25 / 40
本編
第二十四話 お城のテンヤワンヤ一夜
しおりを挟む
片付けを終えて皆を送り出した時のことを改めて振り返ってみると、どの人も真田さんが最後まで残っていることを当然のように受け止めていて「真田さんと芽衣ちゃん今日はご馳走様、ありがとうね」と私達のことをセット扱いしていた。お父さんが死んだ目をして溜め息をついていたのは真田さんの溶け込み方を見てついたんじゃなくて、そういう既に認めちゃっている周囲の空気のせいだったのかもしれない。
「で、どう?」
「うん、色も綺麗だし匂いも素敵。だけど気分的にはお花見って言うより桜餅になった気分が近いんじゃないかな~」
「そっか。じゃあ後で味見をさせてもらう」
「なんでだ」
どうして私が湯船に浸かっている横で真田さんは服を着たままニコニコ顔でバスチェアに座っているのでしょうか?
真田さんが家の改築完成祝いにプレゼントしてくれたのは色んな花の香りがするバスソルトのセットだった。お花に関しては私の方が詳しいので最初はどうしようか迷ったらしいんだけど、入れ物が可愛いし色がとても綺麗だから喜んでもらえるだろうって思い切って買ってみたんだって。うんうん、私、こういうの大好きだから凄く嬉しい。で、さっそくそのうちの桜の香りがするのを使って入ってみようってことになったのね。んで、そんな私のことを真田さんはただいま満足そうに眺めているってわけ。
「真田さんは入らないの?」
「芽衣さんにお風呂でリラックスして欲しいのが目的で買ったのに俺と一緒だとそれどころじゃなくなるだろ? だから今はリラックスタイムがメイン」
ま、二人で一緒に入るのはそのうちにねと笑う。
真田さん曰く私って働きすぎなんだって。自分では学校のこともお店のこともそんなに無理しているつもりは無いんだけど真田さんから見たらそんな風に見えるらしい。だからお風呂ではゆっくりして疲れを癒しましょうってことらしくて今回のプレゼントを選んだみたい。
普段よりちょっと長めのバスタイムを楽しんだ私はパジャマに着替えて自分の部屋で真田さんが戻ってくるのを待つことにした。一人で寝るにはちょっと大きすぎるベッドの上に座ってみる。うん、座り心地もなかなかだしこっちにして良かった。
「芽衣さん、洗面所にこれの他に髭剃りもきちんと揃っていたけどあれってどうしたんだい?」
部屋に上がってきた真田さんが私が用意しておいたハンガーに服をかけながら尋ねてきた。「これ」と言うのは真田さんが着ているスエットの上下のこと。昼間に真田さんが家で来ていたのと似た感じのものを買っておいたんだ。髭剃りもその時に一緒に買ったもの。
「真田さんがお泊りするから思いつくものだけでも用意しておいたの。もし泊まれなくなっても置いておいて困るものじゃないでしょ?」
「なるほどね。だけど一つだけ足りないものがあった」
「そう? お髭剃りに使うものは揃えたつもりだったけど……」
「髭のことじゃなくてコレが無かった」
ズボンのポケットから引っ張り出したものがベッドの上に投げ置かれた。それはここ最近私達二人がひんぱんにお世話になっているものだ……。
「それを私が買うのはちょっとハードルが高いよ……」
「ちょっと?」
「ううん、かなり高い」
「だよね」
真田さんは笑いながらベッドに腰を下ろす。
「ベッドと枕の使い初めか。芽衣さんも今日が初めてなんだっけ?」
「うん。昨日まではお婆ちゃんちだったからね」
「じゃあさっそく」
そう言うといきなり私のことを押し倒した。
「あれ? 先ずはベッドの寝心地と枕の使い心地なんじゃ……?」
「それより桜餅芽衣さんの味見の方が先でしょ」
「え~~」
という訳で、その後のことはともかくとして私としては先ずは二人でベッドと枕の使い初めなんてのをするつもりでいたんだけど、真田さんにそのつもりがまったく無いだろうってことを最初から予想しておくべきだったかもしれない。
「桜のバスソルトを使わなかったらゆっくり使い初め出来たかな?」
「どうだろう。だけど桜を使うって言ったのは俺じゃなくて芽衣さんだからね」
だからきちんと責任を取ってもらわないとって意味不明な理屈を振りかざすと真田さんはさっさと桜餅の味見を始めた。新しいバスソルトのお蔭かいつもよりお肌はツルツルだし手足はしっかり温まってホカホカだし今夜の芽衣さんはいつもより美味しいかも、だって。そのせいでなのかいつもよりエッチが長くてちょっぴり激しかったかもしれない。
やっとのことで解放してくれたのはそれから一時間ぐらいしてからで私の方はすっかりクタクタ、せっかくお風呂でリラックスして取り戻した体力は早々に底を尽いちゃって意味ないじゃんと抗議したい気分。
「真田さん?」
だから一言ぐらい何か言わなきゃって見上げたんだけど、いつもならこんな時は満足げな顔をして私のことを見下ろしている筈の真田さんが何だか変な顔をしてる。
「あのさ、芽衣さん……」
「なあに?」
真田さんが口を開きかけたその時、何か下の方で音がしたような気がした。私の方は気のせいかなって思ったんだけど真田さんの方は違ったみたいで急にお巡りさんの顔に戻って私から離れた。
「どうしたの?」
「芽衣さんはここにいて。絶対に部屋を出るんじゃないよ、それと電気もこのまま消したままで」
そう言って脱ぎ捨てていたスエットの上下を素早く着ると、音をさせないようにしてドアを開けて部屋を出て行った。もしかして外で変な人でも騒いでいるのかなとそっとベッドを出て通りに面している窓から外を覗いてみたけどそこを歩いているのは三匹の野良猫ぐらいだ。急に心配になって急いでパジャマを着るとドアの方へと急いだ。
「……」
出るなって言われたんだから部屋の外に踏み出さなければ良いのよね、ドアを開けて様子を伺うぐらいなら部屋を出たことにはならないんだから問題ないよね。そう自分に言い聞かせるとドアを少しだけ開けて耳をすませた。しばらくじっとしていたけど何の音もしないしやっぱり気のせいだったんじゃないの?とブツブツ言いながら部屋を出ようとした途端に下からドスンと凄い音がして真田さんが何やら怒鳴っている声が聞こえてきた。……階段の時もそうだったけど私の「気のせい」って本当に当てにならない。
階段を降りて行くとリビングで真田さんが何かを抑え込んでいた。
「真田さん?」
私の声に振り返った真田さんはいつものお巡りさんの顔以上に怖い顔をしていてる。
「だから部屋から出るなと言っただろ」
「でも……」
「出てきたものは仕方がないな。芽衣さん110番に電話して、空き巣だ」
真田さんが抑え込んでいたのは見知らぬオジサン、いわゆる空き巣さんだった。
+++++
「警察官がいる家に空き巣に入るなんて間抜けもいいところだよな」
通報して真っ先にお店に駆け付けたのはお向かいの派出所に夜勤で来ていた吉川さんと浅井さん。そして松柴署のお巡りさん達が十分ぐらいしてやって来た。
取り押さえたのが駅前派出所勤務の真田さんで、その真田さんがここに泊まっていたと知って事情を知っている吉川さん達はともかく松柴署のお巡りさん達は何とも言えないニヤニヤ顔を抑えながら形ばかりの現場検証をしている。
「あーあー……せっかく新品のガラス戸に穴なんて」
お巡りさん達がニヤニヤして真田さんが居心地悪そうにしていることよりも問題なのはサッシに開いているこぶし大の穴の方だよ。せっかく完成したばかりだというのに腹が立つったら。
私達が最初に気が付いた物音は、空き巣オジサンが派出所からは見えない反対側の通りに面しているガラスサッシに穴を開けている時に、うっかり足元に切れ端を落としてしまった音だったみたい。玄関口の門燈もまだ点けていなかったから完全な空き家だと思ってオジサンも油断していたらしい。
「この程度で良かったじゃないか。せっかく揃えた家具や家電製品を汚されたり盗られたりしてなくて良かったと考えないと」
「それはそうなんだけどさあ……」
「じゃあ調書に関しては明日にでも改めて。どちらにしろ現役の警察官が現行犯で確保したわけだから言い逃れなんて無理な話なんだけどな」
一通りの検証が終わったところでベテランさんらしい刑事さんが真田さんに声をかけた。
「話をするのは俺だけでいいんですよね?」
「松岡さんは何も見てないんだろ? だったら真田の証言だけで問題ない、明日どこかで時間を取って話を聞かせてくれ」
「分かりました」
現場検証をしていたお巡りさんが、本当はこんなことしないんだけど松岡さんは身内だから特別だよって笑いながら、穴があいたところをボール紙で塞いで白いテープで固定してくれた。
「俺がいるときで良かったよ。しかし派出所が正面にあるのによく入る気になったものだ」
私の横で真田さんは呆れたように呟いた。
「灯台下暗しってやつじゃない?」
「にしても本当にすぐそこなのになあ」
「あ、そうだ真田さん。それでさっき私に言いかけたことは何だったの?」
現場検証も終わって帰っていく刑事さんとお巡りさん達を見送ってからそう言えばと思い出した。空き巣騒ぎで頭からすっかり抜け落ちていたけどあの時の真田さんは珍しく深刻な顔をしていたから何か重大なことを言おうとしていたと思うんだけどな。私の問い掛けに真田さんは再び凍り付いたようにその場で動かなくなった。
「ねえ、どうしたの? 何か大切なことなんだよね?」
「……芽衣さん、落ち着いて聞いてくれる?」
「うん」
ダイニングの椅子に私のことを座らせると真田さんはその向かい側の椅子に座った。怖い顔って言うより途方に暮れた顔って感じだ。
「あの、芽衣さん、落ち着いて聞いてくれる?」
「それはさっきも聞いた」
「ああ、そうだった。あのさ、言いにくい事なんだけどさ……」
あれ、なんでそこで顔が赤くなるの?
「あの、その直後に気が付いたんだけど、その、避妊してたやつ失敗したかも、しれないんだ……」
消え入りそうな声だったので最後の方が上手く聞き取れなかった。だから最初は何のことだかピンと来なくて首を傾げながら真田さんのことを見詰めていた。失敗? 避妊が?
……え?
「で、どう?」
「うん、色も綺麗だし匂いも素敵。だけど気分的にはお花見って言うより桜餅になった気分が近いんじゃないかな~」
「そっか。じゃあ後で味見をさせてもらう」
「なんでだ」
どうして私が湯船に浸かっている横で真田さんは服を着たままニコニコ顔でバスチェアに座っているのでしょうか?
真田さんが家の改築完成祝いにプレゼントしてくれたのは色んな花の香りがするバスソルトのセットだった。お花に関しては私の方が詳しいので最初はどうしようか迷ったらしいんだけど、入れ物が可愛いし色がとても綺麗だから喜んでもらえるだろうって思い切って買ってみたんだって。うんうん、私、こういうの大好きだから凄く嬉しい。で、さっそくそのうちの桜の香りがするのを使って入ってみようってことになったのね。んで、そんな私のことを真田さんはただいま満足そうに眺めているってわけ。
「真田さんは入らないの?」
「芽衣さんにお風呂でリラックスして欲しいのが目的で買ったのに俺と一緒だとそれどころじゃなくなるだろ? だから今はリラックスタイムがメイン」
ま、二人で一緒に入るのはそのうちにねと笑う。
真田さん曰く私って働きすぎなんだって。自分では学校のこともお店のこともそんなに無理しているつもりは無いんだけど真田さんから見たらそんな風に見えるらしい。だからお風呂ではゆっくりして疲れを癒しましょうってことらしくて今回のプレゼントを選んだみたい。
普段よりちょっと長めのバスタイムを楽しんだ私はパジャマに着替えて自分の部屋で真田さんが戻ってくるのを待つことにした。一人で寝るにはちょっと大きすぎるベッドの上に座ってみる。うん、座り心地もなかなかだしこっちにして良かった。
「芽衣さん、洗面所にこれの他に髭剃りもきちんと揃っていたけどあれってどうしたんだい?」
部屋に上がってきた真田さんが私が用意しておいたハンガーに服をかけながら尋ねてきた。「これ」と言うのは真田さんが着ているスエットの上下のこと。昼間に真田さんが家で来ていたのと似た感じのものを買っておいたんだ。髭剃りもその時に一緒に買ったもの。
「真田さんがお泊りするから思いつくものだけでも用意しておいたの。もし泊まれなくなっても置いておいて困るものじゃないでしょ?」
「なるほどね。だけど一つだけ足りないものがあった」
「そう? お髭剃りに使うものは揃えたつもりだったけど……」
「髭のことじゃなくてコレが無かった」
ズボンのポケットから引っ張り出したものがベッドの上に投げ置かれた。それはここ最近私達二人がひんぱんにお世話になっているものだ……。
「それを私が買うのはちょっとハードルが高いよ……」
「ちょっと?」
「ううん、かなり高い」
「だよね」
真田さんは笑いながらベッドに腰を下ろす。
「ベッドと枕の使い初めか。芽衣さんも今日が初めてなんだっけ?」
「うん。昨日まではお婆ちゃんちだったからね」
「じゃあさっそく」
そう言うといきなり私のことを押し倒した。
「あれ? 先ずはベッドの寝心地と枕の使い心地なんじゃ……?」
「それより桜餅芽衣さんの味見の方が先でしょ」
「え~~」
という訳で、その後のことはともかくとして私としては先ずは二人でベッドと枕の使い初めなんてのをするつもりでいたんだけど、真田さんにそのつもりがまったく無いだろうってことを最初から予想しておくべきだったかもしれない。
「桜のバスソルトを使わなかったらゆっくり使い初め出来たかな?」
「どうだろう。だけど桜を使うって言ったのは俺じゃなくて芽衣さんだからね」
だからきちんと責任を取ってもらわないとって意味不明な理屈を振りかざすと真田さんはさっさと桜餅の味見を始めた。新しいバスソルトのお蔭かいつもよりお肌はツルツルだし手足はしっかり温まってホカホカだし今夜の芽衣さんはいつもより美味しいかも、だって。そのせいでなのかいつもよりエッチが長くてちょっぴり激しかったかもしれない。
やっとのことで解放してくれたのはそれから一時間ぐらいしてからで私の方はすっかりクタクタ、せっかくお風呂でリラックスして取り戻した体力は早々に底を尽いちゃって意味ないじゃんと抗議したい気分。
「真田さん?」
だから一言ぐらい何か言わなきゃって見上げたんだけど、いつもならこんな時は満足げな顔をして私のことを見下ろしている筈の真田さんが何だか変な顔をしてる。
「あのさ、芽衣さん……」
「なあに?」
真田さんが口を開きかけたその時、何か下の方で音がしたような気がした。私の方は気のせいかなって思ったんだけど真田さんの方は違ったみたいで急にお巡りさんの顔に戻って私から離れた。
「どうしたの?」
「芽衣さんはここにいて。絶対に部屋を出るんじゃないよ、それと電気もこのまま消したままで」
そう言って脱ぎ捨てていたスエットの上下を素早く着ると、音をさせないようにしてドアを開けて部屋を出て行った。もしかして外で変な人でも騒いでいるのかなとそっとベッドを出て通りに面している窓から外を覗いてみたけどそこを歩いているのは三匹の野良猫ぐらいだ。急に心配になって急いでパジャマを着るとドアの方へと急いだ。
「……」
出るなって言われたんだから部屋の外に踏み出さなければ良いのよね、ドアを開けて様子を伺うぐらいなら部屋を出たことにはならないんだから問題ないよね。そう自分に言い聞かせるとドアを少しだけ開けて耳をすませた。しばらくじっとしていたけど何の音もしないしやっぱり気のせいだったんじゃないの?とブツブツ言いながら部屋を出ようとした途端に下からドスンと凄い音がして真田さんが何やら怒鳴っている声が聞こえてきた。……階段の時もそうだったけど私の「気のせい」って本当に当てにならない。
階段を降りて行くとリビングで真田さんが何かを抑え込んでいた。
「真田さん?」
私の声に振り返った真田さんはいつものお巡りさんの顔以上に怖い顔をしていてる。
「だから部屋から出るなと言っただろ」
「でも……」
「出てきたものは仕方がないな。芽衣さん110番に電話して、空き巣だ」
真田さんが抑え込んでいたのは見知らぬオジサン、いわゆる空き巣さんだった。
+++++
「警察官がいる家に空き巣に入るなんて間抜けもいいところだよな」
通報して真っ先にお店に駆け付けたのはお向かいの派出所に夜勤で来ていた吉川さんと浅井さん。そして松柴署のお巡りさん達が十分ぐらいしてやって来た。
取り押さえたのが駅前派出所勤務の真田さんで、その真田さんがここに泊まっていたと知って事情を知っている吉川さん達はともかく松柴署のお巡りさん達は何とも言えないニヤニヤ顔を抑えながら形ばかりの現場検証をしている。
「あーあー……せっかく新品のガラス戸に穴なんて」
お巡りさん達がニヤニヤして真田さんが居心地悪そうにしていることよりも問題なのはサッシに開いているこぶし大の穴の方だよ。せっかく完成したばかりだというのに腹が立つったら。
私達が最初に気が付いた物音は、空き巣オジサンが派出所からは見えない反対側の通りに面しているガラスサッシに穴を開けている時に、うっかり足元に切れ端を落としてしまった音だったみたい。玄関口の門燈もまだ点けていなかったから完全な空き家だと思ってオジサンも油断していたらしい。
「この程度で良かったじゃないか。せっかく揃えた家具や家電製品を汚されたり盗られたりしてなくて良かったと考えないと」
「それはそうなんだけどさあ……」
「じゃあ調書に関しては明日にでも改めて。どちらにしろ現役の警察官が現行犯で確保したわけだから言い逃れなんて無理な話なんだけどな」
一通りの検証が終わったところでベテランさんらしい刑事さんが真田さんに声をかけた。
「話をするのは俺だけでいいんですよね?」
「松岡さんは何も見てないんだろ? だったら真田の証言だけで問題ない、明日どこかで時間を取って話を聞かせてくれ」
「分かりました」
現場検証をしていたお巡りさんが、本当はこんなことしないんだけど松岡さんは身内だから特別だよって笑いながら、穴があいたところをボール紙で塞いで白いテープで固定してくれた。
「俺がいるときで良かったよ。しかし派出所が正面にあるのによく入る気になったものだ」
私の横で真田さんは呆れたように呟いた。
「灯台下暗しってやつじゃない?」
「にしても本当にすぐそこなのになあ」
「あ、そうだ真田さん。それでさっき私に言いかけたことは何だったの?」
現場検証も終わって帰っていく刑事さんとお巡りさん達を見送ってからそう言えばと思い出した。空き巣騒ぎで頭からすっかり抜け落ちていたけどあの時の真田さんは珍しく深刻な顔をしていたから何か重大なことを言おうとしていたと思うんだけどな。私の問い掛けに真田さんは再び凍り付いたようにその場で動かなくなった。
「ねえ、どうしたの? 何か大切なことなんだよね?」
「……芽衣さん、落ち着いて聞いてくれる?」
「うん」
ダイニングの椅子に私のことを座らせると真田さんはその向かい側の椅子に座った。怖い顔って言うより途方に暮れた顔って感じだ。
「あの、芽衣さん、落ち着いて聞いてくれる?」
「それはさっきも聞いた」
「ああ、そうだった。あのさ、言いにくい事なんだけどさ……」
あれ、なんでそこで顔が赤くなるの?
「あの、その直後に気が付いたんだけど、その、避妊してたやつ失敗したかも、しれないんだ……」
消え入りそうな声だったので最後の方が上手く聞き取れなかった。だから最初は何のことだかピンと来なくて首を傾げながら真田さんのことを見詰めていた。失敗? 避妊が?
……え?
24
あなたにおすすめの小説
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※
僕の主治医さん
鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。
【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
七海の商店街観察日誌 in 希望が丘駅前商店街
鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】
鏡野課長は松平市役所の市民課の課長さん。最近なぜか転入する住民が増えてきてお仕事倍増中。愛妻弁当がなかなか食べられない辛い毎日をおくっています。そんな一家の長女、七海ちゃんの商店街観察日誌。
☆超不定期更新の一話完結型となりますので一話ごとに完結扱いにします☆
※小説家になろうでもでも公開中※
このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -
鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。
饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。
【本編完結】【番外小話】【小ネタ】
このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
※小説家になろうでも公開中※
あかりを追う警察官 ―希望が丘駅前商店街―
饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。
国会議員の重光幸太郎先生の地元である。
『篠原豆腐店』の次男坊である籐志朗は、久しぶりに実家がある商店街に帰って来た。買い物に出た先で落とし物を拾い、落とし物を渡そうと声をかけたのだが……。
国際警察官と特殊技能持ちの女性の話。
★Rシーンはラストまで出てきません。
★タイトルに★が付いているものはヒロイン視点です。
★このお話は、鏡野ゆう様のお話である
『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
に出てくる重光先生の地元の商店街のお話であり、
『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/363162418内の『閑話 安住、ウサギ耳女に出会う』
に出てくる白崎 暁里との話です。当然のことながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関しても其々許可をいただいてから書いています。
★この物語はフィクションです。実在の人物及び団体等とは一切関係ありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる