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絶望に伸ばされた手
腹に宿る力
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そう考えてリッテルはシェンダリオンの脇をすり抜け、寝床の向こうへ回り込む。その途中、足元に落ちていた小刀を拾うと、血ともよだれともつかないぬるつきを感じたが、嫌悪感をこらえて握りしめた。扱えない武器でも持っていれば強くなったような気になれる。
「よほど手酷く扱われたいようですね」
眼鏡越しではない目を細めていうシェンダリオンをにらみつけ、リッテルは拾った小刀を両手で構えて立つ。
「そんなわけない! ひどくなんてされたくない、あんたたちの好きなようにだってされたくない。あたしは、あたしの望むままに動くの。好き勝手になんてさせないんだから!」
「はっ! 望みを叶えるだけの力もないくせに?」
鼻で笑われて、リッテルは眉を吊り上げる。
「うるさいっ。ここから出たら、みんなに言ってやるんだから! 教会はろくでもないところだ、って町のみんなに教えてやる!」
吠えるようにリッテルが言ってもシェンダリオンは慌てる様子を見せず、むしろ楽し気に笑っている。
「なるほど、威勢だけはずいぶん立派だ。ですが、現実が伴っていない理想など、掲げるだけ無駄ではありませんか」
なにを笑っているのか、と問うまでもなく冷酷な笑いを浮かべた男は言う。
「あなたごときが何を言ったところで、町の者は耳を貸しませんよ。なんのために私がこんなちっぽけな町長居をして、つまらない愚か者どもの教主などをしていると思っているのですか」
シェンダリオンの言葉を聞いて、リッテルは愕然とした。
―――この男が、教主……?
皆がたたえる立派な教主がひとの自由を奪い物のように扱う者であったことを知って、リッテルの胸にむなしいような苦しいような思いが生じる。教主のこの発言を聞いて、彼をたたえていた町のはずれに住む女性はどう思うだろう。
リッテルが眉間にしわを寄せている間も、シェンダリオンのくちは止まらない。
「愚かな人々は薄汚れた子どもよりも、教主たる私を信じます。そうして、教会に祈りをささげるのです。叶うあてのない祈りを、救いを、願いを託すのです。それが力になるとも知らずに、大勢の愚か者どもが教会を訪れる」
リッテルの頭に、教会に向かって一心に祈る人々の姿が思い出された。リッテルよりもよほど遠くから旅をしてきたのだろう、くたびれたひとの姿もあった。病の子を救ってくれと涙さえ浮かべて祈るひとの姿もあった。
それらすべての思いを踏みにじって、シェンダリオンは笑う。
「けれど、これまでは失敗作ばかりでした。せっかく集まった祈りの力を受け止めきれないくずどもでは、力に負けて呪われたごみしか生み出せない。私は落胆していました。我が野望のために力をふるえる器はいないのかと、絶望しかけていた。そこへ現れたのが、あなたです」
不意に、狂気の矛先を向けられて、リッテルは戸惑う。
「腹の内に力を宿したあなたの存在を聞かされて、私は歓喜しました。生まれて初めて、神の存在を信じましたよ。力に触れて狂うこともなく、魔女の呪いを託されたかのようにいたってふつうに生きるあなたは、私のために存在しているに違いないと!」
熱のこもった視線でリッテルを捕らえながら、シェンダリオンがゆるりと腕を持ち上げてリッテルの横を指さした。思わずつられてそちらを見れば、ちいさくうめきながらも体を起こしたやせ細った男がいた。
「あなたの存在を嗅ぎつけて、見出したその出来損ないをはじめて、ほめてやりました。よくやったと、褒美にあなたの腹へ願うことさえ許したのです。ですから、役に立ちなさい! その娘を捕らえるのです。逃せば、お前の痛みは消えませんよ!」
「いぃいやあぁあ! いたいの、いやあぁああ!!!」
シェンダリオンの語りはいつしか男に向けられており、煽られたやせ細った男がリッテルに向かって飛びかかってくる。飛びかかると言っても突進するような勢いはなく、痛む体を引きずって絶叫しながら倒れ込んでくるというほうが正しいだろう。
「来ないでっ」
とっさに手にしていた小刀を構えたリッテルだったが、その刃先を男に向けようとしてためらった。
―――鎖がぶつかっただけであんなに痛がってたひとが、怪我をしたらどうなるの?
刃物が刺さった瞬間に、衝撃で死んでしまうのではないか。想像してためらったその隙に、男がリッテルに手を伸ばす。避けようと後ずさった背中は真後ろまで来ていたシェンダリオンにぶつかって、目の前にはやせ細った男が迫っていた。
―――どうしよう、どうしたら!
混乱して立ちすくんだリッテルをシェンダリオンが抱きすくめようとした、そのとき。
「リッテルから、離れろ!」
どがんっ!
ライゼの声が聞こえるとともにリッテルの真後ろで鈍い音がして、覆いかぶさろうとしていたシェンダリオンが忽然と消えた。
ぱちりと瞬きをしてあたりを見回せば、すこし離れた暗がりに立つライゼと、その足元で手足を投げ出して転がるシェンダリオンの姿が見えた。どうやら、戦っていた場所から跳んだ勢いのそのままにシェンダリオンを蹴りをお見舞いしたらしい。
「リッテル、大丈夫!?」
そう言って駆け寄ってくるライゼは、握った拳をやせ細った男の顔面に無造作に放ち、あっけなく吹き飛ばす。
「う、うん。大丈夫」
ライゼはひどい怪我していない? と聞こうとしたところで、シェンダリオンが転がって行ったのとは反対の暗がりから地を這うような声が聞こえてきた。
「お、のれ……シェンダリオンさまに歯向かうか!」
叫ぶのと同時、小刀を構えたジュンナが踵の折れた靴で床を蹴って飛びかかってきた。
ライゼは素早くリッテルを背後に庇うと、武器を握りしめたジュンナの手首を片手でとらえてひねり上げる。
「あぐぅっ」
手首をねじられる痛みに声を上げながらも、ジュンナは攻撃をやめない。片手で吊り上げられたような体勢のまま体を目いっぱい撓めて、しなやかな脚をライゼの顔目がけて振り上げた。
「おおっと」
即座に捕えていたジュンナの手を離し、リッテルを小脇に抱えたライゼは飛び退る。
「危なかったね、ライゼ。避けられるなんて、たいしたもんだ」
誰からも遠い部屋の片隅にリッテルを下ろしたライゼは、小さくつぶやいてから床を蹴った。飛ぶような速さでジュンナに接近したかと思えば、ジュンナにぶつかる寸前で体をさらに低くして、彼女の脇をすり抜ける。衝撃に備えて防御姿勢を取っていたジュンナは、その一瞬でライゼを見失ったのだろう。ジュンナがわずかに目を見張った次の瞬間には、彼女の背後に入り込んだライゼがジュンナの背中の真ん中に拳を叩きこんでいた。
「っっ!!!」
声も上げられずに、背中を弓なりにそらしたジュンナが宙を舞う。きりもみして吹き飛んだ彼女が受け身も取れず
に床に叩きつけられたときには、ライゼはすでに次の獲物に向けて駆け出していた。
ふらつきながら暗がりから現れた異相の獣が首をすくめたとき、その鼻さきをかすめてライゼの拳が床を砕く。
「避けちゃいやだよ」
床の破片で傷ついた拳から血をこぼしながらも、ライゼは追撃をやめない。
ぼろぼろの靴を履いた足で獣の腹をすくうように蹴り上げて、宙に浮いた獣を自分の拳でふたたび床に叩きつける。
「っぎぃい」
「もうっ、寝てて!」
毛皮を赤黒く染め、脚はおかしな方向に曲がり、それでもなおも起き上がろうとする獣に、ライゼがほほをふくらませる。幼児が癇癪を起したような物言いとは裏腹な鋭い一撃をもろに受けて、吹き飛んだ獣は倒れ伏していたジュンナの体にぶつかって床に落ち、ぐったりとその場で動かなくなった。
それを確認したライゼは、くるりと振り向いてこてりと首をかしげる。
「これできみを助けられた? 次はどうしたらいい? きみの望みはなに?」
「あ……」
ありがとう。そう言おうとしていたのに、ことばが喉に詰まって出てこなかった。
代わりに出てきたのは、うめくようなかすかな声。
「どう、して……」
「んん?」
ぱちぱちと瞬きをするライゼを見て、リッテルの胸が苦しくなっていく。
「どうしてっ、そんなになってまで!!」
叫ばずにはいられなかった。それほどに、ライゼの姿はひどかった。
ジュンナの小刀がかすめたのか、獣の牙や爪を受けたのか。体のいたるところに切り傷ができて、衣服はぼろぼろなうえに血が滴りそうなほど赤黒く染まっている。
さんざんに殴りつけた拳は血が出るどころではなく、肉がやぶれ骨が折れているのだろう。ぼんやりと立つ体の横に垂れ下がったまま、おかしな方向に曲がっているのが見て取れた。
「どうして、って」
不思議そうに首をかしげて一歩を踏み出した足を引きずっているのは、脚に食いつかれたせいだけでなく、見上げるほどの高さから降ってきたのも原因なのではないだろうか。いつか、リッテルが巻いたきりになっている包帯が血に濡れてぼろきれ同然になって、それでも脚にからみついているのがどうしてか悲しかった。
満身創痍で血にまみれ、目の下には濃いくまのできたひどい顔で、それでもライゼはにこりと笑う。笑って、リッテルの叫びに答えを返す。
「きみが助けて、って言ったから。ライゼは、きみと家族になりたい。だけどそばにはいられない。だから、きみが呼んだときに現れてきみの望みを叶えることにした。さすがだね、ライゼ。そうしたらみんなで幸せになれるよ」
にこにこと笑って言うライゼを見て、リッテルの胸に湧き上がってきたのは悲しみだった。他者を圧倒する力への恐れや血まみれで笑う姿への嫌悪、自身の傷に気を配らない在りようよりも、彼への悲しみが強かった。
「……どうして、そばにいられないの?」
「よほど手酷く扱われたいようですね」
眼鏡越しではない目を細めていうシェンダリオンをにらみつけ、リッテルは拾った小刀を両手で構えて立つ。
「そんなわけない! ひどくなんてされたくない、あんたたちの好きなようにだってされたくない。あたしは、あたしの望むままに動くの。好き勝手になんてさせないんだから!」
「はっ! 望みを叶えるだけの力もないくせに?」
鼻で笑われて、リッテルは眉を吊り上げる。
「うるさいっ。ここから出たら、みんなに言ってやるんだから! 教会はろくでもないところだ、って町のみんなに教えてやる!」
吠えるようにリッテルが言ってもシェンダリオンは慌てる様子を見せず、むしろ楽し気に笑っている。
「なるほど、威勢だけはずいぶん立派だ。ですが、現実が伴っていない理想など、掲げるだけ無駄ではありませんか」
なにを笑っているのか、と問うまでもなく冷酷な笑いを浮かべた男は言う。
「あなたごときが何を言ったところで、町の者は耳を貸しませんよ。なんのために私がこんなちっぽけな町長居をして、つまらない愚か者どもの教主などをしていると思っているのですか」
シェンダリオンの言葉を聞いて、リッテルは愕然とした。
―――この男が、教主……?
皆がたたえる立派な教主がひとの自由を奪い物のように扱う者であったことを知って、リッテルの胸にむなしいような苦しいような思いが生じる。教主のこの発言を聞いて、彼をたたえていた町のはずれに住む女性はどう思うだろう。
リッテルが眉間にしわを寄せている間も、シェンダリオンのくちは止まらない。
「愚かな人々は薄汚れた子どもよりも、教主たる私を信じます。そうして、教会に祈りをささげるのです。叶うあてのない祈りを、救いを、願いを託すのです。それが力になるとも知らずに、大勢の愚か者どもが教会を訪れる」
リッテルの頭に、教会に向かって一心に祈る人々の姿が思い出された。リッテルよりもよほど遠くから旅をしてきたのだろう、くたびれたひとの姿もあった。病の子を救ってくれと涙さえ浮かべて祈るひとの姿もあった。
それらすべての思いを踏みにじって、シェンダリオンは笑う。
「けれど、これまでは失敗作ばかりでした。せっかく集まった祈りの力を受け止めきれないくずどもでは、力に負けて呪われたごみしか生み出せない。私は落胆していました。我が野望のために力をふるえる器はいないのかと、絶望しかけていた。そこへ現れたのが、あなたです」
不意に、狂気の矛先を向けられて、リッテルは戸惑う。
「腹の内に力を宿したあなたの存在を聞かされて、私は歓喜しました。生まれて初めて、神の存在を信じましたよ。力に触れて狂うこともなく、魔女の呪いを託されたかのようにいたってふつうに生きるあなたは、私のために存在しているに違いないと!」
熱のこもった視線でリッテルを捕らえながら、シェンダリオンがゆるりと腕を持ち上げてリッテルの横を指さした。思わずつられてそちらを見れば、ちいさくうめきながらも体を起こしたやせ細った男がいた。
「あなたの存在を嗅ぎつけて、見出したその出来損ないをはじめて、ほめてやりました。よくやったと、褒美にあなたの腹へ願うことさえ許したのです。ですから、役に立ちなさい! その娘を捕らえるのです。逃せば、お前の痛みは消えませんよ!」
「いぃいやあぁあ! いたいの、いやあぁああ!!!」
シェンダリオンの語りはいつしか男に向けられており、煽られたやせ細った男がリッテルに向かって飛びかかってくる。飛びかかると言っても突進するような勢いはなく、痛む体を引きずって絶叫しながら倒れ込んでくるというほうが正しいだろう。
「来ないでっ」
とっさに手にしていた小刀を構えたリッテルだったが、その刃先を男に向けようとしてためらった。
―――鎖がぶつかっただけであんなに痛がってたひとが、怪我をしたらどうなるの?
刃物が刺さった瞬間に、衝撃で死んでしまうのではないか。想像してためらったその隙に、男がリッテルに手を伸ばす。避けようと後ずさった背中は真後ろまで来ていたシェンダリオンにぶつかって、目の前にはやせ細った男が迫っていた。
―――どうしよう、どうしたら!
混乱して立ちすくんだリッテルをシェンダリオンが抱きすくめようとした、そのとき。
「リッテルから、離れろ!」
どがんっ!
ライゼの声が聞こえるとともにリッテルの真後ろで鈍い音がして、覆いかぶさろうとしていたシェンダリオンが忽然と消えた。
ぱちりと瞬きをしてあたりを見回せば、すこし離れた暗がりに立つライゼと、その足元で手足を投げ出して転がるシェンダリオンの姿が見えた。どうやら、戦っていた場所から跳んだ勢いのそのままにシェンダリオンを蹴りをお見舞いしたらしい。
「リッテル、大丈夫!?」
そう言って駆け寄ってくるライゼは、握った拳をやせ細った男の顔面に無造作に放ち、あっけなく吹き飛ばす。
「う、うん。大丈夫」
ライゼはひどい怪我していない? と聞こうとしたところで、シェンダリオンが転がって行ったのとは反対の暗がりから地を這うような声が聞こえてきた。
「お、のれ……シェンダリオンさまに歯向かうか!」
叫ぶのと同時、小刀を構えたジュンナが踵の折れた靴で床を蹴って飛びかかってきた。
ライゼは素早くリッテルを背後に庇うと、武器を握りしめたジュンナの手首を片手でとらえてひねり上げる。
「あぐぅっ」
手首をねじられる痛みに声を上げながらも、ジュンナは攻撃をやめない。片手で吊り上げられたような体勢のまま体を目いっぱい撓めて、しなやかな脚をライゼの顔目がけて振り上げた。
「おおっと」
即座に捕えていたジュンナの手を離し、リッテルを小脇に抱えたライゼは飛び退る。
「危なかったね、ライゼ。避けられるなんて、たいしたもんだ」
誰からも遠い部屋の片隅にリッテルを下ろしたライゼは、小さくつぶやいてから床を蹴った。飛ぶような速さでジュンナに接近したかと思えば、ジュンナにぶつかる寸前で体をさらに低くして、彼女の脇をすり抜ける。衝撃に備えて防御姿勢を取っていたジュンナは、その一瞬でライゼを見失ったのだろう。ジュンナがわずかに目を見張った次の瞬間には、彼女の背後に入り込んだライゼがジュンナの背中の真ん中に拳を叩きこんでいた。
「っっ!!!」
声も上げられずに、背中を弓なりにそらしたジュンナが宙を舞う。きりもみして吹き飛んだ彼女が受け身も取れず
に床に叩きつけられたときには、ライゼはすでに次の獲物に向けて駆け出していた。
ふらつきながら暗がりから現れた異相の獣が首をすくめたとき、その鼻さきをかすめてライゼの拳が床を砕く。
「避けちゃいやだよ」
床の破片で傷ついた拳から血をこぼしながらも、ライゼは追撃をやめない。
ぼろぼろの靴を履いた足で獣の腹をすくうように蹴り上げて、宙に浮いた獣を自分の拳でふたたび床に叩きつける。
「っぎぃい」
「もうっ、寝てて!」
毛皮を赤黒く染め、脚はおかしな方向に曲がり、それでもなおも起き上がろうとする獣に、ライゼがほほをふくらませる。幼児が癇癪を起したような物言いとは裏腹な鋭い一撃をもろに受けて、吹き飛んだ獣は倒れ伏していたジュンナの体にぶつかって床に落ち、ぐったりとその場で動かなくなった。
それを確認したライゼは、くるりと振り向いてこてりと首をかしげる。
「これできみを助けられた? 次はどうしたらいい? きみの望みはなに?」
「あ……」
ありがとう。そう言おうとしていたのに、ことばが喉に詰まって出てこなかった。
代わりに出てきたのは、うめくようなかすかな声。
「どう、して……」
「んん?」
ぱちぱちと瞬きをするライゼを見て、リッテルの胸が苦しくなっていく。
「どうしてっ、そんなになってまで!!」
叫ばずにはいられなかった。それほどに、ライゼの姿はひどかった。
ジュンナの小刀がかすめたのか、獣の牙や爪を受けたのか。体のいたるところに切り傷ができて、衣服はぼろぼろなうえに血が滴りそうなほど赤黒く染まっている。
さんざんに殴りつけた拳は血が出るどころではなく、肉がやぶれ骨が折れているのだろう。ぼんやりと立つ体の横に垂れ下がったまま、おかしな方向に曲がっているのが見て取れた。
「どうして、って」
不思議そうに首をかしげて一歩を踏み出した足を引きずっているのは、脚に食いつかれたせいだけでなく、見上げるほどの高さから降ってきたのも原因なのではないだろうか。いつか、リッテルが巻いたきりになっている包帯が血に濡れてぼろきれ同然になって、それでも脚にからみついているのがどうしてか悲しかった。
満身創痍で血にまみれ、目の下には濃いくまのできたひどい顔で、それでもライゼはにこりと笑う。笑って、リッテルの叫びに答えを返す。
「きみが助けて、って言ったから。ライゼは、きみと家族になりたい。だけどそばにはいられない。だから、きみが呼んだときに現れてきみの望みを叶えることにした。さすがだね、ライゼ。そうしたらみんなで幸せになれるよ」
にこにこと笑って言うライゼを見て、リッテルの胸に湧き上がってきたのは悲しみだった。他者を圧倒する力への恐れや血まみれで笑う姿への嫌悪、自身の傷に気を配らない在りようよりも、彼への悲しみが強かった。
「……どうして、そばにいられないの?」
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