いつの日か、また

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そしていつかの夜

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 それから、幾度か季節がめぐりました。
 子どもだったこびとは、おとなといっしょでなくても、もう道に迷うことはありません。迷子になった自分のこどもたちを探しに、陽の暮れかけた山を歩くことだって、できるようになりました。

「さあ、帰ろう。母さんが心配している」

 ようやく見つけたこどもたちの手を引いて、枯れ草を踏んでいたときです。

「あれ、なあに。きれいないろ」

 娘が、草はらを指さして言いました。

「……ああ、リンドウだな」

 秋も終わりを迎える山のなか、むらさき色のつぼみをつけた花が、ぽつりと立っています。

「晴れた日の昼間にしか、咲かない花だ。開いたところを見たいなら、つぎの晴れた日に、また来ようか」

 こびとはあのあと、何度も会いに行ったから、この花のことはよく知っていました。
 晴れた日にしか咲かないこと。本当は、夜はつぼんで休むこと。しおれて、枯れたときにも、つぼみのような姿をとること……。

 けれど、きょうまでずっと、わからないこともありました。

 どうしてあの夜、その花びらで雨を受け止めてくれたのか。
 どうしていのちを捨ててまで、会ったばかりのこびとのこどもを助けてくれたのか。

 ずっと考えているけれど、わからないままだったこびとの疑問は、冷えきったこどもたちの体を抱きしめたときの気持ちが、教えてくれたような気がします。

「とうちゃん、おそらのあのしろいの、なあに?」

 こびとが幼い手を握りながらリンドウの花を見つめていると、するりと手をはなした息子が、空を指さしました。娘もまねして、つないだこびとの手をほどいて指をさします。

「ああ、月だな」

 山は暗くなりかけていても、空にはまだ陽のあかりが残っています。すでにすがたをあらわした月は、色をなくした空で、しろいひっかき傷のように、そこにありました。

「陽が落ちてしまえば、光りだす。夜があければまたしろっぽくなって……」

 月を見あげたまま話していたこびとは、冷たさを感じました。手のひらにしみるこの冷たさは、夜の風が吹き抜けたからでしょうか。

「……しろっぽくなって、氷みたいに、消えてしまうよ」

 こびとが冷たくなった指さきをにぎりしめると、空っぽの手のひらがしくしくと痛みました。

 花びらを差し伸べてくれた気持ちには近づけたように思いますが、どうしてあのとき、叶わぬ約束の証に、消えてしまうものを持たせたのか。
 それは、こびとにはまだわからないままです。

 ほんとうは、もう会いたくないと思っていたのか。花を死なせたことを恨んでいたのか。あの日会ったことを後悔していたのか。

 確かめようのない問いがこびとの胸の片すみにこびりつき、とれません。
 溶けてしまった月のかけらがあの日からずっと、こびとの身を凍えさせているような気さえ、してきます。

「きえたら、どこにいっちゃうの?」

 幼い息子の無邪気な問いに、こびとは胸まで冷たさが這いのぼるように感じて、答えられませんでした。
 けれど、同じくらい無邪気な娘のこえが、それをあかるく笑い飛ばします。

「おそらにかえるんだよ。おつきさまは、きえてなくなるんじゃなくて、おそらにかえるだけだから、またもどってくるよ。ね?」

 こえと同時に、そえられたちいさな手のぬくもりが、こびとの胸にも宿ったようでした。

「……そう、だな」

 月のかけらは空に帰っただけ。見えないだけで、やくそくまで消えてしまったわけではありません。

「消えたようにみえるだけ、無くなったわけじゃない。空に帰っただけ。また、いつかきっと、巡る……」

 こびとのつぶやきに、息子がにっこりと笑いました。

「だったら、さみしくないね。またいつか、あえるもんね」

 こびとのもう片方の手がやさしく包まれて、温かさを伝えてきます。
 
「ああ、そうだな……」

 こびとの胸に、両手のぬくもりがしみると同時に、このぬくもりを守りたい気持ちがこみ上げてきました。それはきっと、あの日の夜から巡ってきた想いです。

 またいつか。リンドウの花のこえが、聞こえた気がしました。
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