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【後日談2】トロワ・メートル
27.やっぱり元気がない
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元気いっぱいの夫が大好きだけれど、それにしても、今日はご機嫌すぎる。
「んふふーんっ。おにゅーの、と、け、い。艶々の黒いレザーバンド、おっしゃれー」
すでに職場のレストランに出勤済み、かっこいいメートル・ドテルの制服姿になっているのに、うきうき浮かれている様子は、いつも自宅で見ている『蒼くん』のままだった。
ああもう、そろそろ凜々しい『篠田給仕長』に整えて欲しいなと、葉子は遠くからハラハラして眺めている。
しかも遠くでテーブルの上にカトラリーなどを整える作業をしていても、蒼と何度も目が合ってしまう。その度に彼がにんまりとした笑みを見せて、葉子に向かって手を振ったりしているのだ。
さすがに葉子も眉をひそめる。大丈夫かな。仕事で失敗しなければいいけどと心配になってくる。
まあそこは、もうプロ中のプロ、キャリアがある彼のことだからと信じているけれど……。
「なんか今日の給仕長、おかしくない? 気がつくと葉子さん見ているんだけど」
一緒にテーブルを整える支度をしている神楽君も訝しんでいる。
「気にしないで。もうちょっとしたら、いつもの給仕長に戻ると思うから」
いや『戻ってもらわなくちゃ困る』という気持ちは出さないよう、年下の神楽君の前では、いつもの澄ました顔でやりすごした。本当は神楽君もわかっていて『喜ばすことを葉子さんがしたんでしょ。なにをしてあげたんすかー』と聞きたいだろうに、葉子がツンとしていると、神楽君も触らないでおこうと察してくれる。
「めっちゃご機嫌だよなあ。まあ、いつも明るい人だけどさあ、今日は明るいだけじゃなくて、うきうきしているしさあ。それに反して、お師匠さんが元気ないように見えるんだけど、気のせい?」
神楽君もよく見ているなと、葉子は感心する。神楽君も目配りが良い。ここ二年ほど、アルバイトという雇いだったのに、葉子も随分助けられてきたほど。ギャルソン向きであって、彼にとっても性に合っているようだった。
だからこそ、気がついている。葉子も、出勤してきてワインカーブに行くと、そこでは既に甲斐チーフがいた。なのに、立ち飲みテーブルのところで立ち尽くし、生気のない眼差しでうつむいていたのだ。
見たことがない影がある様子に、葉子はドキリとさせられた。
『おはようございます』と声をかけると、非常に驚いた姿を見せ、取り繕うようにいつもの笑顔を浮かべたのだ。
神楽君が言うように、甲斐チーフも明らかに前日とは異なる雰囲気に様変わりしていた。
「昨夜、ここの従業員で遅くまで騒いだじゃん。シェフが慰労会だから気にすんなとか言ってくれて盛り上がったけど。甲斐さんも楽しそうだったけれど、さすがにあの時間までだと翌日キツいんじゃないかなあ」
「そうだね。様子を見て、ご自分からは言い出しそうにないから、給仕長から休養するように言ってもらうね」
「それがいいよ。なるべく長くここに居て欲しいな。これから雪の季節になるから、俺たちからも気をつけてあげないと」
なんか頼もしい後輩になってきたなと、オーナーシェフの娘である葉子はジンとする。
そんな神楽君にも、ずっとフレンチ十和田に居て欲しいよと言いたくなる。
神楽君との作業を終え、葉子は急いでワインカーブへと戻る。
今日はランチがある日で、早めの出勤。葉子も甲斐チーフとアルコールの準備を終えてから、神楽君とホールを整える準備をしていた。その間、ここで甲斐チーフはアルコールの管理や他の準備をしたりして、ひとりでゆったり過ごせていたはず。
階段を降りて、薄暗いカーブに戻ると、やっぱり甲斐チーフがぐったりと項垂れている。
「チーフ、お疲れなのではないですか。昨夜、遅かったから」
また葉子の声にハッとして顔を上げると、しゃんとした上司の姿に戻った。
「歳なので否めないのですが、大丈夫ですよ」
「そうですか……。朝晩の気温も下がってきたので、お身体に触っていないかと思いまして」
「大丈夫です」
「昨夜は、大事なシャトー・ディケムをご馳走してくださって、ありがとうございました」
「秀星に会えたんですね」
いつもの紳士的な笑みを見せてくれる甲斐チーフ、彼には見抜かれていた。誤魔化しようもないので、葉子は面映ゆくなる。
まあ、あんなにあからさまに人前で泣いちゃったから、それはもう勘ぐられてもしようがないかと、葉子も開き直る。
「宝石と言っていたんです。秀星さん。大沼は宝石だって。『大沼の景色が全部ほしい。宝石を手に入れるみたいだといえばわかるかな』と。たぶん、最後の吹雪開けの夜明けが狙っていた宝石だったんです。わかっていたんですけれど……。シャトー・ディケムも自然の中から生まれた珠玉の雫であるならば、あの夜明けの色彩の美しさも珠玉の一瞬。秀星さんには宝石だから、手に入れたくて入れたくて、手を伸ばしてしまったんだと急にしっくりしたんです。不思議な感覚でした」
昨夜、泣いてしまったわけを素直に伝えてもみた。
「同じですね。私も、妻に会いました」
唐突なひと言に、今度は葉子が目を瞠る。
昨夜のあの時間に、共に亡き者をそばに感じていたというのだから。
もしかして、それで元気がない??
「私は、あなたから。葉子さんから妻を見ました」
「え!? どうして私なんですか!?」
こんな小娘みたいな未熟な女のどこから、こんな立派な元メートル・ドテルを支えてこられただろう奥様と重なったのか、葉子には皆目見当もつかない。
「実は、私も篠田のことを笑えないのですよ。あのシャトー・ディケムは、妻と飲むために大事に取っておいたものなのです」
「そんな大事なものを、開けてくださったのですか!? ええっ」
もう遅いが、畏れ多いものを平気で味わってしまった気がして、葉子は動転する。
「金婚式に飲もうと、シャトー・ディケムは飲み頃が十年以上先と言われているので、逆算して買っておいたものでした。なのにバカでした。彼女が絶対に元気になると信じて、シャトー・ディケムに願掛けをしてしまったんです」
「願掛け、ですか……?」
「そう、願掛け。彼女が元気に退院して戻って来たら、このシャトー・ディケムを開けて一緒に快気祝いをしようってね。バカです。彼女が生きてるうちに開けてやれば良かった。ひとくちだけでも舐めさせてあげれば良かった。願掛けをしたばかりに、私は最後まで開けられなくなっていたんです。開けてしまえば最後、彼女はもう帰ってこないと決めつけて、怖くて開けられなくなったんです。そんなこと気にせずに、開ければ良かったという後悔をずっと持っていました」
あのシャトー・ディケムにそんな思いがあったことに、葉子は茫然とする。
なのに昨夜は開けることができたという。
「良いキッカケをくださったと思っています。あのまま後悔を染みこませたままではシャトー・ディケムが勿体ない。それならば、ソムリエを目指すという若い女性の勉強のためなら、亡き妻も喜んで『開けてあげて』と言っただろうと。しかも、思い出深い部下と結婚したばかり。お祝いとすれば、なお縁起がよいものになる。ここで、その気持ちと蹴りをつけることにしたのです。もう、女房と飲むことは叶わないわけですから、葉子さんのお勉強と結婚祝いというキッカケで開けることができてよかったんです。フレンチ十和田の皆様も、おいしそうに味わってくれて満足です」
今度は穏やかに微笑み、満たされた眼差しを優しく伏せたので、本心だろうと葉子も気持ちを落ち着ける。
「本当に大事なものを、ありがとうございました。私には、最高の宝石でした」
「よかった。そこまで言ってくれると、飲めなかった妻も本望だと思います。あなた、ソムリエさんを一人育てるためのお役に立てましたねと……」
「初心者なのに、いきなりシャトー・ディケムをご馳走になってしまいまして。本当に感謝しております」
「あなたが初心者だから、妻と重なったんですよ」
また訳がわからなくなり、葉子は首を傾げて、ただ甲斐チーフを見上げていた。
そんな甲斐チーフの目が、見たことがない熱を持っているのを葉子は知る。
あ、これは男の目だとわかった。だからとて、葉子を欲しているのではないともわかる。葉子を会えない奥様と重ねているだけの目。葉子を通り超して、幻を追っているような、葉子の視線とは重ならない、遠い目をしているとわかるからだ。
「まだそんなにワインを飲み慣れていない葉子さんが、いきなりシャトー・ディケムを味わう。もし妻と飲むことになっても、やっぱり彼女もそんなにワインに舌が慣れていなかったから、同じ反応をしたんじゃないかなと思ったんです。なのに、慣れていない葉子さんは、一発で『洗練』とシャトー・ディケムの核を捉えましたね」
「はい。ほんとうに、たった一口で、その素晴らしさがわかりましたから」
「妻もおなじ反応をしただろうと思えたんです。元気で健康でここにいたら、彼女もきっと、たったひとくちでそう言ってくれただろうと――。シャトー・ディケムだからこそ」
ここで葉子はハッと思い出す。あの時、葉子の感想に対して『洗練、ですか……』と妙にがっかりした反応を見せた時だ。
あれはがっかりしていたのではない。奥様もそう反応したと、お師匠さんも、あそこで急に奥様に再会されていたからだとわかった。
おなじ夜に、同じワインで、亡き人に会っていた――。
それをいま、師匠と弟子は向き合ってお互いに告げている。
やっと甲斐チーフから、生気がもどった穏やかな笑みを見せてくれる。
奥様と再会してしまったから、元気がなかったのだと、葉子も思いたかった。
「さらに告白すると、明日が妻の命日です」
それにも葉子は驚かされる。
そうだ、秀星が亡くなって半年後に奥様がと蒼が言っていたから、この時期かと葉子も気がつく。
「んふふーんっ。おにゅーの、と、け、い。艶々の黒いレザーバンド、おっしゃれー」
すでに職場のレストランに出勤済み、かっこいいメートル・ドテルの制服姿になっているのに、うきうき浮かれている様子は、いつも自宅で見ている『蒼くん』のままだった。
ああもう、そろそろ凜々しい『篠田給仕長』に整えて欲しいなと、葉子は遠くからハラハラして眺めている。
しかも遠くでテーブルの上にカトラリーなどを整える作業をしていても、蒼と何度も目が合ってしまう。その度に彼がにんまりとした笑みを見せて、葉子に向かって手を振ったりしているのだ。
さすがに葉子も眉をひそめる。大丈夫かな。仕事で失敗しなければいいけどと心配になってくる。
まあそこは、もうプロ中のプロ、キャリアがある彼のことだからと信じているけれど……。
「なんか今日の給仕長、おかしくない? 気がつくと葉子さん見ているんだけど」
一緒にテーブルを整える支度をしている神楽君も訝しんでいる。
「気にしないで。もうちょっとしたら、いつもの給仕長に戻ると思うから」
いや『戻ってもらわなくちゃ困る』という気持ちは出さないよう、年下の神楽君の前では、いつもの澄ました顔でやりすごした。本当は神楽君もわかっていて『喜ばすことを葉子さんがしたんでしょ。なにをしてあげたんすかー』と聞きたいだろうに、葉子がツンとしていると、神楽君も触らないでおこうと察してくれる。
「めっちゃご機嫌だよなあ。まあ、いつも明るい人だけどさあ、今日は明るいだけじゃなくて、うきうきしているしさあ。それに反して、お師匠さんが元気ないように見えるんだけど、気のせい?」
神楽君もよく見ているなと、葉子は感心する。神楽君も目配りが良い。ここ二年ほど、アルバイトという雇いだったのに、葉子も随分助けられてきたほど。ギャルソン向きであって、彼にとっても性に合っているようだった。
だからこそ、気がついている。葉子も、出勤してきてワインカーブに行くと、そこでは既に甲斐チーフがいた。なのに、立ち飲みテーブルのところで立ち尽くし、生気のない眼差しでうつむいていたのだ。
見たことがない影がある様子に、葉子はドキリとさせられた。
『おはようございます』と声をかけると、非常に驚いた姿を見せ、取り繕うようにいつもの笑顔を浮かべたのだ。
神楽君が言うように、甲斐チーフも明らかに前日とは異なる雰囲気に様変わりしていた。
「昨夜、ここの従業員で遅くまで騒いだじゃん。シェフが慰労会だから気にすんなとか言ってくれて盛り上がったけど。甲斐さんも楽しそうだったけれど、さすがにあの時間までだと翌日キツいんじゃないかなあ」
「そうだね。様子を見て、ご自分からは言い出しそうにないから、給仕長から休養するように言ってもらうね」
「それがいいよ。なるべく長くここに居て欲しいな。これから雪の季節になるから、俺たちからも気をつけてあげないと」
なんか頼もしい後輩になってきたなと、オーナーシェフの娘である葉子はジンとする。
そんな神楽君にも、ずっとフレンチ十和田に居て欲しいよと言いたくなる。
神楽君との作業を終え、葉子は急いでワインカーブへと戻る。
今日はランチがある日で、早めの出勤。葉子も甲斐チーフとアルコールの準備を終えてから、神楽君とホールを整える準備をしていた。その間、ここで甲斐チーフはアルコールの管理や他の準備をしたりして、ひとりでゆったり過ごせていたはず。
階段を降りて、薄暗いカーブに戻ると、やっぱり甲斐チーフがぐったりと項垂れている。
「チーフ、お疲れなのではないですか。昨夜、遅かったから」
また葉子の声にハッとして顔を上げると、しゃんとした上司の姿に戻った。
「歳なので否めないのですが、大丈夫ですよ」
「そうですか……。朝晩の気温も下がってきたので、お身体に触っていないかと思いまして」
「大丈夫です」
「昨夜は、大事なシャトー・ディケムをご馳走してくださって、ありがとうございました」
「秀星に会えたんですね」
いつもの紳士的な笑みを見せてくれる甲斐チーフ、彼には見抜かれていた。誤魔化しようもないので、葉子は面映ゆくなる。
まあ、あんなにあからさまに人前で泣いちゃったから、それはもう勘ぐられてもしようがないかと、葉子も開き直る。
「宝石と言っていたんです。秀星さん。大沼は宝石だって。『大沼の景色が全部ほしい。宝石を手に入れるみたいだといえばわかるかな』と。たぶん、最後の吹雪開けの夜明けが狙っていた宝石だったんです。わかっていたんですけれど……。シャトー・ディケムも自然の中から生まれた珠玉の雫であるならば、あの夜明けの色彩の美しさも珠玉の一瞬。秀星さんには宝石だから、手に入れたくて入れたくて、手を伸ばしてしまったんだと急にしっくりしたんです。不思議な感覚でした」
昨夜、泣いてしまったわけを素直に伝えてもみた。
「同じですね。私も、妻に会いました」
唐突なひと言に、今度は葉子が目を瞠る。
昨夜のあの時間に、共に亡き者をそばに感じていたというのだから。
もしかして、それで元気がない??
「私は、あなたから。葉子さんから妻を見ました」
「え!? どうして私なんですか!?」
こんな小娘みたいな未熟な女のどこから、こんな立派な元メートル・ドテルを支えてこられただろう奥様と重なったのか、葉子には皆目見当もつかない。
「実は、私も篠田のことを笑えないのですよ。あのシャトー・ディケムは、妻と飲むために大事に取っておいたものなのです」
「そんな大事なものを、開けてくださったのですか!? ええっ」
もう遅いが、畏れ多いものを平気で味わってしまった気がして、葉子は動転する。
「金婚式に飲もうと、シャトー・ディケムは飲み頃が十年以上先と言われているので、逆算して買っておいたものでした。なのにバカでした。彼女が絶対に元気になると信じて、シャトー・ディケムに願掛けをしてしまったんです」
「願掛け、ですか……?」
「そう、願掛け。彼女が元気に退院して戻って来たら、このシャトー・ディケムを開けて一緒に快気祝いをしようってね。バカです。彼女が生きてるうちに開けてやれば良かった。ひとくちだけでも舐めさせてあげれば良かった。願掛けをしたばかりに、私は最後まで開けられなくなっていたんです。開けてしまえば最後、彼女はもう帰ってこないと決めつけて、怖くて開けられなくなったんです。そんなこと気にせずに、開ければ良かったという後悔をずっと持っていました」
あのシャトー・ディケムにそんな思いがあったことに、葉子は茫然とする。
なのに昨夜は開けることができたという。
「良いキッカケをくださったと思っています。あのまま後悔を染みこませたままではシャトー・ディケムが勿体ない。それならば、ソムリエを目指すという若い女性の勉強のためなら、亡き妻も喜んで『開けてあげて』と言っただろうと。しかも、思い出深い部下と結婚したばかり。お祝いとすれば、なお縁起がよいものになる。ここで、その気持ちと蹴りをつけることにしたのです。もう、女房と飲むことは叶わないわけですから、葉子さんのお勉強と結婚祝いというキッカケで開けることができてよかったんです。フレンチ十和田の皆様も、おいしそうに味わってくれて満足です」
今度は穏やかに微笑み、満たされた眼差しを優しく伏せたので、本心だろうと葉子も気持ちを落ち着ける。
「本当に大事なものを、ありがとうございました。私には、最高の宝石でした」
「よかった。そこまで言ってくれると、飲めなかった妻も本望だと思います。あなた、ソムリエさんを一人育てるためのお役に立てましたねと……」
「初心者なのに、いきなりシャトー・ディケムをご馳走になってしまいまして。本当に感謝しております」
「あなたが初心者だから、妻と重なったんですよ」
また訳がわからなくなり、葉子は首を傾げて、ただ甲斐チーフを見上げていた。
そんな甲斐チーフの目が、見たことがない熱を持っているのを葉子は知る。
あ、これは男の目だとわかった。だからとて、葉子を欲しているのではないともわかる。葉子を会えない奥様と重ねているだけの目。葉子を通り超して、幻を追っているような、葉子の視線とは重ならない、遠い目をしているとわかるからだ。
「まだそんなにワインを飲み慣れていない葉子さんが、いきなりシャトー・ディケムを味わう。もし妻と飲むことになっても、やっぱり彼女もそんなにワインに舌が慣れていなかったから、同じ反応をしたんじゃないかなと思ったんです。なのに、慣れていない葉子さんは、一発で『洗練』とシャトー・ディケムの核を捉えましたね」
「はい。ほんとうに、たった一口で、その素晴らしさがわかりましたから」
「妻もおなじ反応をしただろうと思えたんです。元気で健康でここにいたら、彼女もきっと、たったひとくちでそう言ってくれただろうと――。シャトー・ディケムだからこそ」
ここで葉子はハッと思い出す。あの時、葉子の感想に対して『洗練、ですか……』と妙にがっかりした反応を見せた時だ。
あれはがっかりしていたのではない。奥様もそう反応したと、お師匠さんも、あそこで急に奥様に再会されていたからだとわかった。
おなじ夜に、同じワインで、亡き人に会っていた――。
それをいま、師匠と弟子は向き合ってお互いに告げている。
やっと甲斐チーフから、生気がもどった穏やかな笑みを見せてくれる。
奥様と再会してしまったから、元気がなかったのだと、葉子も思いたかった。
「さらに告白すると、明日が妻の命日です」
それにも葉子は驚かされる。
そうだ、秀星が亡くなって半年後に奥様がと蒼が言っていたから、この時期かと葉子も気がつく。
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