都に入ります。それで、王に会う前に身支度を整えていただきます。この者が手伝いますので」
「おはようございます、エリス侯爵令嬢様。わたしはエマ・ルグラン、サミュエルの母です」
 背はあまり高くなく、少しふくよかで優しそうなご婦人は、ニコニコとそう言った。

「母上、余計な事は言わないで下さいよ」
「はいはい、わかりましたよ。じゃあ、黙って支度をしますから、貴方は部屋の外に出ていなさい」
「わかりました。では、食堂で待ちますが、いいですね? 何も話さないように!」
「はいはい。まったく煩いったら……ねえ?」

 息子が出て行くのを見送ってから、彼女はわたしを見てニッコリ笑った。

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