猫と幼なじみ

鏡野ゆう

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帝国海軍の猫大佐 裏話

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 14

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帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです


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「さて、そろそろバイバイの時間だなー」

 後ろの甲板を一通り見たあと、修ちゃんが腕時計を見ながら言った。とたんにおちびさんの機嫌が悪くなる。

「いーやー!」
「イヤじゃないよ。ここの決まりなんだから、ちゃんと守らないと」
「パパと一緒に帰るー!」

 その言葉に、修ちゃんは一瞬だけ心がグラッとしたみたい。顔つきがゆるんだけど、自分は今、勤務中だということを思い出したのか、すぐに顔を引き締めた。そしてぐずっているおちびさんの前にしゃがみこむ。

「ご飯の時間には帰るから、ママと家で待ってなさい」
「むうぅぅぅ!!」

 おちびさんは納得していないらしく、ほっぺたをふくらまれてフグみたいになっている。修ちゃんは笑いながら、そのほっぺたを指でつついた。

「ほらほら、そんな顔しない。にゃんこに笑われるぞ」
「……」

 おちびさんは渋々といった感じでうなづく。

「じゃあ、ママと一緒にちゃんと帰るな?」
「かえる」
「きっと帰る前に買い物に行くだろうけど、ママを困らせないようにな?」
「わかったー」

 おちびさんの頭をなでると立ち上がった。

「にゃんこって?」
「ん? それは男同士の秘密」
「あ、そう」

 きっとこれからも、そんな「男同士の秘密」が増えてくるんだろうなって考える。ママ的には寂しいけど、ま、しかたないか。

「買い物には行くんだろ?」
「うん。晩ごはん、なにか食べたいのある? 家を出るまでは、たこ焼きパーティーしようかって話してたんだけど」
「チョコミントがいいな」
「それはご飯じゃないでしょ?」

 そう言ってから、キラキラした目で見上げているおちびさんを見下ろした。

「かず君、チョコミントはご飯じゃないよ。ママが決めたいのは晩ごはん。たこ焼きパーティーの他は?」
「デザート!」
「わかった。じゃあデザートは、チョコミントとバニラね」
「ママのオレンジシャーベットも!」
「忘れないでくれてありがとう。それで晩ごはんは?」

 質問の続きだ。大事なのはデザートではなくて晩ごはんのほうだよ。いやまあ、アイスも大事だけどさ。

「なんでもいいよ」
「なんでもって、けっこう難しいんだよねー」
「みむろカレー!」
「だからかず君、それ、お昼に食べたやん」

 おちびさんのカレー好きは一体、誰に似たのやら。

「あの店に行ってきたのか」
「うん。遊覧船に乗ったあとに、足をのばして食べてきた。すっごくおいしかった」
「そりゃあそこのカレーは、うちの料理長直伝じきでんだから」

 料理長とは、ここのふねで隊員さんのご飯を作っている人。ちなみに階級は料理長ではなく、海曹長さんだ。

「それ、うちにも直伝じきでんしてくれないかなあ」
「ダメダメ。みむろカレーも好きだけど、我が家カレーの味は今のままじゃないと」
「たまに食べたくなるじゃん? 知ってたら作れるし」
「そういう時は、あそこの洋食屋さんに行ってください」
「特急往復代を含めたら高級なカレーだね。さすがお店のおすすめメニュー」

 二時間近く電車に揺られてカレーを食べにくるって、なかなかハードルが高そう。

「実はあそこのおすすめメニュー、みむろカレーじゃないんだなー」
「え、そうなの?!」

 お店の前にあるたくさんのノボリは『みむろカレー』だし、大抵のお客さんはそれを頼んでいる。だからてっきり、おすすめはカレーだと思ってた。

「次は洋食Bセットを頼むといいよ。あそこのクリームコロッケは絶品だから」
「うわー、行く前に聞いておけばよかったー!」

 無念だ、無念すぎる!! 私の反応に修ちゃんが大笑いしている。

和人かずと、たぶん今日の晩ごはんにはコロッケが出てくると思うぞ?」
「コロッケすきー!」
「コロッケを買うなら、スーパーじゃなくて、商店街の中にある肉屋さんな? あそこのが一番だから」

 修ちゃんはニヤニヤしながら言った。よくおわかりですね、修ちゃん。今の私の頭の中はもうクリームコロッケしか存在していない。このままだと、たこ焼きパーティーは中止かも!

「わかった」
「コロッケも良いけど、串カツとかメンチカツの肉系もお願いします」
「しかとたまわりました。他に必要なものは? なにか買い足しておきたいものある? 見た感じ、大抵のモノはあったように見えたけど」
「そうだなあ、今のところは特にないかな」

 あとはスーパーに行った時に考えるとしよう。

「じゃあ、そろそろおりようか。私達が最後みたいだし」

 最後までカメラ撮影をしていた人がおりていくのが見えた。

「気をつけて」
「うん。今日はありがとう。上の人達にもお礼いっておいてね。あ、それから伊勢いせさん達にも」
「わかった。和人、またあとでな」
「ばいばーい!」

 私とおちびさんが桟橋を渡ってステップをおりると、最後までこっち側に立っていた隊員さんが、終了のボードのついたロープを張った。そしてふねのほうへと戻っていく。

「パパ、ばいばーい!」

 手をふるおちびさんにつられて後ろを見ると、修ちゃんが手を振っていた。そしてその直後、近くでニヤニヤしていた他の隊員さんを追い立てるようにして、艦内へと戻っていった。
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