無口な彼女は最強言霊使いだった

深園 彩月

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21. 旅人と迷宮主

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 フォルス第3迷宮100階層。

 目の前には岩肌が剥き出しの地下迷宮の中には似つかわしくない重厚な扉。

「まさかここまで辿り着けるとは……」

 勇者騎士が感慨深げに溢す。

「これもひとえにケラー殿、それに殿下のおかげです。ありがとうございます」

 記録係の騎士が続けざまに言う。

「おいおいお前ら、まだこの部屋の主が残ってんだぞ?そういう台詞は完全攻略してからにしろよなー」

 私の伝えたいことを代弁してくれるロイド王子。
 今やロイド王子の言葉か私の言葉を代弁してるかが手に取るように分かる面々が私に感動的な眼差しを送る。私への恐怖心は今だけ鳴りを潜めているらしい。

 迷宮に潜って早数日。
 私達はフォルス第3迷宮の最深部まで到達していた。

 27階層までしか記録に残っておらず、未知の場所を手探りに探索してたくせに何故ここが最深部だと分かったのかって?
 んなもん明らかに不自然な場所にあるこのクソ重たそうな扉が何よりの証拠でしょうが!

 おーおー皆して緊張しちゃって。いつも通りなの私だけじゃん。いつも通りと見せかけてロイド王子とリックまでどこか緊張を滲ませた雰囲気だし。
 爽やかくんから名前呼びになったのは彼から強制された結果である。どうもあだ名で呼ばれるのが気にくわないらしい。ぴったりなネーミングなのに。

「どうする?もう罠ないんでしょ?それに剣も通用しないだろうし」

 ロイド王子が言う通り、70階層を越えた辺りで罠を全て使い果たしてしまった。
 おまけに75階層を越えたところで何をどう頑張っても、どれだけ工夫を凝らしても、剣では対処できなくなった。
 それまでにも魔物の硬さが半端なくて剣で斬ることはできなくなってたんだけど、魔物の攻撃をいなしたり軌道を逸らしたりすることはできてたんだ。でもそれすらもできなくなって能力で倒すのが常と化した。

 能力頼りになるのは気が進まないけど、ここまで来たら意地でも最後まで攻略したい。
 ラスボスちゃんだろうが何だろうが私の能力の前では無力だ。大丈夫大丈夫。すぐに片付くだろ。

 てな訳でたのもー!

 ラスボスと対峙する覚悟がまだできてない面々を置いてきぼりにして突入した。

「道場破りか!」

 突っ込みながら後に続くロイド王子とリック。その後に慌てて騎士達も入ってきた。

 中はとても明るい空間だった。
 薄暗い視界に慣れきっていた目に光の雨が降り注ぎ、しばし目を細める。

 うっわ、広っ!フォルス帝国より大きい国の謁見の間くらいの広さだぞ。おまけに地下へと続く迷宮の最下層なのに天井が見えないくらい遠い。謎空間かよ。

 少しの間そうして辺りを観察していると、背後からぎぃぃぃっと軋む音が。

 ――――――……バタン!!

 突如として閉まる入り口の扉。

 誰も扉に触れてはいない。扉がひとりでに閉まったのだ。

「えー、いきなりホラー展開?」

「ロイド王子、その類いではないと思いますよ。おそらく、迷宮主を倒さないと出られない仕組みなのでしょう」

「ま、そう考えるのが妥当か」

 めんどくせー!
 さっさと倒してさっさと地上に帰ろう。と、決意を新たにしたはいいが……私達の足音以外何も聞こえない。不自然なほどに。

 広い空間を警戒しながら見渡すも、何もいない。

 え、ラスボス倒さないと出られないのにラスボス本人がいないなんてことあるの?私ら迷宮最深部に閉じ込められたパターン?
 いやいやそんなはずはない。必ずどこかにいるはずだ。
 もしくはラスボス登場まで何かしらの仕掛けを解かないと駄目だとかそういう……

「………っ!!」

 考えてる最中突如襲い掛かってくる殺気。
 咄嗟に皆を背後に庇う。

「なんて濃い殺気……っ」

「いったいどこから……」

 殺意の塊を一身に浴びて怖じ気づいて戸惑う彼らだが、私の視線の先にいるものに気付いて声を失った。

 それは、上からだった。

 濃密な殺気を余すことなく私達にぶつける存在は高く続く壁に張り付いていた。

 大国の謁見の間と同等の広さを誇るこの部屋を軽く埋め尽くすほどの巨体。
 その身体は蛇のような鱗で覆われているが蛇ではない。背から翼が生えているので一瞬鳥類かと思ったがそれとも違う。
 鋭い眼光をこちらに寄越し、どこか探るような目でじろりと見てくる。未知の生命体が自らの領域に土足で踏み込んできた、そんな表情をして。

 全身青白い鱗で覆われた、翼を持つ巨大な魔物。
 物語でしか見たことのない圧倒的な存在。

「まさか……ドラゴン………?」

 誰かが呆然と呟く。

 その呟きに応えるように、巨大な魔物が咆哮した。

「グオオオオォォオォォォォォ!!!」

 鼓膜を突き破るが如く爆発的な音量で威嚇し、私達を敵と認識した青白いドラゴンが大きな翼をはためかせて襲い掛かってきた。

「全員下がれ!!」

 勇者騎士の指示に従うも、予想をはるかに上回る速度で急接近するドラゴンの猛攻は回避できそうにない。

 皆の前に躍り出て口を覆う黒い布を外す。

「結界」

 小さく言葉を紡いだ瞬間、円形の結界が現れて私達を覆う。
 眼前まで迫ったドラゴンが鋭い鉤爪で結界を壊そうとするがバチィンっと弾かれた。

「おお……!」

「ドラゴンの攻撃を防いだぞ!」

 回避不可能だと思われたドラゴンの鉤爪攻撃を防いだことで歓声が上がる。

「はは……ほんっと、なんでもアリだよねぇ君の能力……」

「えっ?これもエリーさんの能力!?」

 乾いた笑いを溢すロイド王子とこの結界が私の能力と知って驚くリック。能力は1人ひとつが常識だから驚いたのだろう。
 私の能力はちょっとイカれてるっつーか万能すぎておかしいっつーか、遠い異国で言うところのチートってやつだからな。
 制御不能なチート能力なんてただの暴走機関だけどね!もっとまともな能力にしてほしかったよね!

「さて、どうやって倒す?」

 気を取り直して問いかけるロイド王子をチラッと見るも、すぐに前へと視線を移す。

「……エリー?」

 怪訝そうに私の名を呟くロイド王子をよそに、私だけ結界からすり抜けた。

「ちょっ!?」

「エリーさんっ!?」

 私と同じように結界から出ようとするロイド王子とリックだが結界に阻まれて抜け出せない。
 自由に出入りできるのは術者だけ。そう考えて展開したからな。
 全く、攻撃系の言葉だと制御できないくせに守りに徹する言葉だと自分の思う通りになるんだから。この差はなんなのかね?

「エリー!どういうこと!?まさか1人で戦う気!?」

 そのまさかでーす。
 ドラゴンだろうが関係ないね。私の能力なら倒せるし。

「ずるい!俺もドラゴンと戦いたい!じゃなくて、流石に危険だよ!」

 脳筋王子よ。本音が駄々もれだぞ。

 ロイド王子とリックが結界を壊して一緒に戦おうとするが、大の大人の男二人が本気の腕力でぶち破ろうとしてもうんともすんともいわない。ロイド王子なんて腕力強化のガントレットばっちり装備してるのにヒビひとつ入らない。
 私の言霊が誰にも破られないことが奇しくも証明されただけに終わった。

 相手は物語にしか出てこないはずのドラゴンだ。
 物語にあるような能力を有しているなら、近接戦のロイド王子は不利だろう。
 下手に戦わせて死なれても後味悪いし、なら私だけで充分だ。

「グルルル……ガァァ!!」

 攻撃を防がれたドラゴンは1人だけ結界から出た私を射殺せそうなほどの鋭い眼光で睨み付ける。これまでの魔物と違い、相当賢い魔物のようで、私の仕業だと理解している目だ。完全にターゲットにされたな。

 再びドラゴンの猛攻が唸りを上げる。

 翼を大きく広げて器用に扇ぐと強風が吹き荒れた。
 自身の黒い髪と身に纏う黒いマントが風に煽られて躍る。両足に力を込めてどうにか踏ん張った。
 吹っ飛ばされるどころか平然とその場に留まっている私にただでさえ鋭い眼をさらに険しくさせ、痺れを切らしたらしく大口を開けて私を食らおうとする。
 体勢を低くして地を蹴り、ドラゴンの筋肉質な両足の間を滑り込む。すると大きな影が上から降ってきた。尻尾か!
 ドラゴンの尻尾が私を叩き潰そうとする。ギリギリ横に避けるとすぐそばで地面に尻尾がめり込んだ。
 その尻尾を踏み台にして一度上空へと逃げる。

 思った以上に賢い戦い方をしやがる。こいつに近付かないと能力が使えないのに、攻撃が速くて回避するので手一杯だ。
 これじゃ近付けない……!

「エリー!結界を解いて!俺が囮になるから!」

「駄目です王子!囮なら俺がっ」

 ロイド王子とリックがここから出せと喚いているのが聞こえてきたが、冷静に考えてあの二人がドラゴンの攻撃をかわすことはできないだろう。さっきも回避できなかったし。
 受け止めるなんて論外だ。運が悪けりゃ即死する。
 誰かが囮になる、それは即ち死を意味するのと同じ。
 そんなもん私が許す訳ないだろうが!

 高すぎて見えない天井に伸びる壁を何度か蹴り上げて上へ上へと移動する。
 とにかく皆から引き離さないと。結界があるから大丈夫といっても、それはドラゴンの攻撃だけの話。私の能力まで防げるとは思えない。
 あいつらの近くで即死の言葉を唱えて万が一があったらと思うと胸くそ悪いし、できるだけ声が聞こえない場所に行きたい。

 さぁ飛べドラゴン!
 お前のテリトリーで戦うのは気が引けるが、私の能力の餌食になるのは変わらないんだ。最期くらい自由に飛んでみせろ!

 しかし私の思いとは裏腹にドラゴンは動かない。
 鋭い眼を細めて苛立たしげに私を見上げる。

 私はドラゴンみたく飛べないので当然動かないと落下する。
 上へ移動し続ける私は必然的に地面からどんどん離れていく。

 一向に動く様子のないドラゴンに焦りはじめたそのとき、事態は急展開を迎える。

「グオオオオオオオオッッ」

 ドラゴンの咆哮がこの広い空間に木霊した直後、ドラゴンの青白い鱗が光り輝いた。
 その光は不思議な力を宿したような幻想的な色彩で僅かに見惚れそうになるが、それより早くこの空間全体の温度がぐんっと下がった。
 何が起こったのかを理解するよりも先に辺りが吹雪いた。

 ドラゴンの周りだけでなく私のいるところまで吹雪いており、下の様子が分からなくなる。完全にドラゴンを見失った。
 吹雪のせいで上に駆け上がることもできず落下してゆく私。

 神経を最大限に研ぎ澄ませてドラゴンの居場所を探すも、視界は最悪だし、吹きすさぶ極寒の風で耳がイカれてる。くそっ、どこだ!?

 落下中、どうにか目をかっ広げて視界を確保し、ようやく少し目が慣れてきたと安堵しつつ再び辺りを見渡せば、大きな影が私を覆い被していて。

 吹雪に紛れて飛び上がったドラゴンの鉤爪が、私の背中を切り裂いた。


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