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14. 旅人と初の迷宮

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 最悪のファーストコンタクトを経た私達は険悪ムードはそのままに迷宮探索チームの騎士達と合流した。

 目的地が同じだから一緒に向かってたけど、あまりにも距離が開いてたからなぁ。あれを一緒にって言うのは何か違う気がする。

 ロイド王子から現地集合だと知らされていたので迷宮の場所は事前に情報を入手してる。
 ただ、直前になって飛び入り参加した私達のせいで当初の予定が崩れてしまい、戦力の確認やら何やらのために一度騎士団の詰所に来てくれとのお達しがあり、皆でそこへ向かって顔合わせした。

 騎士の面々は冒険者と旅人の中に王族が紛れてることに最初は緊張してた様子だったけどロイド王子がすごいフランクに話しかけてるとそれも解れたようで、途中からは普通に接してた。
 ただ、私達と冒険者達が不仲な様子なのを見て直ぐ様冒険者達に呆れと非難混じりの眼差しを向けてたのは意外だったな。
 もしやあの態度デフォルトなの?特別私達に突っ掛かってるんじゃなくて?うわぁ超迷惑物件やん。

 今回の迷宮探索では冒険者と騎士のみならず旅人と王子サマとその護衛も参加するため、各々の戦闘スタイルを見てから陣形を決めていった。
 その際、的を吹っ飛ばしたロイド王子と剣で的を微塵切りにした私を騎士団の面々が唖然とした顔で凝視するという事態に陥ったが概ね滞りなく進んだ。
 迷宮探索メンバー以外にも凝視されてたからちょっとびっくり。
 え?冒険者?なんでか嫉妬にまみれた目で睨んでたわ。

「エリーの卓越した実力に嫉妬してるんだよ」

 ふぅん。どうでもいいな。

 一通り予定や戦略を練った後、ようやく迷宮への道をぞろぞろと歩いて向かっていたのだが……

 ぐぅぅぅぅ~

 腹減った。

 冒険者共に急かされてたせいで飯食う時間なかったんだよ。おかげで私の機嫌は絶賛低下中だ。

 くそう……待ってろよ迷宮の魔物共。
 私が一匹残らず美味しく頂いてやるからな!

「あの、殿下。ケラー殿のご機嫌がよろしくないようなのですが……」

「あー大丈夫。食欲旺盛なだけだから。ところで迷宮ってどんなとこ?今まで行ったことないし、興味もなかったから知らなくてさぁ」

「でははじめに迷宮について説明しますね。知らないまま危険な場所にお連れする訳にはいきませんから」

 近くにいた騎士が迷宮とは何たるかを語りだした。

 まず、一般の知識として広まっている迷宮とは、およそ五百年前に隕石が落ちてできた謎の空間で、とにかく中に魔物が沢山いる。それだけ。
 どんな魔物がいるとか、どういう仕組みなのかとかは一切分かってない。

 仕組み云々についてはいまだ誰も全ては解明できていないらしい。というのも、迷宮を攻略できた者が少なすぎるせい。
 生きてる人の中で迷宮を攻略できた者は世界中どこを探しても存在しない。
 過去の文献から迷宮の最奥にはXランク相当のかなりヤバイ魔物がいると断定しているが、真実を知る者はいない。

 迷宮内は幾つもの階層に分かれており、階層ごとに魔物の強さが異なる。
 そして不思議なことに外の魔物が交配して子を成すのに対し、迷宮の魔物はそういう行為一切なしに勝手に数を増やしていくとのこと。何それ意味分かんない。分裂でもしてんの?
 そんな訳だからこうして定期的に迷宮探索して魔物をある程度減らしておかないと魔物が迷宮から大量に飛び出して大変なことになるのだとか。

 迷宮の魔物については口で説明するより自分の目で見た方が早いと言われた。言葉で説明しても理解しきれないだろうからと。
 その台詞からもう外の魔物と全然違うのがわかるよね。

 そして私にとっちゃここからが本命。
 迷宮内で採取できる物は基本外にはない貴重品ばかりで、売るとしたら高く売れるし調合したらかなり効果の高いものが作れるし、魔物の素材なんかは武器や防具に使える。
 迷宮で採取した物はどんな使い道でも需要があるってことだ。

 魔物の素材でも迷宮の素材でも知り合いに渡す予定なのでできるだけ沢山持ち帰ろう。
 迷宮で取れた素材なんてアイツの研究にはもってこいだろうしな。大いに活用してほしい。そして少しでいいから分けてほしい。

 ちなみに私達が向かってるのはフォルス第3迷宮。第1と第2は騎士団の他の班が調査してて、毎回第3だけ人手が足りてなくて募集を呼び掛けてるんだとか。番号は国内で見つかった順につけられたらしい。
 フォルス帝国内の迷宮到達最高記録は27階層。深いのか浅いのかよく分からん。

 腹の虫を堪えながらそれらの説明を聞き終えたところで前方から鼻で笑われた。

「はっ!そんな常識も知らねぇのかよ」

「お坊っちゃんは違ぇなぁ」

「俺らなんて両手の指じゃ数えきれないくらい迷宮行ってんのにな?」

 冒険者三人組だった。

 自慢気に話してるけど、迷宮探索ってそんなすごいことなの?ウジャウジャいる魔物をバッタバッタ倒してハイ終わりーってだけじゃないの?

 頭の上に?が浮かぶ私と不快感を隠さない騎士達をよそに冒険者組はさっさと歩いていってしまった。

 民家が疎らになってきた通りのド真ん中を偉そうにふんぞり返って歩く三人。
 途中でぶつかった人に対し「どこ見てやがんだああ!?」と恐喝まがいの暴言を吐き捨てるそいつらに集まる視線。どう見ても良い感情はこもってない。

「はぁ……またあいつらか」

「ここを通るってことは迷宮かしら?騎士の方々もいるし」

「他の道にしてくれよ……」

「無理だろ。ここが近道だし」

「Bランクだからって威張りやがって」

 遅れて同じところを通る私達の耳にぼそぼそ文句を言う民の声がちくりと刺さる。

「評判良くないねぇ。報告にあった通り……いや、それ以上か?」

「改心する気ゼロ。ラルフ王子殿下が粛清対象としたのも頷けます」

 ロイド王子と爽快少年の小声に耳を傾けた。

 粛清ね。

 皆の反応を見る限り、やつらの横柄な態度は随分前から際立っていたようだ。爽快少年の口振りから更生させようとしたがその努力も水の泡となった訳だな。
 それであの強面少年王子が鉄拳制裁を下す判断をしたと。けど少年王子の実力じゃ冒険者組に勝てっこないから駒を使ったと。
 さしずめ私とロイド王子は執行人ってとこか。

 迷宮探索に手慣れてる冒険者組といえど、チームワークがグダグダだったら戦力ダウンするもんな。
 その隙を突いて事故を起こせと。そういうことかな。
 暗殺とか他にもやりようはあるのにわざわざこんな回りくどいことするってことは魔物のせいにするつもりだな?なら自ら動くのは得策じゃない。うまく誘導しないとな。

「今の会話だけでそこまで深読みしちゃうのかー……エリーの頭の回転の速さナメてたよ……」

 私もあの不届き者共には少々苛立ってるんだ。
 やつらが急かさなきゃ私は今ごろ空腹に苛まれることもなかったのに!
 食い物の恨みは恐ろしいんだぞ。それをとくと味わうがいい小悪党め!

 内心冒険者組への恨みつらみをぶちまけていると、いつの間にか町を通りすぎて洞窟みたいな場所まで来ていた。
 騎士達が書類を片手に話し合い、冒険者組は装備の確認をしている。どうやら目的地に到着したようだ。

 巨大な岩山の中央に入り口があるそれを見つめる。
 これが迷宮か……

「普通の洞窟にしか見えないねぇ。とても魔物がいっぱいいるようには見えないや」

 ロイド王子が私の思ったことを代弁してくれた。

「最初は誰もがそう言うんです。それで油断して帰らぬ人となった者も多くいるので、気を引き締めて下さい」

「せいぜい盾くらいにはなれよな」

 話し合いを終えた騎士の一人に釘を刺され、冒険者組のリーダーには鼻で笑われた。
 死ぬの確定してる言い方すんな!いちいち人の神経逆撫でしやがって!

「エリーの方がずっと強いんだけどねぇ。彼らも痛感したはずなのに、なんであそこまで強気になれるかな?」

「騎士の皆さんも呆れてものが言えない状態ですよ。もう今すぐ始末しても良いんじゃないですか?精神衛生上その方がずっといいですよ」

「駄目だよリック。人為的な傷を残すと後で調べられちゃうから。誰かさんが派手に事故を起こしてくれるのを気長に待とう」

「事故る前に俺がキレそうなんですけど」

 こっちはこっちで不穏な会話してやがるし!

 爽快少年の目が完全に据わってる!爽やかどこいった!?

「ではこれより迷宮に入ります。陣形を組んで下さい」

 今回の迷宮探索で指揮官を務める騎士の鶴の一声で各自動き出した。

 おお……!このカオスな空気をぶった斬るなんて……!
 勇者だ。こいつのことは勇者騎士と呼ぼう。


 勇者騎士の指示により陣形を組んだ私達は、不穏な空気を若干残したまま未知の魔物が蔓延る危険地帯へと踏み出した。


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