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僕の主治医さん 第三部
おまけ 南山大使御一行様
「懐かしいわね、ここに戻ってくるの、何十年ぶりかしら」
「最初の赴任先だったから、もうかれこれ……二十年かな」
空港に降り立つと、随分と様変わりした到着ロビーを見渡した。
外交官として初めて赴任する彼についてやって来たのが、この南米の某国だった。あれから、あちらこちらの国を渡り歩き、今や裕章さんは大使となり、この国に赴任することになった。
「随分と建物が綺麗になったわね」
「うん。オリンピック開催の影響もあるみたいだよ。世界各国から人が来るから、玄関口は綺麗にしておかないとってことらしい」
とは言うものの、この国の現状が二十年前と大きく変わったのかといえば、実のところそうでもない。変わったところもあれば、変わらないところもある。それが世の中の現実だ。
「そういえば雛子さん、病院のほうの手続きはしたのかい?」
「ええ。現地邦人の診療所に、行くことになると思うわ」
「大学病院に行くと思っていたよ」
「病院の方は、若い先生にお任せ。私は経験をいかした地域医療の方が、性に合ってるの」
「なるほどね」
「二人だけの世界にひたって、私達は無視ですかー?」
少しだけ腹立たしげな声が後ろからした。振り返れば子供達が、手荷物を引きずりながら、乱暴な足取りでついてきている。
「そんなことないわよ。少しだけ懐かしいなって話をしていただけ。ねえ?」
「そうだよ。ここはお父さんが外交官として初めて赴任した国だし、お母さんと二人で新婚時代をすごした、思い出深い国でもあるからね」
「ふーん。でも、私はやっぱり日本がいいなあ」
こっちじゃ最新のアニメも見れないしと、長女の亜衣がぼやいている。
「それは当然だろ? 自分の祖国が一番いいに、決まってるじゃないか」
「日本が一番なら、わざわざ外国の大使になることなんてないのにー」
「その日本のために、外国で働いている日本人がたくさんいるだろ? その人達のために働くのが、お父さんの仕事なんだよ」
「そんなに日本が恋しいなら、お兄ちゃんと日本に残っても良かったのよ?」
そう口をはさんだら、そこまで言ってないじゃんと頬をふくらませた。
「あああ!! お父さん、私のアヒルちゃんがいない!!」
ブツブツ言っている亜衣の横で、次女の麻衣が慌てた様子で、小さなショルダーバックの中をさぐっている。
「また、どこかに出かけちゃった?!」
「よく探したの? ポケットに入ってない?」
「いないー!!」
半泣きになっている麻衣を見下ろしていた裕章さんが、笑いながら娘の前にしゃがみこんだ。そして上着の内ポケットから、アヒルを取り出すと娘に差し出す。
「やっと気がついたのか? アヒル、飛行機の椅子の下に転がってたぞ? ちゃんと世話をしなきゃ、ダメじゃないか」
「よかったー、私のアヒルちゃん!!」
黄色いアヒルのボールペンを、ひったくるように自分の手元に取り戻すと、麻衣はホッとした顔をした。
「でも、カバンの中に入れておいたのに……」
「アヒルも長い時間、せまい場所ですごすのは退屈だったんじゃないかな。私邸についたら、いつものように他のお友達と一緒に、ペン立てに入れてやりなさい」
「はーい」
「ねえ、本当に椅子の下にいたの?」
大使館の職員が迎えに来ているであろう到着ロビーに向かいながら、裕章さんにひそひそとたずねる。
「ああ。転がっていたよ。どうして?」
「昔、同じようなことがあって、その時も裕章さんが持っていたから」
「まさか僕が、黙って抜き取ったとでも?」
「アヒルが裕章さんのところに行きたがって、勝手に飛び出したとか」
その言葉に裕章さんが笑った。
「まさかそんなこと、あるわけないじゃないか。ボールペンだぞ?」
「そうなんだけどね……」
どうも我が家にやって来るアニマルボールペン達は、そろって不思議な力を持っているようで、色々と不可解なことが多いのだ。日本を出発する前に購入したあの二代目アヒルも、もしかして?なんて思ったんだけどな……。
そして私達が裕章さんについて訪れた南米某国。
数年後、私と彼がとんでもない事件に巻き込まれることになるのだけれど、それはまた別のお話。
「最初の赴任先だったから、もうかれこれ……二十年かな」
空港に降り立つと、随分と様変わりした到着ロビーを見渡した。
外交官として初めて赴任する彼についてやって来たのが、この南米の某国だった。あれから、あちらこちらの国を渡り歩き、今や裕章さんは大使となり、この国に赴任することになった。
「随分と建物が綺麗になったわね」
「うん。オリンピック開催の影響もあるみたいだよ。世界各国から人が来るから、玄関口は綺麗にしておかないとってことらしい」
とは言うものの、この国の現状が二十年前と大きく変わったのかといえば、実のところそうでもない。変わったところもあれば、変わらないところもある。それが世の中の現実だ。
「そういえば雛子さん、病院のほうの手続きはしたのかい?」
「ええ。現地邦人の診療所に、行くことになると思うわ」
「大学病院に行くと思っていたよ」
「病院の方は、若い先生にお任せ。私は経験をいかした地域医療の方が、性に合ってるの」
「なるほどね」
「二人だけの世界にひたって、私達は無視ですかー?」
少しだけ腹立たしげな声が後ろからした。振り返れば子供達が、手荷物を引きずりながら、乱暴な足取りでついてきている。
「そんなことないわよ。少しだけ懐かしいなって話をしていただけ。ねえ?」
「そうだよ。ここはお父さんが外交官として初めて赴任した国だし、お母さんと二人で新婚時代をすごした、思い出深い国でもあるからね」
「ふーん。でも、私はやっぱり日本がいいなあ」
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「それは当然だろ? 自分の祖国が一番いいに、決まってるじゃないか」
「日本が一番なら、わざわざ外国の大使になることなんてないのにー」
「その日本のために、外国で働いている日本人がたくさんいるだろ? その人達のために働くのが、お父さんの仕事なんだよ」
「そんなに日本が恋しいなら、お兄ちゃんと日本に残っても良かったのよ?」
そう口をはさんだら、そこまで言ってないじゃんと頬をふくらませた。
「あああ!! お父さん、私のアヒルちゃんがいない!!」
ブツブツ言っている亜衣の横で、次女の麻衣が慌てた様子で、小さなショルダーバックの中をさぐっている。
「また、どこかに出かけちゃった?!」
「よく探したの? ポケットに入ってない?」
「いないー!!」
半泣きになっている麻衣を見下ろしていた裕章さんが、笑いながら娘の前にしゃがみこんだ。そして上着の内ポケットから、アヒルを取り出すと娘に差し出す。
「やっと気がついたのか? アヒル、飛行機の椅子の下に転がってたぞ? ちゃんと世話をしなきゃ、ダメじゃないか」
「よかったー、私のアヒルちゃん!!」
黄色いアヒルのボールペンを、ひったくるように自分の手元に取り戻すと、麻衣はホッとした顔をした。
「でも、カバンの中に入れておいたのに……」
「アヒルも長い時間、せまい場所ですごすのは退屈だったんじゃないかな。私邸についたら、いつものように他のお友達と一緒に、ペン立てに入れてやりなさい」
「はーい」
「ねえ、本当に椅子の下にいたの?」
大使館の職員が迎えに来ているであろう到着ロビーに向かいながら、裕章さんにひそひそとたずねる。
「ああ。転がっていたよ。どうして?」
「昔、同じようなことがあって、その時も裕章さんが持っていたから」
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「そうなんだけどね……」
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