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ガルシア帝国
定例会議 2
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ここ最近、会議で取り上げられる事柄は『エリス・ルロワの功績』と『エリス・ルロワがいなくなったためにうまくいかなくなった事』そして、エリスの代わりに皇太子の婚約者となったシャルロットについての苦言。
『もう、飽き飽きだ』と思うほど、次から次へと新しい問題が出てくる。
「シャルロット嬢はまだ婚約者。帝国主催の夜会への出席は、控えてもらった方がいいのでは?」
「しかし、エリスは出席していたではないか!」
アレクシは反論したが、
「畏れながら皇太子殿下、エリス嬢とシャルロット嬢とでは、あまりにも違いすぎます」
簡単に言い返されてしまった。
「エリス嬢は、夜会に出席される方々をしっかりと把握し、国の名所や特産品等も調べ、思慮深く接してらっしゃいました」
「そうそう、そうでした。貴賓の方の国で作られたアクセサリーや、染物やレースを使ったドレスを身に着けたりされて……隣りにおられたはずですが、お気づきになりませんでしたか?」
「そういえば、皇太子殿下はその頃、別の方と夜会を楽しんでいらっしゃいましたか」
「ああ、そういえばそうでしたね」
嫌味な言い方だが、本当の事なので反論できない。
「こうしてみると、エリス様をマルタン王国へ引き渡してしまったのは、間違いだったとしか言えませんな」
「1億ディラ、多く賠償金を支払ってでも守るべきでしたね。あの方の代わりは出てきませんよ」
大袈裟なほどにエリスを褒めたたえ、失った事を嘆く。
これも、毎回の事だ。
一部は本心だろうが、間違いなく自分への嫌味、嘲笑も含まれているこの会話は、アレクシにとっては気分のいいものではない。
「……貴公達もあの時は、諸手を挙げて賛成したではないか」
姉妹の父親であるルロワ侯爵が渋い表情で言う。
「こちらは大切な娘を帝国の為に差し出したのに、今さらそんな事を言い、私の慰めになっているとでも思っているのか?」
「これはルロワ卿、申し訳ない。ただ……エリス嬢をマルタンに差し出す事を、それほど悲しんでいなかったように見えたのは、私だけかな?」
空気がピリッとする。
「アビシニ卿! そのような事、侮辱でしかないですぞ!」
「ああ、これは失礼。帝国の為に、悲しみを堪えての事だったのに」
大して悪びれた風でもなく、アビシニ公爵は軽く謝罪した。
「ああ、しかし本当に、我々は貴重な存在を失ってしまった。穀物の研究も、貧困層への援助も、エリス嬢は自身に与えられた皇太子の婚約者としての手当金から出して行ってくれていたのだから。……そういえば、シャルロット嬢へ渡している毎月の金額を、増額したいとの希望が出ていたなぁ。この厳しい財政の中、エリス嬢の時と同額を支払っているにも関わらず。そして、シャルロット嬢は確か、なんの援助もしていないと記憶しているが? ねえ、ルロワ卿?」
「……そもそも皇太子の婚約者が、帝国がするべき研究やら対策をしなければならないなんて、聞いたことがない。エリスは自分がしたくてそうしていただけで、これまでそんな事をしていた方はいないだろう」
「ああ、それはそうだ! 失礼した。だが、だったらせめて、手当金の増額は我慢してもらわないと」
「…………」
「第一、何にそんなに必要だと? 単なる皇太子の婚約者が」
「…………」
「……マルタンとの戦争からまだ一年経っていない」
嫌な沈黙を破ったのは、皇帝だった。
「南部の作物の不作もある。このような状況で、皇太子の婚約者に対しこれ以上の予算は割けない。それよりも、ブロケット国との貿易についてだ。使者を立て、謝罪し、なんとしても継続させねばならん。それから……」
一度言葉を切り、皇帝は重臣達を見回した。
「エリス・ルロワがこれまで帝国の為にしてきた事は確かに素晴らしい事だが、エリス・ルロワがいなくなった途端『困った、困った』と。お前達は何をしていたのだ? 皇太子妃にもなっていない女性に任せ、お前達は仕事をしていなかったという事か? どうなのだ」
……発言をする者はなく、皇帝は席を立った。
「今日の会議はこれで終わる。今日の議題については日を改め具体的な事を決める。ルロワ侯爵、話がある、一緒に来い」
その場の全員が立ち上がり、皇帝とルロワ侯爵が部屋を出て行くまで深く頭を下げた。
『もう、飽き飽きだ』と思うほど、次から次へと新しい問題が出てくる。
「シャルロット嬢はまだ婚約者。帝国主催の夜会への出席は、控えてもらった方がいいのでは?」
「しかし、エリスは出席していたではないか!」
アレクシは反論したが、
「畏れながら皇太子殿下、エリス嬢とシャルロット嬢とでは、あまりにも違いすぎます」
簡単に言い返されてしまった。
「エリス嬢は、夜会に出席される方々をしっかりと把握し、国の名所や特産品等も調べ、思慮深く接してらっしゃいました」
「そうそう、そうでした。貴賓の方の国で作られたアクセサリーや、染物やレースを使ったドレスを身に着けたりされて……隣りにおられたはずですが、お気づきになりませんでしたか?」
「そういえば、皇太子殿下はその頃、別の方と夜会を楽しんでいらっしゃいましたか」
「ああ、そういえばそうでしたね」
嫌味な言い方だが、本当の事なので反論できない。
「こうしてみると、エリス様をマルタン王国へ引き渡してしまったのは、間違いだったとしか言えませんな」
「1億ディラ、多く賠償金を支払ってでも守るべきでしたね。あの方の代わりは出てきませんよ」
大袈裟なほどにエリスを褒めたたえ、失った事を嘆く。
これも、毎回の事だ。
一部は本心だろうが、間違いなく自分への嫌味、嘲笑も含まれているこの会話は、アレクシにとっては気分のいいものではない。
「……貴公達もあの時は、諸手を挙げて賛成したではないか」
姉妹の父親であるルロワ侯爵が渋い表情で言う。
「こちらは大切な娘を帝国の為に差し出したのに、今さらそんな事を言い、私の慰めになっているとでも思っているのか?」
「これはルロワ卿、申し訳ない。ただ……エリス嬢をマルタンに差し出す事を、それほど悲しんでいなかったように見えたのは、私だけかな?」
空気がピリッとする。
「アビシニ卿! そのような事、侮辱でしかないですぞ!」
「ああ、これは失礼。帝国の為に、悲しみを堪えての事だったのに」
大して悪びれた風でもなく、アビシニ公爵は軽く謝罪した。
「ああ、しかし本当に、我々は貴重な存在を失ってしまった。穀物の研究も、貧困層への援助も、エリス嬢は自身に与えられた皇太子の婚約者としての手当金から出して行ってくれていたのだから。……そういえば、シャルロット嬢へ渡している毎月の金額を、増額したいとの希望が出ていたなぁ。この厳しい財政の中、エリス嬢の時と同額を支払っているにも関わらず。そして、シャルロット嬢は確か、なんの援助もしていないと記憶しているが? ねえ、ルロワ卿?」
「……そもそも皇太子の婚約者が、帝国がするべき研究やら対策をしなければならないなんて、聞いたことがない。エリスは自分がしたくてそうしていただけで、これまでそんな事をしていた方はいないだろう」
「ああ、それはそうだ! 失礼した。だが、だったらせめて、手当金の増額は我慢してもらわないと」
「…………」
「第一、何にそんなに必要だと? 単なる皇太子の婚約者が」
「…………」
「……マルタンとの戦争からまだ一年経っていない」
嫌な沈黙を破ったのは、皇帝だった。
「南部の作物の不作もある。このような状況で、皇太子の婚約者に対しこれ以上の予算は割けない。それよりも、ブロケット国との貿易についてだ。使者を立て、謝罪し、なんとしても継続させねばならん。それから……」
一度言葉を切り、皇帝は重臣達を見回した。
「エリス・ルロワがこれまで帝国の為にしてきた事は確かに素晴らしい事だが、エリス・ルロワがいなくなった途端『困った、困った』と。お前達は何をしていたのだ? 皇太子妃にもなっていない女性に任せ、お前達は仕事をしていなかったという事か? どうなのだ」
……発言をする者はなく、皇帝は席を立った。
「今日の会議はこれで終わる。今日の議題については日を改め具体的な事を決める。ルロワ侯爵、話がある、一緒に来い」
その場の全員が立ち上がり、皇帝とルロワ侯爵が部屋を出て行くまで深く頭を下げた。
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