最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月

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108. 春が来て

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 ほんのり温かい風が舞う。
 ちらついていた雪も溶け、季節は春へと移ろいでいた。

 季節の変化と共に日々の生活にも変化が訪れ、エスター様は音楽家として再び旅に出た。表向きは視察だが。
 「ヒヨコちゃん、ルーちゃんのことよろしくねぇ~」と手を振りながら去っていく彼をルファウスは姿が見えなくなるまでずっと見ていた。

 それとエスター様が旅に出る少し前に冬眠していた第3王子が目を覚ました。
 名前はネロ様。王族の証である黒い耳と尻尾の熊獣人だ。
 父王に促されてさっさと挨拶したあとは研究室に引きこもっている。自分と同類だと知って妙な親近感が沸いた。

 そして変化が訪れたのは王族だけではなく。

「弟妹共々お世話になりました」

 二度目の謁見の間にて、ちみっこいヒヨコの身体で両陛下と宰相にお辞儀をする俺。後ろで若干縦長になった中雛のレルム達もそれに倣う。ブルーとセレーナも見よう見まねでぺこりと頭を下げた。

「フィード殿、おもてを上げてくれ。本来ならばこちらがこうべを垂れなければいけないのだから」

 国王がそう言って苦笑する。しかし染み付いた癖は直すのが難しい。俺も苦笑を返す。

「こちらこそ世話になったな。画期的な魔道具のおかげで色々と助かっている。これからどうするんだ?」

「陛下から頂いた土地で暮らそうかと。ただ、家族全員が住めるように改造しないといけないので、しばらくは素材集めも魔道具作りも研究もできませんね」

「申し訳ございませんフィード様。特殊な土地柄ゆえ、建築職人を向かわせることもできず……」

「魔の森が近いので仕方ないかと。それよりも、本当に良かったのですか?」

 心底申し訳なさそうな顔をするケイオス宰相に仕方ないと首を横に振り、ついっとレインに目線をやる。
 俺の意図に気付いたケイオス宰相が鋭い目元を和らげて朗らかに笑った。

「ええ。才能ある者は種族・身分・性別・年齢問わず援助するのが我が国の暗黙のルールですので」

 この春、俺達メルティアス家は国王から貰った土地に移り住む。しかしレインだけは別だった。

 レインは文官になるための勉強をし始めた。はじめは貰った土地で勉強するつもりだったらしいが、未来の優秀な文官候補ということで王宮に留まることになり、驚くことに宰相自ら教育を買って出たのだ。
 ケイオス宰相いわく独学で勉強させるよりも徹底的に仕込んだ方がレインのためになるから、と。

「それに、後継を育てるのは私の責務ですからな」

 待って。ケイオス宰相、お待ちになって。
 後継?今、後継って言った?ケイオス宰相の後継って、つまり、その、そういう……

 唖然としている俺を見て何を思ったのか「ご安心下さい。不埒な輩が出ても大切な弟君には指一本触れさせませんので」と宣った。
 違うそうじゃない。俺が心配してるのは城の警備じゃない。

 後ろをちらっと見ると、にこにこ笑みを絶やさない可愛い天使が。
 ……まぁ、レインが自分で決めたことなら何も言うまい。

 一緒に住まなくてもレインの部屋は作ると言ったら嬉しそうに抱き着いてお礼を言われた。見上げなければ顔が見えないくらいに成長した中雛の突進はなかなかキツイ。
 だが自分の帰る場所を作ってくれると知って全身で喜びを表してくれる可愛い弟のためなら踏ん張ってみせようじゃないか。

 その後、魔導師団長やリンさんなどお世話になった人皆に挨拶してから王宮を後にした俺達は、国王から貰った土地にやってきた。

「わぁ、雑草だらけー!」

「でも広ーい!」

「遊ぶのも日向ぼっこも快適そうにゃ~」

「掃除のしがいがありそうだな」

 ここは王都の東、魔の森へと通じる玄関街ユーヴァリウス、その手前に広がる広大な草原だった。

 この大草原から先は誰の領地でもない、いわば不可侵領域。ユーヴァリウスやその先の魔の森に入れるのは高位の冒険者だけ。それほどに、危険なのだ。
 魔の森はBランクからSランクの強い魔物がひしめく場所で、草原の方に流れてくることもしばしばある。護衛を雇っても圧倒的に命を落とす確率の方が高いので、建築職人を連れてくることもままならないのだ。というより、国が冒険者以外出禁にしている。

 そんな場所を一介の平民の住み処にしていいのかとも思ったが、万が一魔の森から高位冒険者でも太刀打ちできない魔物が流れたときに対処してほしいあちらさんの思惑と300匹を優に越える子供達が伸び伸び生活できるようにしたいこちらの切実な願いが合わさった結果この広大な土地を貰うことになった。

 他にも候補がいくつかあったが、他種族がひっそり根城にしてる大きな谷だったり狩人の里が点在する深い森だったりと問題の多い土地ばかりで、ここが一番マシだったのだ。

「セレーナとレルムは周辺の魔物の討伐を頼む」

「わーい!いっぱい遊んでくるのにゃ~」

「どっちが沢山倒せるか競争だー!」

「セルザとノヴァとブルーは草むしりを頼む」

「わかったよフィード兄」

「魔法でぱぱっとやっちゃおう!」

 ぽよよんっぽよよんっ

 各々が指示通りに動く中、魔道具製作で余った木の板を敷いてその上で紙に羽ペンを走らせる俺。
 黙って見ているルファウスに代わり、レストが質問してきた。

「フィードさんや。それまさか家の見取り図だったりすんの?にしてはちょいおかしくね?」

 紙に書かれているのは長方形の四角が12個とその四つ角にバツ印が48個、そのすぐ横に正方形の四角が8つ。家の内装ではないのは明らかだ。

「長方形のやつは家だ。人数が人数だから仲良しグループで数十匹ずつ分けようかと思ってな。その方が大乱闘もある程度防げるだろうし。このバツ印には魔石を埋める。常時発動型の結界を維持するのに必要だからな。で、この正方形は畑。とりあえず面積は8でいく。足りなかったら増やす方向で。ああ、魔物に荒らされないようにこっちにも結界張るか……」

「規模が一家庭のそれじゃねぇじゃんよー」

「食事は皆一緒がいいよな。でも食事時は一番喧嘩しやすいし……よし、もういっそ外にテーブルと椅子を並べよう。調理小屋を近くに作ればいいか。天気が悪くても利用できるように大型の特殊な結界を、もちろん常時発動型で。鍛練用に闘技場も作るか。魔法攻撃と物理攻撃両方を吸収する素材と術式を組み込めば周囲への被害は抑えられるし。あとはー……」

 傍らにいるルファウスとレストの存在を半ば忘れつつぶつぶつ呟きながら紙に書き足していく俺。

「ちょっとルファウス様?おたくのヒヨコちゃんはいったい何を目指してんの?つか、どこを目指してんの?」

「さぁ?別にいいんじゃないか、どこを目指しても」

「アンタ絶対面白がってますよねー?止めなくていいんですかい?陛下が頭抱えますよー」

「私はペットだ。決定権は飼い主にある」

「都合のいいときだけペット面するんじゃねーですよ」

 二人の会話は聞き流し、というより耳に入らず、黙々と紙にペンを走らせる。

 ノヴァの研究施設も作ってあげたいし、他に学者や職人になりたい子のために空き地も作っておこう。施設は追々だ。まだ生まれて1年ほどしか経ってないのに将来のことなんて分からないだろうからな。
 レルムを筆頭に王都組はまだ5才なのに将来見据えて仕事してんじゃねーかという突っ込みはスルーします。

 あと何よりも必要なのが俺の研究施設。
 たとえ家族でも邪魔されたくないので生活空間からかなり離れた場所に作る予定。各種素材置き場も欲しいな。収納魔法にしまった方が状態保存が楽だとわかっていても素材に囲まれたいと思ってしまうのは学者の性だろう。だって男のロマンだもん。
 大型の実験室と地下室も完備。危険な実験をすることもあるだろうからこれは必須。

 あとは……そうだ、治水工事も自分達でやらねばな。さすがに治水工事はやったことないから王都の専門業者に詳しく聞かないと。
 生活魔道具は自分と魔道具作りが得意な弟妹がやった方が高性能なものを作れるからそっちはいいとして、問題は家具だ。
 一応事前に王都の家具職人に注文してはいるのだが、まだ半分もできてない。冗談みたいな数だからな……
 貯金はあるので金銭的にはなんら問題はない。しかし王都の家具職人総出で製作しても3週間はかかる。

 少し前にアネスタに行って皆の希望を聞いていたのだが、向こうの屋敷ではひとつの部屋に何十匹も缶詰め状態だった反動なのか、ひとり一部屋にしてほしいと全員に頼まれたのだ。
 部屋数が人数分だけでも340。家具も相応の数。……家具職人には便利な魔道具をいくつか進呈しよう。

 土地改造計画の内容がある程度纏まったところで、ルファウスとレストを連れてアネスタに転移した。


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