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どうしてこうなった

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『……えーと……どうしてこんな事になったんだっけ?』

 ホテルの大きなベッドに腰かけた笹原寧々ササハラネネは、頭を抱えて自分に問うた。
 シャワールームからはザーザーと水音が聞こえていて、それは、同期の本郷ホンゴウが立てている音だ。

『ううう……本郷君と、ホテルに入っちゃうなんて……』

 少し前まで、二人は一緒に酒を飲んでいた。

『今週も忙しくて大変だったから……明日休みだし、美味しい物でも食べようって事になって、シオンも一緒に……』

 今、一緒に仕事をしている後輩の水森紫音ミズモリシオンも一緒に、三人で食事をした。
 そして食事後、紫音は帰ってしまい、本郷と二人だけで行きつけのバーに行って酒を飲んだ。

「水森さんって、彼氏いたんだな」
「そうなのよ、つい最近できたんだって。ああ……この間まで一緒に遅くまで飲んで、愚痴言って、夢を語り合っていたのに……ううっ」
「さっき迎えにきた背ぇ高いヤツが彼氏だろ? 随分若そうだったよな」
「ハタチの大学生だって~。いいなぁ……カッコ良かったし、優しそうだし。聞いたっ? あの子、シオンの事『しーちゃん』って呼んでたわ! かわいい~!」

 悶えるようにそう言う寧々に、本郷は冷めた目線を向ける。

「あんな若造、可愛いだけ、だろ。まあ、顔は良かったけど? そういや、さっき何もらったの?」
「ああ、シャンパン。シオンに『彼のお父さんからもらったシャンパンがたくさんあるんですけど、飲みますか?』って聞かれて。欲しいって言ったら、今日彼氏がもって来てくれたの」
「へー、見たい見たい」

 そう本郷が言うので、寧々は紙袋からシャンパンを出してみた。

「これ」
「んー? え? これってさ、けっこう高いヤツじゃない?」
「……あらぁ……ホントだ…… ねえ、これ、有名なヤツだよね?」

 仲の良いバーテンダーに尋ねると『そうですねー』と返事が返ってきた。

「うちでも置いてますよ。これです」

 バーテンダーが指さしたメニュー表の値段を見て、二人はちょっとたじろいでしまう。

「これは、なかなか……」
「特別な時、用だな……」
「勿論これは店で出してる値段ですから、普通に買えばもっと安いですけどね。まあ、いい品であることは確かですね」
「おお……すごい、お金持ちの家の子かな……いいなぁシオン」
「いや、でも親が金持ちでも、そいつの実力じゃないだろ」
「まあそうだけど、あのシオンが好きになったんだから、いい子だと思うわー」

 寧々は大切そうにシャンパンをしまいながら言った。

「最初に付き合った人があまり良くない男だったから、シオンは男性に対して警戒心が凄かったのよ。それなのに付き合う事にしたんだものね。……ああ、わたしのシオンが……でも、しょうがない……寂しいけど、シオンの幸せの為だものね……いいなー、素敵だったなぁ」
「あーもー、なんだよもー。笹原って年下好きなわけ?」

 グラスに半分ほど残っていたジントニックを一気に飲み干し、新しい物を注文しながら本郷は言った。

「俺達より10歳以上下のガキだろう? もしかしたら、同じ干支だぜ?」
「自分の彼氏にしたいとは思ってないわよ。ただ、羨ましいのっ! シオンが本当に幸せそうで……こう、表情がキラッキラしてるのよ。わたしとは全然違って」
「なんだよ、じゃあ笹原も彼氏つくればいいだろう?」

 そう言われ、寧々の表情が明らかに曇る。

「……いや、わたしはもう、諦めた……」
「ほら、毎回そう。お前、会社入った時の『彼氏はまだいい』から始まって、今じゃあ『結婚しない』になっちゃってるけど、寂しくて羨ましいんなら、これから彼氏つくって結婚したらいいじゃんか」

 本郷の言葉に、寧々は『でも』と、歯切れ悪く言った。

「……でも……もう遅いし……」
「遅くなんかねーよ。今どき30代40代で結婚なんて当たり前だって。俺だってまだだし」
「……でもぉ……」
「なんなら、結婚にこだわんなくてもいいだろうし。パートナーって考え方も有りじゃない? お互いべったりじゃなくて、適度な距離をとりながらっていうのも有りだと思うぜ? 俺は」
「けど……」
「もう大人なんだし、気軽に始めてみるのもいいんじゃない?」
「…………じゃないもん……」
「ん? 何だって?」

 ボソボソと小さな声で何か言ったが聞き取れず、本郷は聞き返した。

「聞こえなかった、もう一回」
「……だからっ! わたしは全然大人じゃないのよ!」
 
 小さい声のまま、しかし、本郷の耳元でハッキリと言う。

「男の人と、付き合った事ないの! これまで一度も! もし今死んだら、妖精になれるのっ!」
「よ、妖精?」
「そう! 処女のまま死んだら妖精になるのよっ!」
「は……? いや、よくわからんが、妖精ってのは……でも、笹原が言いたいことはわかった、うん……そうか……うん……」

 本郷は戸惑いながら、目の前に置かれた新しいジントニックを、一気に飲み干した。

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