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第二章

子供達

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『やだ、わたし、子供達の所に来ちゃったんだ』
 慌てて静かな場所に移動しようとしたが、ミッシェルに抱きかかえられてしまった。
「アンジェちゃん、リリー抱っこする?」
「……虫とか、くわえていない?」
「うん、大丈夫だよ。」
 ミッシェルに確認してから、アンジェレッタは手を伸ばし、リリーを受け取った。
「……ふわふわでやわらかくてあったかいわ。こんなにかわいいのに、虫とかトカゲとかとってくるなんて……」
「すごいじゃないか、狩りするなんて! えらいなー、お前」
 そう言って、頭を撫でるアレックス。
 ミッシェルよりも三歳年上のアレックスは、赤い髪以外は父親のデューイとそっくりの、気さくな子供だった。
 三人は、芝生の上に敷かれた布の上に、輪になって座った。
「なあ、ミッシェルはリュカ様に剣を教えてもらっているのか?」
「ううん、いつもはニックに」
「ニックって、ミッシェルの剣の先生か? 俺も本当は父上に教えてもらいたいんだけど、お忙しいから、いつもは先生に教えてもらってる。ミッシェルは将来何になりたいんだ?」
「僕は父上と同じ、近衛騎士団になる! アレクお兄ちゃんは?」
「俺は近衛騎士団もいいけど、冒険家にもなりたいんだよなー。いろんな国に行ってみたいんだ」
「へー、すごいねー」
「すごくなんかないわよ!」 
 リリーを撫でながら、アンジェレッタが横やりを入れる。
「アレクお兄様は侯爵家の跡取りなんだから、冒険家なんてダメでしょ!」 
「お前がお婿さんもらって跡を継げばいいんだよ」
「じゃあ、リュカ様と結婚するわ、わたくし」
「えっ? リュカ様!? 無理無理、お前みたいな子供、相手にしてもらえるわけないだろう? そうだ、ミッシェルがいいよ。年も一緒だし、俺、ミッシェルが弟だとうれしいな!」
「イヤよ! リュカ様にあまり似てないし、背だってわたくしより低いのよ!」
「そうか? まだ子供だからだよ。大人になったらきっとさあ。……なあ、ミッシェルはアンジェと結婚したいか?」
「え、僕……」
 ツン、としているアンジェレッタを見て、ミッシェルはもじもじしていたが、なにやらアレックスの耳元で囁いた。そしてそれを聞いたアレックスは、愉快そうに笑い出す。
「あっは! そりゃそうだ!」
「なんですの!?」
 あまり良い事は言われなかった雰囲気を感じ取り、アンジェレッタが大きな声で尋ねる。
「ん、なんでも……」
「ミッシェルはさぁ、もっと優しい子の方がいいってさ!」
「あ、ダメだよ言っちゃ!」
 ミッシェルは慌ててアレックスの口を押えたが、時既に遅し。
「アンジェはキツイからな! もっとおしとやかにしないと、誰も結婚してくれないぜ!」
『あちゃー、本当の事だけど……というか、本当の事だからもう少しうまく言わないと。……あたた、尻尾掴まないで~』
 ギュッと尻尾を掴まれ、見上げたアンジェレッタは、真っ赤な顔をしてプルプル震えている。
『あーあー、かなり怒ってる。いるのよね、自分は散々嫌だと言ってたのに、自分が嫌だと言われると怒る人。アンジェちゃんはまだ子供だし、しかたないっか。あー痛いって!』
 尻尾を掴む力がどんどん強くなるので、リリーは体をねじってアンジェレッタの手を逃れた。
『あー痛かった。もおっ、毛が乱れちゃったじゃない』
 せっせとリリーが毛づくろいをしている横で、スクッとアンジェレッタが立ち上がる。
「わたくしっ、失礼しますわ!」
「あ、アンジェちゃん……」
「ほっとけよ、ミッシェル。アンジェはいつも、すーぐヘソを曲げるんだ」
 その言葉で、アンジェレッタはさらに気分を害したらしい。
「お兄様なんて大っっ嫌い!!」
 そう言って、どんどん屋敷から遠ざかって行き、建物の陰に入って見えなくなってしまった。
「おい! そっち行くなよ! 母上達の方に戻れって! あーもお!」
 面倒臭そうに立ち上がったアレックスに、『私がお呼びして参ります』と、近くにいた護衛の男がアンジェレッタの後を追って走って行く。
「あっちは森に繋がってるんだ。アンジェは一人で行っちゃダメなのに」
「あの……僕、あやまってくるよ」
 ミッシェルが、すまなそうに言う。
「僕のせいで、アンジェちゃんを怒らせちゃったから……」
「ミッシェルのせいじゃないさ! 元はアンジェが失礼なこと言ったんだし、それに俺がからかったから」
 そんな事を話していると、『どうしたんだ?』と、デューイが大きな声で尋ねた。
「あー、俺がからかったら怒っちゃって」
「まーたかー。おい、もう一人くらい、様子を見に行ってくれ。それとアレク! お前はちょっと来い!」
「……ちぇっ、説教だ。ちょっと行ってくる。ミッシェルは気にする事ないからな」
 アレックスはミッシェルにそう言ってから、渋々、父親の元に向かった。
 それを、心配そうに見送ったミッシェルだったが、
「……やっぱり僕も行って、あやまらなきゃ! あの! 僕も連れてってください!」
 後を追う二人目の護衛に声をかけ、一緒に歩き出した。
『あら、ミッシェル君、偉いわ。じゃあわたしも、仲直りのお手伝いしなきゃね』
 リリーは辺りを走りまわり、かわいい青い花を見つけ、口に咥えた。
『今度は虫じゃなく、お花をプレゼントしてあげよう。ミッシェル君に渡させた方がより効果的ね。ミッシェル君に伝わるといいなー』
 そんな事を考えながら、リリーは皆の後を追った。

『どこまで行ったのかな? この建物のところを曲がったんだよね。あ、あんな所まで行ってる』
 森の入り口付近に、人影が見えた。
『結構遠くまで行ってる。お花探すのに時間かかってたみたいね。早く行かなきゃ』
 ピョンピョン跳ねるように走り、人影に近寄って行ったリリーだったが。
『……なに?』
 その場の異常な光景に、咥えていた花を落としてしまった。
『どういう、事?』
 リリーが見たのは、剣で腹部を刺された護衛の姿だった。
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