マルタン王国の魔女祭

カナリア55

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マルタン王国

思惑と現実の差

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 翌日。
 早いうちから、ガルシア帝国の皇太子とその婚約者が滞在する部屋に何着ものドレスが運び込まれた。

「戴冠式、結婚式に間に合うように、と国王陛下からご依頼いただきまして、すでに出来上がったドレスをお持ちしました。お気に召したドレスはすぐにお嬢様に合うよう直させていただきます」
「ありがとう。どれも素敵ね」

 そう言って選び始めたシャルロットだったが、本心はあまり乗り気ではない。

『暗い色だし、デザインも地味だわ。こんなのより、わたしが持ってきたドレスの方がずっと素敵なのに。それに、結婚式は白いドレスのはずじゃない? このドレスの寸法を元に、急いで作るつもりかしら。それとも、とりあえずお姉様と結婚はするつもりなのかしら。……まあ、急な事だし、そうかもしれないわね。それならそれでもいいわ。わたしがお願いすれば、フェリックス様もすぐにお姉様を排除してくれるでしょう、アレクシ様のように』

 そんな事を考えながら、シャルロットはできるだけ華やかに見えるドレスを数枚選んだ。
 
『気に入らないけど、今は我慢しなくちゃ。今後、最新流行のドレスも大きな宝石も、なんでも手に入るのだから。ところで……今頃アレクシ様は、帝国の為にお姉様を取り戻そうとしているのかしら。わたしの為にも頑張ってほしいわ。邪魔者は、早くいなくなった方がいいものね』



 シャルロットがドレスを選んでいる間、アレクシはフェリックスの招待を受けていた。
 大きく豪華な客室で、護衛はいるものの、テーブルを挟んで男二人だけで向かい合っているのはなんだか落ち着かない。
 挨拶しか交わしていないし、一人の女性の元婚約者と現婚約者、という関係だ。

『しかし、今フェリックス陛下はシャルロットの事で頭がいっぱいのはずだ。僕を呼んだのは、シャルロットを欲しいという相談だろう。うまく交渉して、エリスを返してもらうんだ。まあ、最悪、シャルロットを引き受けてもらえるだけでも有難いけれど……いや、それでは帝国の問題を解決できない。エリスにはどうしても、皇后になってもらわなければ!』

「アレクシ殿下、昨日は良く眠れただろうか。何か、不便な事はないか?」
「ええ、快適に過ごしています。お気遣い感謝します」
「そうか、それは良かった」
「…………」
「…………」

 沈黙になり、気まずい二人はお茶を啜り……、

「あの、フェリックス陛下、この度はありがとうございます。シャルロットに、ドレスを贈って下さり……」
「ああ、いや、礼には及ばない。で、その事で……ちょっと言いにくいのだが……」

 いよいよ、本題に入るようだ。
 アレクシは背筋を伸ばし、フェリックスの言葉を待った。

「アレクシ殿下は、婚約者殿が今回の式典で着る衣装を見ているか?」
「え? あ、いえ……」
「そうか……まあ、そうだよな……」

 何か、思った事と違うような感じがする。

『シャルロットを、好きになったと言うんじゃないのか?』

 何の話かと戸惑うアレクシに、フェリックスはすまなそうに言った。

「いや、余計なお世話かとも思ったのだが……」
「……?」
「婚約者殿のドレス、胸を出し過ぎじゃないか?」
「は?」
「昨日はちょっとした歓迎の夜会だったから、あまり気にしなくていいと言えばいいんだが、それでも、ちょっとなぁ……。帝国では個人の自由なのだろうが、マルタンでは、未婚の女性はあまり胸を露わにしないドレスを着るのが一般的なんだ。婚約者殿が持ってきた式典用のドレスはわからないんだよな?」
「ええ……それらの事は彼女に任せていて……」
「失礼だが、彼女の場合はちゃんと確認した方がいい。それに、各国の風習等に詳しい専門家を助言者として付けるべきだ」

 マルタン王国への訪問が決まって、マルタンの行儀作法にくわしい教師を手配はした。
 しかし『あれもダメ、これもダメと言ってばかりで煩い』と、シャルロットはあまり会わなかったようだ。
『いつもの事』と諦め、諌める事なく放っておいたのが、こんな結果になるとは!

「婚約者の振る舞いは、アレクシ殿下の評価にもつながる。もしも式典にああいう格好で出席したら、笑い者に……というか、軽蔑されるだろう。だから、もし婚約者殿が式典に相応しくないドレスしか用意していない場合は、是非、私の贈ったドレスを着るようにさせてほしいと思って貴方を呼んだのだ。エリスも心配していて『自分が妹に伝える』と言ったんだが、あの女、んっ、んん、失礼、婚約者殿は、エリスの助言は聞かないだろうと思ってな。昨日テラスで話したとき、エリスに散々叱られて怖かった、とか言っていたけれど、どれだけ叱られても真摯に受け止めなかったから、今でもああいう感じなんだろうし……っと、いや、その……失礼」

 アレクシが一点を見つめたまま固まっているので、『言い過ぎた!』とフェリックスは慌てて口を噤んだが、

『話が、違うじゃないか!』

 フェリックスはもう、それどころじゃなかった。
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