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【R18】Last kissはあなたと 〜 10年越しの恋の行方〜
『熱帯夜、酒企画2014』後編
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「ああああ、やっぱ私って魅力ないかぁぁぁ」
「いきなり何なんですか」
「だって送り狼にもなってもらえないなんて、そうとしか思えなーい」
「いや、どうしてそんな話に?」
「ぶうぅぅぅ」
「いやいや、そこでブーイングされても俺、困りますよ」
「ねえ、そんなに私って魅力ない?」
そう言ってこちらを上目遣いで見てくるものだから、思わずそんな顔して見ないでくださいよと、こちらから視線を逸らしてしまった。多分、顔が赤くなっていたと思うが、まあ相手は酔っぱらっているから、恐らくこちらのことにまで気が回らないだろう。
「だからさっき言ったじゃないですか、舞子さんは可愛いです」
「三十五にもなって可愛いって言われても嬉しくない」
「だって可愛いんだから仕方ないですよ、そうやって膨れるところとか」
「ぶう」
ただでさえスッピンで幼く見えるのにそこでむくれているとか、どんな拷問なんだ?と何処かの誰かにぼやきたくなる。
「ほら、そんなことを言うのはきっと酔っ払っているせいなんだから、後悔するようなことをしでかさないうちに、早く寝た方が良いです」
「やっぱり魅力ないんだ、抱きたいとか思わないんだ……」
「だから、どうしてそんな話になるんですか」
「今夜だけは一人でいたくないの」
「……今、俺に抱かれたいとか思ってるのは、手近に俺がいるからで、それは失恋した反動からくるものですよ。そんな気持ちの時に俺に抱かれたりしたら、絶対にあとで絶対に後悔しますよ?」
「今夜だけで良いの。あとは縋り付いたりしたりしないって約束するから」
少なくとも二十秒は彼女の顔を黙って見つめた。
「本当に舞子さんは分かってないんだな、俺の気持ち」
「どういうこと?」
「そうやって尋ねるってことは、本当に気がついてなかったんですね。俺、ずっと舞子さんのことが好きだったんですよ?」
「全然気がつかなかった……。どうして言ってくれなかったの?」
「言えるわけがないじゃないですか。店に来る時と言えば、新しい恋を見つけて浮かれている時か、もしくは失恋して落ち込んでいる時なんだから。そんな時に言えるとでも?」
「……ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃありませんよ」
なんとも気まずい空気が流れる。
「そろそろ酔いも醒めてきたみたいですね。俺、帰りますから」
そう言い残して彼女の部屋から逃げるようにして飛び出した。エレベーターで降りながら我に返って、ゴンッと壁に頭を打ち付ける。
「バカだ、俺」
この十年、密かに胸の内に仕舞い込んでいた思いを、うっかり口にしてしまうとは。もう彼女は店に来ないかもな……。そんなことを考え、彼女の来ることのない店の毎日を思うと、何とも言えない気持ちになってしまった。
「レグネンスの話、受けるかなぁ……」
+++++
「おやおや、今夜は隆太君の方が失恋したみたいな顔をしているね」
定休日あけ、店に顔を出した途端にマスターに指摘された。そんなこと言われなくても分かっていた。あの日からずっと、どうしてあんなことを口走ってしまったのかと地球の裏側に飛び出すのではないかと思うぐらいに落ち込んでいるのだから。
「そんな顔してますか?」
「してるよ。舞子ちゃんを送っていた日、何かあったのかい?」
「何もありませんよ。彼女を送り届けてすぐに帰りました」
「おや、そうなのかい、それは残念だったね」
「マスター?」
飄々としたいつもの笑顔で何だい?と笑いながら答ると、マスターは今日も熱帯夜かなあと呟きながら、厨房へと姿を消した。
そして今夜も『Bar le marron』はいつもの時間に開店し、店の中には世間とは打って変わって、穏やかな時間が流れている。外は深夜に近いというのに昼間の熱気がまだ抜け切れず、今夜も熱帯夜になりそうだと、先程やってきた製薬会社に勤めている常連客が言っていた。
カランカラン
いつものようにカウベルが鳴り響く。あの音は彼女が新しい恋を見つけた時の音だ。ドアの方へと目を向ければ、案の定、彼女がこちらへと真っ直ぐやってきて、いつもの指定席に座った。週末の気まずい出来事のことは顔に出すことなく、いつものように口元に笑みを浮かべると彼女の前に立った。それだけでも自分を褒めてやりたいと思う。
「こんばんは、舞子さん。今日は何にしますか?」
「Last kissをお願い」
「え?」
「だから、Last kissなの」
「分かりました」
いまいち状況が理解できないまま、言われた通りカクテルを作って彼女の前に差し出す。
「いつもはね、失恋した時に作ってもらってたでしょ? でも今夜は反対。新しい恋を見つけたから作ってもらったの」
「そうなんですか。頑張ってくださいね」
こちらの言葉にニヤリと笑う。
「そう、頑張るわよ。私、今度こそ最後の恋のするつもりなんですからね。覚悟なさい、逃がさないわよ?」
「は?」
「私に目をつけられるなんて御愁傷様♪ あ、それとあの時にくれたコンビニスイーツ美味しかったわよ。何処のコンビニで売ってる商品か、教えてくれる?」
彼女はとびっきりの笑顔をこちらに向けてきた。
+++++
目を白黒させている隆太君の姿がとても微笑ましい。この十年そっと見守ってきたが、ここにきてようやく二人の距離が縮まったようだ。じれったくて仕方がないが、もう少しだけ黙ってあの二人を見守ることとしよう。
キッチンの入口で二人の様子をうかがっていたマスターは、密かに微笑むと鼻歌を歌いながら、そっと厨房の中に戻って行った。
「いきなり何なんですか」
「だって送り狼にもなってもらえないなんて、そうとしか思えなーい」
「いや、どうしてそんな話に?」
「ぶうぅぅぅ」
「いやいや、そこでブーイングされても俺、困りますよ」
「ねえ、そんなに私って魅力ない?」
そう言ってこちらを上目遣いで見てくるものだから、思わずそんな顔して見ないでくださいよと、こちらから視線を逸らしてしまった。多分、顔が赤くなっていたと思うが、まあ相手は酔っぱらっているから、恐らくこちらのことにまで気が回らないだろう。
「だからさっき言ったじゃないですか、舞子さんは可愛いです」
「三十五にもなって可愛いって言われても嬉しくない」
「だって可愛いんだから仕方ないですよ、そうやって膨れるところとか」
「ぶう」
ただでさえスッピンで幼く見えるのにそこでむくれているとか、どんな拷問なんだ?と何処かの誰かにぼやきたくなる。
「ほら、そんなことを言うのはきっと酔っ払っているせいなんだから、後悔するようなことをしでかさないうちに、早く寝た方が良いです」
「やっぱり魅力ないんだ、抱きたいとか思わないんだ……」
「だから、どうしてそんな話になるんですか」
「今夜だけは一人でいたくないの」
「……今、俺に抱かれたいとか思ってるのは、手近に俺がいるからで、それは失恋した反動からくるものですよ。そんな気持ちの時に俺に抱かれたりしたら、絶対にあとで絶対に後悔しますよ?」
「今夜だけで良いの。あとは縋り付いたりしたりしないって約束するから」
少なくとも二十秒は彼女の顔を黙って見つめた。
「本当に舞子さんは分かってないんだな、俺の気持ち」
「どういうこと?」
「そうやって尋ねるってことは、本当に気がついてなかったんですね。俺、ずっと舞子さんのことが好きだったんですよ?」
「全然気がつかなかった……。どうして言ってくれなかったの?」
「言えるわけがないじゃないですか。店に来る時と言えば、新しい恋を見つけて浮かれている時か、もしくは失恋して落ち込んでいる時なんだから。そんな時に言えるとでも?」
「……ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃありませんよ」
なんとも気まずい空気が流れる。
「そろそろ酔いも醒めてきたみたいですね。俺、帰りますから」
そう言い残して彼女の部屋から逃げるようにして飛び出した。エレベーターで降りながら我に返って、ゴンッと壁に頭を打ち付ける。
「バカだ、俺」
この十年、密かに胸の内に仕舞い込んでいた思いを、うっかり口にしてしまうとは。もう彼女は店に来ないかもな……。そんなことを考え、彼女の来ることのない店の毎日を思うと、何とも言えない気持ちになってしまった。
「レグネンスの話、受けるかなぁ……」
+++++
「おやおや、今夜は隆太君の方が失恋したみたいな顔をしているね」
定休日あけ、店に顔を出した途端にマスターに指摘された。そんなこと言われなくても分かっていた。あの日からずっと、どうしてあんなことを口走ってしまったのかと地球の裏側に飛び出すのではないかと思うぐらいに落ち込んでいるのだから。
「そんな顔してますか?」
「してるよ。舞子ちゃんを送っていた日、何かあったのかい?」
「何もありませんよ。彼女を送り届けてすぐに帰りました」
「おや、そうなのかい、それは残念だったね」
「マスター?」
飄々としたいつもの笑顔で何だい?と笑いながら答ると、マスターは今日も熱帯夜かなあと呟きながら、厨房へと姿を消した。
そして今夜も『Bar le marron』はいつもの時間に開店し、店の中には世間とは打って変わって、穏やかな時間が流れている。外は深夜に近いというのに昼間の熱気がまだ抜け切れず、今夜も熱帯夜になりそうだと、先程やってきた製薬会社に勤めている常連客が言っていた。
カランカラン
いつものようにカウベルが鳴り響く。あの音は彼女が新しい恋を見つけた時の音だ。ドアの方へと目を向ければ、案の定、彼女がこちらへと真っ直ぐやってきて、いつもの指定席に座った。週末の気まずい出来事のことは顔に出すことなく、いつものように口元に笑みを浮かべると彼女の前に立った。それだけでも自分を褒めてやりたいと思う。
「こんばんは、舞子さん。今日は何にしますか?」
「Last kissをお願い」
「え?」
「だから、Last kissなの」
「分かりました」
いまいち状況が理解できないまま、言われた通りカクテルを作って彼女の前に差し出す。
「いつもはね、失恋した時に作ってもらってたでしょ? でも今夜は反対。新しい恋を見つけたから作ってもらったの」
「そうなんですか。頑張ってくださいね」
こちらの言葉にニヤリと笑う。
「そう、頑張るわよ。私、今度こそ最後の恋のするつもりなんですからね。覚悟なさい、逃がさないわよ?」
「は?」
「私に目をつけられるなんて御愁傷様♪ あ、それとあの時にくれたコンビニスイーツ美味しかったわよ。何処のコンビニで売ってる商品か、教えてくれる?」
彼女はとびっきりの笑顔をこちらに向けてきた。
+++++
目を白黒させている隆太君の姿がとても微笑ましい。この十年そっと見守ってきたが、ここにきてようやく二人の距離が縮まったようだ。じれったくて仕方がないが、もう少しだけ黙ってあの二人を見守ることとしよう。
キッチンの入口で二人の様子をうかがっていたマスターは、密かに微笑むと鼻歌を歌いながら、そっと厨房の中に戻って行った。
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